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トリチウム(水素-3、3H)

この項の参考資料として、上澤千尋「福島第一原発のトリチウム汚染水」『科学』Vol.83, No.5(2013) pp.504-507掲載を岩波書店の許諾により公開しております。

半減期 12.3年

崩壊方式
非常に低いエネルギーのベータ線を放出して、ヘリウム-3(3He)となる。

生成と存在
水素の放射性同位体(記号Tで表わす)。天然に存在する人工放射能の一つ。大気中の窒素・酸素と宇宙線の反応で生成し、地球上の天然でつくられる分の存在量は96京ベクレル (9.6×1017Bq) と推定されている。現在の降雨中の濃度は1~3ベクレル/リットルであるが、核兵器爆発の前は0.2~1ベクレル/リットルであった。
人工的には、リチウム-6(6Li、同位体存在比7.5%)と中性子の反応でつくられる。1954年3月1日にビキニ環礁でアメリカが実施した水爆実験では、2.0京ベクレル (2.0×1016Bq)以上が大気中に放出された。この爆弾の中では、リチウム-6からトリチウムがつくられていた。頻繁におこなわれた大気圏内核実験の影響が大きかった1960年代半ばの降雨中の濃度は100ベクレル/リットルになっていた。
ウラン-235(235U、7.04億年)とプルトニウム-239(239Pu、2.41万年)が中性子と反応した時に起こる三体核分裂(二つの大きな原子核と一つの小さな原子核が生成する現象)によっても生じる。
原子炉内では、リチウムのような軽い元素と中性子の反応および三体核分裂によって生じる。電気出力100万kWの軽水炉を1年間運転すると、原子炉ごとに異なるが、加圧水型軽水炉内には約200兆ベクレル(2×1014Bq)、沸騰水型軽水炉では約20兆ベクレル(2×1013Bq)が蓄積する。
水素の中に0.015%が含まれる重水素(2H、記号Dで表わす)の中性子捕獲でも生成するが、軽水炉内でのトリチウム生成への寄与は小さい。ただし、カナダで開発されて韓国に導入されているCANDU (Canada Deuterium oxide- Uranium) 炉では重水(D2O)を減速材としているために軽水炉の場合より大量のトリチウムが生じる。

化学的、生物学的性質
単体の水素は、アンモニアの製造に用いられる。工業的に広く利用されている可燃性のガスで、最近はエネルギー問題との関係で注目されている。水素は、多くの化合物に含まれているが、もっとも身近にあって、重要な化合物は水である。体内でも、主に水として代謝される。
水素ガスが肺に入った時は、0.005%しか吸収されないが、気体の水は100%が体内に取り込まれる。体内に取り込まれたものは約2ヶ月の間に排出される。
体内に入っている水素は全身に分布し、特定の器官には濃縮されない。成人の体内にある水素の量は7㎏、水の量は42㎏、水素の1日の摂取量は0.35㎏である。

生体に対する影響
放出されるベータ線は水中で0.01mmまでしか届かない。体内取り込みによる内部被曝が問題になる。10,000ベクレルを含む水を経口摂取した時の実効線量は0.00018ミリシーベルト、10,000ベクレルを含む水素ガスを吸入した時の実効線量は0.000000018ミリシーベルトになる。2つの間に10,000倍の差がある。
最近の雨水中のトリチウム濃度を2ベクレル/リットルとして、この水を1年間摂取すると、実効線量は約0.00004ミリシーベルトになる。ふつうの人がトリチウムによって受ける年間実効線量はこの程度であろう。

核融合炉の実現
核融合によるエネルギー生成が話題になってから50年が経過している。核融合発電には、トリチウムと重水素の反応(T-D反応)を用いねばならない。電気出力100万kWの核融合炉を1年間運転するには、130㎏(4,700京ベクレル、4.7×1019Bq)のトリチウムが必要になる。この量はあまりにも大きい。核融合炉の実現には多くの技術的問題があるが、トリチウムの製造と取扱いを考えただけでも核融合炉の実現は難しい。

再処理工場からの放出
六ヶ所村では、年間800tの使用済核燃料を処理する予定で、排水中に1.8京ベクレル(1.8×1016Bq)、排気中に1,900兆ベクレル(1.9×1015Bq)が放出されるとしている。放出される水を摂取しても大きな被曝線量にはならないとしても、このような放出はよいことではない。

放射能の測定
水試料では、10cc程度をシンチレーター溶液と混ぜ、液体シンチレーション計数装置で測定するのがふつうの方法である。他の試料では、シンチレーター溶液に溶ける形にせねばならない。低濃度試料では電解法による同位体濃縮をおこなう必要がある。トリチウムの崩壊で生じるヘリウム-3を測定する方法は高感度であるが、結果が出るまでに数ヶ月かかるのが問題である。体内にある量を知るには、尿中の放射能を測定するバイオアッセイを用いる。

放射線エネルギー(100万電子ボルト) ベータ線, 0.0186(100%)
比放射能(ベクレル/g) 3.6×1014
排気中又は空気中濃度限度(水、ベクレル/cm3) 5×10-3
排液中又は排水中濃度限度(水、ベクレル/cm3) 6×101
吸入摂取した場合の実効線量係数(水素ガス、ミリシーベルト/ベクレル) 1.8×10-12
吸入摂取した場合の実効線量係数(メタン、ミリシーベルト/ベクレル) 1.8×10-10
経口摂取した場合の実効線量係数(水、ミリシーベルト/ベクレル) 1.8×10-8