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投稿者: ゲスト 投稿日時: 2005/8/22 16:14:22 (23694 ヒット)

低線量被曝でも発がんリスク―米科学アカデミーが「放射線に、安全な量はない」と結論―


 米国科学アカデミーは、「放射線被曝には、これ以下なら安全」といえる量はないという内容のBEIR-VII(Biological Effects of Ionizing Radiation-VII、電離放射線の生物学的影響に関する第7報告)を発表した( http://www4.nationalacademies.org/news.nsf/isbn/030909156X?OpenDocumenthttp://books.nap.edu/catalog/11340.html )。報告書は、放射線被曝は低線量でも発がんリスクがあり、放射線業務従事者の線量限度である5年間で100ミリシーベルトの被曝でも約1%の人が放射線に起因するがんになる、とまとめている。

 また、BEIR委員でもあり、仏リヨンにある国際がん研究機関所属のE.カーディスらが中心になってまとめた15カ国の原子力施設労働者の調査が、「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」誌2005年6月29日号に掲載された( http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/331/7508/77?ehom )。この調査でも、線量限度以下の低線量被曝で、がん死のリスクが高まることが明らかになった。

 これらの調査結果は、とくに新しいものではなく、これまで私たちが主張してきたことである。しかし、低線量被曝の人体への影響をめぐっては、原子力の体制派から「自然放射線レベルの線量リスクはとるに足らない」とか「低線量の被曝は免疫力を高め、むしろ健康のためになる」などの強い主張があった。米国科学アカデミーの電離放射線による生物学的影響に関する調査委員会がBEIR-VII報告としてまとめた内容が、これらの主張を否定したことに大きな意義がある。これから発行されようとしている国際防護委員会(ICRP)勧告や国連科学委員会(UNSCEAR)報告にも大きな影響を与えるだろう。


■BEIR-VII報告

 この報告は米国科学アカデミーから出版される、放射線の健康影響に関するシリーズの7番目のもので、報告書の全体は733ページにもおよぶ。低線量電離放射線の被曝に対するがんやその他の健康影響に対する総合的なリスク評価を行なっている。

 エックス線やガンマ線など低LET(Linear Energy Transfer)放射線(放射線の飛程に沿う電離密度の小さい放射線)による低線量放射線被曝でもがんなど健康障害を起こす可能性があることを認めた。BEIR委員会は、低線量を0〜約100ミリシーベルト程度までと定義し、この線量域での被曝によるリスク推定は「しきい値なしの直線モデル」が妥当としている。

 これまで、このモデルに関しての議論は多く、一方では放射線の影響を過大評価しているとされ、他方では過小評価であるとされていたが、BEIR-VII報告ではこのモデルが最もすぐれていると結論した。

 「しきい値なしの直線モデル」は、広島・長崎の被爆者生涯追跡調査の結果から引き出されたものだ。この追跡調査は開始して50年以上になるが、被爆による年間過剰死亡数は増え続けている。2003年に発行された同調査の13報では、2015年前後にピークになるだろうと予測されている。

 これまでアルファ線など高LET放射線に比べて、低LET放射線は細胞を通過するとエネルギーが減り、放射線の飛程ごとに破壊力は減少すると考えられてきたが、分子生物学や生物物理学の発達により、そうではないことがだんだん明らかになってきた。とくに、最近明らかになってきた遺伝子の不安定性やバイスタンダー効果などの現象の生体への影響は、わずかしか起こらなくてもがんなどの健康影響にかかわることが予測される。これらの分子の変化のいくつかは複雑で、身体の修復メカニズムを正しくすることは困難かもしれないとしている。

健康障害のリスク評価

 BEIR委員会のリスク推定によれば、もし100人がそれぞれ100ミリシーベルト被曝すると、そのなかの1人が放射線被曝による白血病か固形がんになる可能性があり、42人が他の原因で白血病か固形がんになると計算している。これらのがんのうち約50%が致死性である。

 BEIR委員会は、このほか女性の乳がんおよび甲状腺がんのリスクを推定するため、医療被曝群のデータを取り入れた。医療被曝や原発労働者の調査データに基づくリスク推定に関しても、「しきい値なしの直線モデル」が当てはまるとしている。
 これまで、原爆被爆2世に放射線影響は見つかっていないとされてきた。しかし、ネズミやその他の動物実験では、放射線被曝による精子や卵子の突然変異が子孫に伝わるというたくさんのデータが出てきた。広島・長崎の被爆2世にそれが見つからなかったのは、単に調査対象数が少なすぎただけで、これが人間には起きないという理由はない、と報告している。

