日印原子力協力交渉に異議あり

日印原子力協力交渉に異議あり

 日印原子力協力協定の締結に向けた交渉は、6月28,29日に東京で始まった。続いて8月21日、ニューデリーで岡田外相がクリシュナ外相と「戦略対話」を行なった。再び核実験をした場合は協力を停止する規定の盛り込みを、と岡田外相が表明したのに対し、インド側は強く反発したという。
 そうした規定は、アメリカも米印協定に明記しようとして失敗した。日本の外務省は「協定締結によってインドを核不拡散体制に取り込むことができる」というが、インドにとって核大国アメリカの協力より被爆国日本の協力のほうが政治的に重いと思わせることができるだろうか。おまけにビジネス一辺倒で足を引っ張る経済産業省を身内に抱えながらの交渉だ。
経産省内では岡田発言を聞いて「日本は協定を結ぶつもりはないと、インド側に受け止められかねない」との声があがったそうだ。しかし、核実験時の協力停止などとは、最低限の条件ですらない。核不拡散体制への取り込みからは、かけ離れていよう。仮に日本からプラントや資機材が輸出されるとして、それらが例外なく「民生用」の施設でのみ使われるとの保証さえ、日本側から求められていそうにない。
 インドは既に核兵器を持っているのだから核拡散を気に病む必要はない、とも聞く。しかし、単に持っていることと、核兵器国として国際社会に認知されることでは大きな違いがある。また、エネルギー供給を「民生用」の施設にゆだねることで核兵器の高度化や保有数の拡大が保障され、いわゆる「タテの拡散」がすすむことになる。「民生用」の燃料供給を受けられればウラン不足が解消、国産ウランを軍事用にまわせる。
 「ヨコの拡散」についてみれば、核開発疑惑国への他の国の協力を正当化することにもなるし、何よりも核を持ってしまえば他ならぬ日本ですら容認して協力してくれるというメッセージを送ることになる。さらに、核を持ってよい国があると認めることは、日本も核を持ってよいとの論理につながる。日本はそうするつもりだと考えて対抗しようとする国があるかもしれない。
 いずれにせよ、核不拡散体制に大きな影響を与える日印原子力協定の締結交渉が、「平和利用の番人」をもって任ずる原子力委員会の意見を聞くこともなく開始され、同委員会があわてて後追いの見解をまとめるというのは、許されざる事態である。
 おまけにつけ加えれば、期待されているビジネスの行方も相当に怪しい。インド自身も重電企業を抱えている。本流はトリウム・サイクル路線だ。商機がどれだけあるのか。協定への盛り込みはどうあれ問題が起これば、協力は解消されざるをえない。メーカーにも責任を転嫁できる原子力損害賠償法の下でのリスクは、と考えてみれば、答は自ずと出てきそうだ。

(西尾漠)