梅田さんの労災補償不支給決定 被曝した敦賀原発の現場の調査はないまま

『原子力資料情報室通信』第437号(2010/11/1)より

梅田さんの労災補償不支給決定
被曝した敦賀原発の現場の調査はないまま

 30年前に島根原発と敦賀原発で定検工事に従事し、心筋梗塞で労災申請していた梅田隆亮さん(福岡在住)に、島根労働基準監督署は9月14日、福岡労働局に呼んで補償の不支給を通知した。梅田さんに発症した「心筋梗塞は、原子力発電所の業務に起因したとは言えないと判断することが妥当である」、生活習慣病であると結論された。
 梅田さんに関する検討は7月7日で終了し、「梅田隆亮に発症した心筋梗塞の業務上外に関する検討会報告書」は、8月13日に出ている。梅田さん本人にはさらに1ヵ月後の通知だった。

開示された検討会資料

 梅田さんは、これまで島根労働基準監督署の聞き取り調査や厚生労働省労働基準局の担当者に、汚染のきびしい作業現場で全面マスクをはずして作業せざるをえなかったことがあったことなど、被曝の状況について話をしてきた。これらの話や申し立てで主張してきたことがどのようにまとめられ、「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」(梅田さんについては2009.12.25、2010.3.8、4.28、6.1、7.7の計5回)に提出されているのか確認したいという思いで、2月8日の厚生労働省に対する申し立てのときから、資料の開示を請求し続けてきた。9月21日に島根労働局から発送された大部の資料が、ようやく梅田さんのもとに届いた。
 届いた資料は、検討された疫学論文も含む300枚もの大部におよぶものであるが、全体の目録もなく、頁数も示されていないものも多いので不明の部分がある。梅田さんが求めていた資料は送付されたものの中には見当たらない。

高い線量率のもとでの作業

 私たちは、2月8日の厚労省交渉のとき、梅田さんは1日1ミリシーベルトという計画線量に近い被曝を1時間で浴びてしまうような労働環境で作業をしたことがある事実を指摘した。梅田さんは、敦賀原発では炉心近くで鉛板の補繕溶接などの仕事をした。
 その期間のポケット線量計による外部被曝線量測定の合計値は8.31ミリシーベルト、同期間のフィルムバッジでの測定値は7.4ミリシーベルトとなっている。6月7日は55分間で0.70ミリシーベルト、6月9日には1時間で0.70ミリシーベルトと、短時間で計画線量に近い線量を被曝している(表参照)。梅田さんが放射能汚染がかなりきびしい、高い線量率のもとで作業をしていたことは明らかだ。

梅田さんの敦賀原発での外部被曝線量(ポケット線量計による)

 放射線管理手帳や台帳に記載されていない「管理されない被曝」があったのか否かについて、報告書には「事故的な被ばくは認められない」と結論が書かれている。このことは梅田さんについての第1回目(2009年12月25日)検討会資料に記載されていて、その後の検討会資料には、梅田さんが要請した作業環境などの具体的な追加調査についての記載はない。
 30年前、1970年代後半から80年代にかけて、原発労働者の被曝はピークに達し、非常にきびしい状況にあった。定期検査の現場での作業は、「事故的」でなくても日常的に被曝を伴う。梅田さんが作業した炉心付近などでは、労働者は当然きびしい被曝を強いられる。調査もしないまま、なぜ管理されない被曝はなかったと断言できるのか!?
 2008年に梅田さんが行なった申し立てに対して、経済産業省原子力施設安全情報申告調査委員会が行なった調査は、報告「中国電力?島根原子力発電所1号機における作業員の被ばくに関する申告について」にまとめられている。報告書は、「申告者が指摘するチェック項目がなく事実確認ができなかった」と結果をまとめている。プラントメーカーの回答は「当該事実を確認できるような昭和54年当時の作業記録は存在しない」である。検討会は、「事実が確認できなかった」と「記録が存在しない」ことをもって「事故的な被ばくは認められない」としてしまっている。敦賀原発については、梅田さんの申し立てに対する調査は何も行なわれていない。再度、調査を求めたい。
 検討会報告書「放射線被ばくと心疾患との関連について―文献調査を中心にして」では、結論として「広島長崎の原爆被爆者の疫学調査結果からは、心疾患の低線量被ばくによる関連性および線量反応関係に関しては、しきい線量がないということも、約0.5シーベルトのしきい線量もあることが示唆されている。しかし、低線量被ばくによる細胞および組織レベルのメカニズムが明らかでないこと、心疾患に関しては、多くの交絡因子が存在することから本検討会では、ICRP(国際放射線防護委員会)の結論を尊重し、『100ミリシーベルト以下の放射線被ばくでは、心疾患の発生に放射線被ばくはほとんど関係していない』と判断する。仮に関係しているとしても、他の喫煙や生活習慣の寄与のほうが大きいと判断する。」と述べている。
 ICRP2007年勧告では、「入手できるデータでは100ミリシーベルトを下回る放射線量による損害の推定には非がん疾患は考慮されていないと判断する」とあるが、100ミリシーベルトよりずっと低い線量で有意性が認められる疫学調査があり、過小評価といわざるをえない。
 私たちは、これまで2004年に多発性骨髄腫で労災補償を勝ち取った長尾光明さん、2008年に悪性リンパ腫で認定された喜友名正さんの支援を通して、被曝の実態を学んできた。長尾さんは、原発で働くようになってかぜがなかなか治らなくなった。自分は現場監督という恵まれた立場だったから、しばらく地熱発電所で働き、その近くの温泉でかなりの期間療養してようやく治ったという。原発の労働者は病気にかかっても治らないまま働き続けていると、若い人の健康をいつも心配していた。喜友名正さんも、たくさん食べる人だったが、原発で働き始めてからみるみる食欲がなくなり健康ではなくなった、と連れ合いの末子さんが語っていた。
 計画線量を超えるような事故的な被曝はなくても、原発の定期検査現場での日常的な被曝が健康被害をもたらすという現実がしっかり認識されなければならない。

(渡辺美紀子)


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