原子力安全委員会委員長 松浦祥次郎殿
2000年5月8日
JCO臨界事故総合評価会議
(事務局=原子力資料情報室・原水爆禁止日本国民会議)
JCO臨界事故に関する再質問状
当評価会議においては、2月24日に開催された「第二回地方原子力安全委員会」に参加し、JCO臨界事故について原子力安全委員会と討論を行ないました。ただ討論のための時間を十分に確保するという前提が守られなかったため、当評価会議の提起した全ての論点について充分な議論を行なうことができず、積み残した事柄が多くありました。また討論において松浦委員長自身、ウラン加工工場臨界事故調査委員会(事故調)の調査は不十分でありむしろ対策用であったと、調査の不十分さを認められましたが、であればなおのこと、いまだ解明されていない多くの事柄について安全委員会としての見解を明らかにされるべきです。討論において詳しい回答を得られなかった事柄、および討論の結果あらたに生じた疑問について、以下のとおり再質問としてまとめ、提出したします。ご検討のうえ、5月末日までに文書回答されますようお願いいたします。
[1] 事故調では沈殿槽に投入されたウラン量を16.6kgと判断しており、安全委員会は討論においてもその見解を踏襲しました。その場合、JCOの作業員が14.5kgないし15.1kgを指示する作業指示書(製品溶解パラメータシート等)に違反して16.6kgを投入したことになります。その問題について事故調報告書では解明されておらず、討論においても、投入量は事故の本質に影響しないという発言がありました。この問題が本質に影響せず、解明しないでよいと今も考えていますか。またその理由は何ですか。「投入ウラン量を正確に知るとは事故の本質を解明する上で必要ではない」といった趣旨の発言が金川安全委員からありましたが、それでは安全委員会は「事故の本質」はどこにあると考えていますか。またそのような「本質」はどのような調査・考慮によって導かれたものですか。
[2] 作業員が沈殿槽を用いたこと(沈殿槽にウラン溶液を投入したこと)の動機・理由は、「細かいこと」「結論に影響を与えない事柄」とは言えないはずですが、これについてさらに検討しなくてよいと今も考えていますか。その理由は何ですか。
[3] JCOにおける「常陽」第4次、第6次製造で貯塔を使用したか否かについて、使用していないというJCOの説明を安全委として現在どのように考えていますか。「常陽」第7次製造開始前の1995年9月8日のJCO社内の安全専門委員会に提出された資料で「実態」として均質化に貯塔を使用していることとの関係を、安全委員会として現在どのように考えていますか。
[4] 高い濃度のウラン溶液を、再溶解・混合均一化工程で取り扱ったことが、事故の背景にあったと考えられますが、安全審査では濃度をはじめとする運転条件について詳細に配慮した形跡がなく、討論でも金川委員から「濃度についてどこまでのことを想定すべきか」と反対の問題提起をされました。しかし安全審査等においては濃度など運転条件に関して厳密な把握を行なうべきであり、「どこまで」以前に、許可された条件でのあらゆる濃度を想定して検討を行なうべきであると考えられますが、その点について原子力安全委員会として現在、どう考えていますか。
[5] 溶解塔はもともと精製工程において最初に用いられる容器であり、精製後の再溶解に流用する際には入念な洗浄が必要となります。このような流用を認めるならば、洗浄の手間を省くためにバケツ使用など他の手段を用いることを促す可能性があり、実際にそうなりました。しかし当時の安全審査でその可能性の問題が検討された形跡はありません。この問題について、原子力安全委員会として妥当であったと考えていますか。
[6] 安全委員会による安全審査(加工事業変更許可)においては、混合均一化工程およびそのための貯塔流用を認めていませんが、科学技術庁(当時)は設工認で貯塔の使用を認可しています。これは実際には混合均質化以外には使用理由は考え難いものです。とすれば、原子力安全委員会の安全審査がその後の科学技術庁の認可で覆されたことになると考えられますが、この経緯について安全委員会として現在問題ないと考えていますか。
[7] 4月23日に行なわれたJCOの刑事裁判の冒頭陳述及び検察官が紹介した越島前事業所長の供述調書によれば、JCOは転換試験棟の加工事業許可の際の原子力安全委員会の安全審査で、工程全体で1バッチしか取り扱わないとの「1バッチ縛り」が要求された際、そのようなことをしては効率が悪いので到底受け入れられないと考えたが許可のために形だけ受け入れるように指示があり、最初から操業時には「1バッチ縛り」は無視するつもりで安全委員会に対しては受け入れると嘘を言ったと明言しているとのことです。事故調の最終報告書でもここまでの事実は前提にしていませんが、原子力安全委員会はこの新事実を受けて、このような確信犯的な事業者が現実に存在することを前提に、安全審査のあり方をどのように改めるのか、実効性のある対策を具体的に示して下さい。
