【原子力資料情報室声明】玄海町への国の文献調査申し入れに断固抗議する

2024年5月1日
NPO法人 原子力資料情報室

 経済産業省は2024年5月1日、佐賀県玄海町に対して、高レベル放射性廃棄物、いわゆる核のごみの最終処分場選定に向けた文献調査実施を受け入れるよう申し入れを行った。玄海町では4月15日に町内3団体が町議会へ文献調査実施を求める請願書を提出した。4月26日には町議会本会議で9人中賛成6、反対3でその請願が採択されていた。原発立地自治体の議会では初めてのことだ。今回の国の申し入れは、玄海町の脇山伸太郎町長に調査受け入れを促す狙いがあるものとみられる。原子力資料情報室は3つの懸念から、これに断固抗議し、即時の撤回を求める。
 第一に、周辺自治体や県外からの反対の声に対する不当な抑圧につながる懸念がある。これまで町議会や町役場に対し、唐津市など近隣自治体の市民団体から受け入れ反対の要望書が提出されていた。町議会前の抗議行動には福岡県などからの参加もあった。佐賀県の山口祥義知事や長崎県の大石賢吾知事も反対の立場を表明している。このような反対の声が強い中、国が申し入れを行うことは地域社会の対立を悪化させる可能性が高い。
 第二に、玄海町議会の不十分な議論と拙速な意思決定に対する懸念だ。町議会は、経産省や事業者の原子力発電環境整備機構(NUMO)の担当者を参考人として招致して説明を受ける一方、地層処分に批判的な専門家は招致せず、請願提出からわずか11日で採決を行った。去年8月、同じく文献調査の請願を審議していた長崎県対馬市議会が批判的な専門家も招致し、採決までに数カ月にわたり議論したことと対照的だ。このような拙速な意思決定が行える背景には、原発に対する受容性が高く、原子力政策に反対の声を上げづらい原発立地自治体特有の事情もあるだろう。それを好機ととらえ、申し入れを行った国の態度はあまりにも安直と言える。無責任の誹りは免れない。
 第三に、玄海町での地層処分に対する安全性への懸念がある。国が作成した「科学的特性マップ」では、玄海町のほとんどの地域が鉱物資源の存在が認められるグレーに色分けされている。つまり、石炭が埋蔵され採掘可能性があるため、地層処分の適性が相対的に低いことがすでに分かっている。経済産業省は採掘埋蔵量が現在の経済的価値を有するのか正確に調査したいとの立場であると推測される。去年11月に作成された国の「文献調査段階の評価の考え方」では、現在の経済的価値に基づき鉱物の採掘可能性を判断すると規定しているからだ。
 しかし、そもそも経済的価値のみで、地下の鉱物資源に対する地層処分の安全性の判断をすることが間違っている。かつて日本各地の炭鉱ではメタンガスの事故が続発した。安全性が第一の核ごみ処分では、地下に鉱物資源が存在することで生じる独自の安全性への懸念を評価基準に含めるべきだ。厳格な安全基準を定めていれば、玄海町は地層処分の候補地から外れるはずの地域である。玄海町が候補地となり得ること自体がそもそも安全性への軽視を証明している。
 国は、調査受け入れ地域に対し、敬意や感謝の念が国民に共有されることが必要だと主張してきた。だが、今回の申し入れにより、またも国は、緩い安全基準の下、交付金という金銭的便益による誘導と拙速な議論で処分場の調査を推進し、地域の分断を煽ってきた悪しき慣習を繰り返そうとしている。核ごみ処分に対する国民的な関心の喚起はせず、経済の衰退に悩む地域や原発立地地域に問題を押しつけようとする国の本音が表れている。その代償が、民主主義の無視と安全性への軽視と私たちの電気料金からなる調査費用の無駄使いである。当室は、政府に対し、申し入れの即時撤回を要求し、処分場政策の根本的な政策変更に向けた議論の再検討を要請する。


以上

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