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原子力資料情報室通信339号(2002/8/30)より

セラフィールド再処理工場周辺の小児白血病リスクの増加
父親の放射線被曝労働の影響を再確認

上澤千尋

 今年3月26日、国際的なガン研究の専門誌(International Journal of Cancer, pp.437-444, vol.99, 2002)に、英国セラフィールド再処理工場の男性労働者の被曝とその子どもたちに白血病および非ホジキン性リンパ腫(ガンの一種)の発症率が高いことの間に強い関連性がある、という内容の論文が掲載された。研究結果を発表したのは、ニューキャッスル大学北イングランド小児ガン研究部会の、ヘザー・ディキンソンとルイーズ・パーカー両研究員である。
 その後『ニュー・サイエンティスト』誌6月20日号にも紹介された研究の結論は、セラフィールド再処理工場があるカンブリア地方の白血病および非ホジキン性リンパ腫の発症率に比べて、再処理工場労働者のうちシースケール村外に居住する労働者の子どもたちの発症リスクは2倍であり、さらに工場にごく近いシースケール村で1950年〜1991年の間に産まれた7歳以下の子どもたちのリスクは15倍にも及ぶ、というものである。
 今回の調査は、1990年のマーティン・ガードナー教授(元サザンプトン大、故人)らによる、母親の妊娠前に父親がセラフィールド工場で働き放射線被曝を受けていたことが、子どもたちの白血病および非ホジキン性リンパ腫のリスク因子である、という仮説(Gardner et al., Results of a case-control study of Leukaemia and lymphoma among young people near Sellafield nuclear plant in West Cumbria, British Medical Journal, pp. 429-434, vol. 300, 1990)が、あらためて確認されたといえよう。またディキンソンとパーカー2人の著者の研究はより広い時間的、地理的範囲で調査を行なっており、ガードナー教授が当初発表した、セラフィールド再処理工場で作業をする男性労働者を親に持つ子どもたちのガン発症リスクが親の被曝線量に応じて高くなる、ということも確認している。
 なおディキンソン氏とパーカー氏の研究には、英国核燃料公社(BNFL)が資金を出しているウエスト・レイク研究所からも援助が出ているということである。論文の内容をごく簡単に紹介する。

調査対象と方法
 2人の著者が調査対象としたのは、1951年1月1日から1991年12月31日の間にカンブリア地方に住む母親から正常出産により生まれた子どもたち274,170人である。子どもたちを図1に示すようなグループ分けによって、解析の対象となるコホート(調査対象集団のこと)を設定した。さらに、年代別(1950〜1968年までと1969〜1991年まで)、年齢層別(0〜6歳、7〜24歳)により細かいグループに分けた調査も行なっている。
 子どもたちについて、1991年まで追跡調査を行ない、死亡、英国から他国への移住、白血病ないしは非ホジキン性リンパ腫の発病(診断)、25歳の誕生日を迎えるのいずれかのうち、最初に確認された事柄を記録している。これにより「幼・青年期年数」を算出し、その期間あたりの発ガンのリスクを計算したものだ準備中(表1)
 著者らの研究目的は、(1)セラフィールド再処理工場の男性作業員を父親に持つ子どもたちと、セラフィールドでは一度も働いたことのない男性を父親に持つ子たちの、それぞれの白血病及び非ホジキン性リンパ腫の発症率を、人口統計学的要因(人口の流出入による要因など)を考慮した調整を行なった場合と行なわない場合、それぞれの事例のもとで比較する、(2)白血病および非ホジキン性リンパ腫の発症率が増加していたことが、母親の妊娠前における父親の被曝線量(外部被曝および内部被曝)と相関があるかを評価する、(3)また、そのような関連性は、人口統計学的要因によって説明されうるか、さらにシースケール村の子どもたちのみに限られたものであるかを調べる、ということである。

結論とその意味
 調査結果の一部を準備中表2に示す。原論文には、発症率、発症率比のほかに、95%信頼区間とp値(有意確率)の計算結果が報告されているが、ここでは省略した。発症率は、100,000「幼・青年期年数」あたりの発症患者数で表されている。
 放射線作業労働者の子どもたちは、セラフィールドの再処理工場で1度も働いたことがない男性の子どもたち(非セラフィールド・コホート)に比べて、1.9倍の白血病および非ホジキン性リンパ腫の発症率であることが認められた。そのうち、再処理工場労働者が多く居住するシースケール村の子どもたちの発症率は、非セラフィールド・コホートの9.2倍であり、とくに、7歳未満の子どもたちの発症率は15.0倍にもなることが示されている。
 論文の著者らは、得られたデータに人口統計学的補正を施せば、これらのリスク過剰が人口の流出入に対する要因によって説明できると、言葉では結論するが、データから見るかぎり説得力がない。もとより被曝の要因を否定するものとはいえない。シースケール村では、母親の妊娠前における父親の被曝と人口の流出入による人口の混合率とが関連するからである。
 母親の妊娠前における父親の被曝線量と小児白血病との関連性もはっきり現れている。
 100mSvごとのリスクの見積もりでは、放射線作業労働者コホートにおいて白血病発症リスクは1.6倍、シースケール村内のコホートについては2.0倍のリスクが有意なレベルで確認された、と報告している。