[8] 科学技術庁(当時)による1987年1月21日の保安規定遵守状況検査および、1998年4月から6月の運転管理専門官の巡視において、JCOの操業実態がいかに把握され、或いは看過されたかは、事故に至る経緯を知る上で重要であり、安全委としても無関心であってよいとは思われませんが、安全委員会としてはこの件について独自の確認を行ないましたか。またこの点について現在どう考えていますか。
[9] 沈殿槽に入っていた溶液の分析と結果の解析が事故の実態を知るにはもっとも重要であることは明らかです。しかるに十分な調査を行なわず、核燃料サイクル開発機構東海再処理工場において溶液を再処理してしまったことは妥当性を欠いており、討論でもその点を指摘しましたが、明確な回答は得られませんでした。安全委員会として、再処理の実行は適当と考えていますか。また、再処理前に核燃料サイクル開発機構もしくは他の機関が再処理前に当該ウラン溶液の分析を行なった可能性がありますが、原子力安全委員会としてその点について把握していますか。もし再処理前に分析が行なわれたのであれば、その内容は事故の核心にかかわるものとして広く公開されるべきと考えますが、安全委員会としてどう考えていますか。
[10] 事故の際に放出される揮発性放射能の量を知ることは事故の影響を評価する上で重要です。環境中に放出された放射性希ガスの量は正確には定量されていません。放出量を知るための有効な手段の一つは、沈殿槽内溶液中に残っている放射性クリプトンの崩壊生成物である89Sr,90Srおよび91Yの定量です。放射性クリプトンが放出されたために、89Sr,90Srおよび91Yの量が溶液中で減少しているはずだからです。このような、沈殿槽に入っていた溶液に含まれるβ線放射体の定量・分析が不要であるとの発言がありましたが、それは何故ですか。またこの発言を妥当だと考えていますか。
[11] 転換試験棟の核燃料物質加工施設としての適格性について、討論において指摘したとおり、独立した放射線管理室、専用の入口および独立の排気設備をもたない施設は核燃料加工施設としては不適当なものであり、安全審査の際に問題になるべきだと考えます。なぜこのような施設が許可されたのか、安全委員会としてどう考えていますか。「経営の微細構造まで安全審査では実は見ていないと私は思っています」との金川委員の発言がありましたが、この発言が妥当であると考えていますか。
[12] 事故調に、核燃料サイクル開発機構(旧動力炉・核燃料開発事業団)から委員を入れたことについて、松浦委員長は「重要なことなので今後は注意したい」と述べ、改善を約しました。これを実現するためには、具体的な基準と手続きが必要と考えられますが、独立性を担保するためのどのような仕組みを作る考えですか。
[13] 安全委員会の部会のもとで具体的な審議を行なう、いわゆるナンバー部会について、現状では全文議事録が公開されていないことから、討論ではその公開を要求しました。この点について、今後はナンバー部会の議事録を公開されますか。また今後、広く情報公開の強化をどのように進展させるかを具体的に示して下さい。
[14] 事故調報告書の「委員長所感」が報告書に収録されていますが、この「委員長所感」では、「直接の原因は全て作業者の行為にある」としています。報告書に収録し、そのまとめとして用いた以上、事故調査委員会としてその見解を共有していると考えられますが、この「委員長所感」について安全委員会としては現在どう評価していますか。現在も、原因と責任は作業者にあると考えていますか。
[15] この討論会を安全委員会は、今後行なうべきことを洗い出す機会と位置付けていました。そして実際に討論では、色々な問題点が洗い出されたと考えます。しかし討論直後の3月5日、「第二回地方原子力安全委員会の開催について」を議題として開かれた安全委員会本会議では、実質的な議論は全く行なわれませんでした。その後も具体的な反映がなされた様子は伺えません。この程発表された『原子力安全白書』2000年版では「自己点検」を掲げていますが、安全委員会では討論を受けて、どのような事柄を今後の課題として把握していますか。またそれらの事柄をどのように検討し今後のあり方に具体的に活かそうとしていますか。
[16] 今回の討論は、事前に要請していた共催の公開討論会の形ではなく、また不十分な時間しか準備されませんでした。そして実際に、臨界事故について必要な議論が全て尽くされたわけではありませんでした。私たちは再度、原子力安全委員会との討論を行なうことを希望します。安全委員会として、今後も開かれた場での討論を行なう用意があるという姿勢と理解していますが、いつどのように実現されますか。またそのような場や、今後の地方原子力安全委員会などにおいて、討論時間を充分に確保する用意がありますか。それは具体的にどのように保証されますか。
以上
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