 CT検査を受けた人、とくに子どもおよび診断のための心臓カテーテルや肺の発達を検査するために頻繁にエックス線検査を受けた小児の追跡調査を行なうべきとも言っている。CT検査はしばしば全身を検査されるため、通常のエックス線検査よりも高線量の被曝を受けることになる(装置によるちがいはあるが、患者の体表面の(皮膚)線量は、1スライス当たり約10ミリシーベルト)。
 低線量放射線とがん以外の病気に関しては、線量効果の可能性の評価をする前に、さらにデータが必要としている。そのほか、DNA修復、放射線過敏症、バイスタンダー効果、遺伝子不安定性など、さまざまな研究の継続が必要としている。

 人は宇宙線、地面、食物、飲料水、呼吸することなどから自然放射線を受けていて、これによる被曝は全被曝線量の82%になる。米国では人工放射線被曝は残りの18%を占めており、このうち診断用エックス線、核医学など医療被曝が79%、タバコ、水道水、建築物などからの被曝が16%、職業被曝、放射性降下物、原発など核燃料の使用によるものが5%であるとしている。

 公衆の年間被曝限度は1ミリシーベルト、胸のエックス線撮影は0.1ミリシーベルト、米国国民が1年間に自然放射線から受ける被曝量は3ミリシーベルト。

 被曝量を増やす要因として、医療被曝の増加、放射性物質の使用、喫煙などをあげている。


■国際がん研究機関による報告
(「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」に掲載)

 国際がん研究機関から発表された「低線量電離放射線による発がんリスク:15カ国の原子力施設労働者の調査」は、放射線従事者を対象に、被曝線量とがんリスクとの関係を統計的に調査したもので、国際基準で許容されている上限値(5年間で100ミリシーベルト)まで被曝した場合、がんによる死亡率が約10%増加することがわかった。

 調査対象國は、表1に示した。15カ国の59万8,068人の原子力施設の労働者のうち1年以上原子力施設で働き、外部被曝線量記録がはっきりしている40万7,391人で、集団の90%は男性。追跡調査を含めて、約520万人・年分の調査を行なった。これまでの原子力施設労働者の調査では最大規模である。

 調査は、持続的に低線量被曝を受けた場合のがんリスクを評価し、環境、職業、医療診断からの被曝放射線基準の科学的根拠を強化することを目的として行なわれた。

 被曝線量は、集団の90%は50ミリシーベルト以下、500ミリシーベルト以上被曝した人は0.1%以下で、個人の被曝累積線量の平均は19.4ミリシーベルト。

 調査期間中の全死亡数は2万4,158人、白血病を除く全がん死は6,519人、慢性リンパ性白血病を除く白血病による死は196人。
 シーベルト当たりの過剰相対リスクは、白血病を除く全がん死は0.97、1シーベルト被曝すると、白血病を除く全がん死のリスクが被曝していない人の約2倍になる。慢性リンパ性白血病を除く白血病死は1.93、1シーベルト被曝すると、白血病のリスクが被曝していない人の約3倍になる。

 この調査結果から計算すると、白血病を除く全がん死のリスク推定よりも2〜3倍高い。
 ICRPは職業被曝限度を5年間で100ミリシーベルトを超えず、1年間に50ミリシーベルトを超えないようにと勧告している。公衆の年間被曝限度は1ミリシーベルト。

 この調査結果から100ミリシーベルト被曝すると白血病を除く全がん死のリスクが9.7%増加し、慢性リンパ性白血病を除く白血病で死亡するリスクは19%増加する。これらの結果から計算すると、このコホートの中でがん死した人の1〜2%は放射線が原因と考えられる。


 2001年に発行される予定だったBEIR-VIIの発行が遅れた背景には、原爆被爆者に増加し続けているがんやがん以外の病気などをどう評価するか、またバイスタンダー効果やゲノム不安定性などがどのように低線量のリスク評価に影響するのかなど大きな問題があった。もちろん、原子力産業界からの圧力もあっただろう。BEIR委員会には原子力体制派も含む幅広い立場の人が参加していて、激しい議論があったことが想像できる。

 本誌でもたびたびお伝えしてきたが、日本でも原子力安全委員会が組織した放射線障害防止基本専門部会の低線量放射線影響分科会で、2001年9月から04年3月まで、低線量放射線リスクに関する専門家による検討会があった。新たにわかってきた現象などについても議論されたが、一部の委員の感情的な議論に終始した。各委員がどのように考えているか率直に発言し、内容を深めてほしかった。結局、「生物の放射線応答メカニズムの研究とリスク評価は分けて考えるべきだ」ということで、この会議の報告書(案)は棚上げされたままで正式な報告書にもなっていない。

 15カ国の調査で使われた日本のデータは「原子力発電施設等放射線業務従事者に係る疫学調査」(第I期)だった。新しいII期調査のデータを提供すべきだったと思う。

(渡辺美紀子)……『原子力資料情報室通信』374号より(図表は略)

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