米・新規原発への投資は要注意 ―来日中の専門家が日本政府に警告

プレスリリース 2010年8月11日

米・新規原発への投資は要注意 ―来日中の専門家が日本政府に警告

米国のNGO「ビヨンド・ニュークリア」(Beyond Nuclear)をはじめ71団体(8/16現在72団体)は11日、菅直人内閣総理大臣、野田佳彦財務大臣、直嶋正行経済産業大臣に宛てて連名で書簡を送り、米国の新規原発プロジェクトは財政リスクが大きいので、これらのプロジェクトへの投資は控えたほうがいいと勧告した(注1)。
 「ビヨンド・ニュークリア」は原発も核兵器もない世界をめざす脱原子力団体(注2)。ヘレン・カルデコット博士らが設立した。現在、同団体スタッフのケビン・キャンプスが米国の「原子力ルネサンス(復興)」の実態などについて伝えるため、日本の市民グループの招きで来日中。キャンプスは新規原発への税金投入問題や既設原発の放射能漏洩問題などに詳しい。
日本政府と原子力メーカーは中東やベトナムなどへ原発輸出を計画しているが、それに先行するものとして米国での原子力ビジネス獲得に力を入れている。同国では1970年代から新規原発の発注が途絶えている。米政府は瀕死の原子力産業を救うため、債務保証をはじめとする優遇措置を導入。米・原子力規制委員会(NRC)は現在26基の新設申請を審査中だ。いずれも第三世代と呼ばれる新しいタイプの原子炉である。
しかし 「NRCはこれまでに、どの一基も承認していない」とキャンプスは述べ、「承認が得られなければ債務保証は得られないし、そもそも着工できない」と指摘。債務保証とは、何らかの理由でコストが当初見積もりより大幅に上昇し、事業者が金融機関からの融資を返済できなくなった場合、金融機関の損失を税金で補填するというもの。「原発は遅延によるコスト上昇や最終的認可がどうなるか分からないなど不確定要素が多い。議会予算局(CBO)は債務不履行に陥る確率を50%以上と推定している」とキャンプス。
オバマ大統領は今年2月、ジョージア州ヴォーグル原発で計画されている2基の改良型加圧水型原子炉(AP1000)に、条件付きで債務保証を供与すると発表した。だがAP1000(ウエスチングハウス設計の新タイプ)は設計上の欠陥から、現在までに建設・運転認可の前提となる設計承認はおりていない。キャンプスは「設計承認がおりてもいないのに債務保証を約束するなど、新規建設をめぐってはカオス状態」と、米国の現状を語る(注3)。
 米国で申請されている新規プロジェクトのほとんどに日本企業が関わっている。そのうち最も関与が大きいのがテキサス州の「サウステキサス・プロジェクト」(STP)だ(注4)。STPの3,4号機はGE-日立設計の改良型沸騰水型原子炉(ABWR)が計画されている。主契約者は東芝、事業者はニュークリア・イノベーション・ノースアメリカ(NINA)。同計画には現在までに東芝と東京電力が出資参加しているが、着工前からすでにコストが上昇(注5)。日本企業が事業に参画していることから、NINAは日本の政府系金融からの支援を期待している(注6)。
 「米国の新規原発プロジェクトはそのリスクの大きさから国内で資金が調達できてない。日本など海外からの融資がなければ実施は困難」とキャンプスは語る。
菅政権は「成長戦略」のひとつに原発輸出を掲げている。政府は原子力関連企業の海外進出を後押しするため、年金資金を含む公的資金を活用する方針(注7) 。キャンプスは4日、その窓口となる国際協力銀行(JBIC)と日本貿易保険(NEXI)の担当者と会見し、「米国の原発プロジェクトは途上国に比べ投資リスクが小さいと見るのは危険」と警告、「日本国民の金を投入するなら、将来性が大きく市場競争力のある自然エネルギーやエネルギー効率分野にしたほうが賢明」と結んだ。

【問い合わせ先】
Beyond Nuclear         Tel:+1-301- 270-2209
原子力資料情報室       Tel:03-3357-3800
国際環境NGO FoE Japan   Tel:03-6907-7217
グリーン・アクション         Tel:075-701-7223

【注】

1.書簡は以下を参照。
cnic.jp/files/usjapan11aug10.pdf

2.「ビヨンド・ニュークリア」については、以下を参照。
www.beyondnuclear.org/

3.詳しくは書簡に添付されている「資料」を参照。
cnic.jp/files/usjapan11aug10_background.pdf

4.関与が大きいプロジェクトとしては、他に三菱重工が参画しているテキサス州のコマンチェピーク原発などがある。
www.mhi.co.jp/news/story/090202.html

5.NINA は08年設立の日米共同事業体。米・NRGエナジーが88%、東芝が12%を所有。STP3,4号機は当初、NINAとCPS(市が所有する電力公社)が半々で出資することになっていた。ところが設置コストは着工前から上昇、当初見積もりをすでに80億米ドルも上回り、さらにその情報が市長などに知らされていなかったとして、CPSはNINAを相手取って訴訟を起こした。最終的に今年2月、CPSは全体の約8%の出資にとどまることで決着。CPS の部分的撤退のあと、東京電力はこの5月、米政府の債務保証を条件に約9%を出資契約。東電は今後、最大約18%の出資予定。
www.jp.nuclearinnovation.com/about/index.html

www.jp.nuclearinnovation.com/news/releases/0510_TEPCO_STP_Partnership.pdf

6.日本政府は政府系金融が、日本企業が事業参加している海外原発プロジェクトを、先進国向けを含め支援できるよう、法制度を整備。これまで国際協力銀行(JBIC)の融資支援は途上国向けだった。先進国(当面は米国)への適用については、以下を参照。
www.kokai-gen.org/html/data/30/3040100001/3040100001-315.pdf

原子力輸出への公的信用付与をめぐっては09年7月、日本のNGOがJBIC/NEXIに意見書を提出。
cnic.jp/english/topics/international/jbic.pdf

7.「企業が海外へ投資をしたり輸出をしたりする際にかける貿易保険の対象範囲を広げる。原発などのインフラは、長期の資金が求められる。相手国の政策変更で事業が続けられなくなるといったリスクも、貿易保険でカバーできるようにする。長期の投資資金の出し手として、年金資金の一部を使う制度設計も検討したい」(直島直嶋正行経済産業大臣) globe.asahi.com/feature/100802/03_2.html