きびしい原発被曝労働者の実態を明らかにし、救済に取り組もう!

『原子力資料情報室通信』第435号(2010/9/1)より

きびしい原発被曝労働者の実態を明らかにし、救済に取り組もう!

 私たちは、これまで原発被曝労働者本人に放射線管理手帳がわたされていないなど、放射線業務従事者の法的管理がなされていないことの不備を訴えてきた。2008年に、(社)日本原子力産業協会に「原子力・放射線従事者の被ばく管理システム検討委員会」ができ報告書がまとまったという情報を得たので、さっそくその報告書を入手したい旨を同協会に伝えたが、「まだ、公開できる段階ではないので、お待ち下さい」とのことだった。
 今年7月1日、日本学術会議(金澤一郎会長)は、キャリアの多様化に対応した放射線作業者の生涯を通しての被曝に対するリスク管理は必須であるという観点から、原子力施設、工業施設などあらゆる原子力・放射線利用施設の領域で業務に従事する全放射線作業者の業務上の被曝線量を包括的に把握できるような制度の導入などを国に求めた報告書をとりまとめ、「提言 放射線作業者の被ばくの一元管理について」( www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t99-1.pdf )を発表した。
 その直後にようやく原産協会も、08年6月にまとめた「放射線業務従事者の一元的な個人被ばく記録管理システム構築に係わる報告書」( www.jaif.or.jp/ja/kisei/rad_ichigen-kanri_report201006.pdf )を公表した。
 原子力関連施設の従事者に関しては、(財)放射線影響協会の放射線従事者中央登録センターが、原子力事業所から登録されたデータに基づき、下表を公表している。経済産業省原子力安全・保安院が公表したデータでは年間20ミリシーベルト以上の被曝は存在しないとなっているが、複数の原発での被曝を足し合わせた個人データの集計では、7名が20ミリシーベルトを超えている。
 ある会合で、放射線評価の専門家から「原子力発電所はきれいで、被曝量も特別に大きいとはいえない」という発言があった。被曝したくないからと、電力会社や元請けのプラント会社の社員は現場にはまったく入らず、総被曝線量の96%を超える被曝を下請け労働者が負っている現実を、この人は知らないのだろうか?と、憤りを感じた。
 医療・工業・研究教育従事者は原子力従事者よりもっと高い被曝をしているという声もあるが、年間5ミリシーベルトを超える被曝をしている従事者の割合は、原子力6.8%、医療1.1%、工業0.4%、研究教育0.1%である。

放射線業務従事者の年間関係事業所数および線量(2009年度)

梅田さんの労災、未だ結果届かず

 約30年前に島根原発と敦賀原発で定検工事に従事し、心筋梗塞で労災申請している梅田隆亮さんのことは、これまでにたびたび本誌でお伝えしてきたが、未だに結果は梅田さんのもとに届いていない。
 厚生労働省から、梅田さんについての「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」(2010.3.8、4.28、6.1、7.7)は終了したとの知らせがあった。
 梅田さんは労働基準監督署の聞き取り調査や申し立てで主張したことがどのようなかたちでまとめられ、検討会に提出されているかを確認したいと、2月8日の厚労省への申し立てでも強く訴えた。6月18日、厚労省から「検討会での検討状況について、書面で求めます」という文面の書式が梅田さんのもとに送られ、梅田さんは求められるまま署名捺印し返送したそうだ。書類の到着を心待ちにしていた梅田さんに、6月23日、結論を出すまでにはまだ時間がかかるという内容が届く。その後8月25日現在に至るまで、梅田さんのもとに結論はおろか、開示請求している資料すら届かないままである。
 沖縄から日本全国の加圧水型原発の定期点検現場の放射能漏れ検査にたずさわり、累積100ミリシーベルトを被曝し、2005年3月、53歳の若さで悪性リンパ腫で亡くなった喜友名正さんの申請は、「例示されていない病気である」との労基署の勝手な判断で06年9月、不支給決定されてしまった。
 その後、お連れ合いの末子さんが「夫の病気は、原発での被曝による以外のなにものでもない」という強い信念のもと、全国からの支援で15万筆を超える署名を集め、ようやく08年10月、労災が認定された。
 3年間、極度の緊張状態にあった末子さんは、昨年の夏ついに体を壊して仕事ができない状態になってしまった。定年まで仕事を続けたいと願っていたが長期休職後、末子さんは退職せざるをえなかった。夫の正さんが闘病中、「病気が直ったら、農業をしたい」と言っていたのを想い出し、家庭菜園をはじめて徐々に元気を取りもどしたそうだ。
 今年になって、末子さんからバナナやマンゴー、ゴーヤなどすばらしい収穫物が私たちのもとに届いた。「今でも涙が止まらなくなることもあるけど、全国のみなさんが支援してくれたことを思うと元気を取り戻すよ」と、以前よりも元気な声だった。
 放射線作業者が従事中も退職後も、さまざまな病気になったとき、被曝との関係を示す資料なども掲載し、健康診断も受けられる「健康管理手帳」の交付を法的に定めるなどの制度が必要だ。
 これらのことをどのように実現させていくか、そのための運動のありかたなど、全国のみなさんとともに取り組んでいきたい。

(渡辺美紀子)

 

 

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