高速増殖炉開発予算の抜本的な見直しについての要請

原子力資料情報室は12月14日、原水禁国民会議と共同で、鳩山政権に高速増殖炉問題に関する要望書を提出しました。


2009年12月14日

内閣府
政務官 津村啓介様

原水爆禁止日本国民会議
東京都千代田区神田駿河台3-2-11総評会館1F
議長 川野浩一 公印略

原子力資料情報室
東京都新宿区住吉町8-9曙橋コーポ2階B
共同代表 西尾漠 公印略

高速増殖炉開発予算の抜本的な見直しについての要請

行政刷新会議の事業仕分けで11月17日、「高速増殖炉(FBR)サイクル技術」が取り上げられました。そこでは、「もんじゅの再開はやむなし」とする一方、研究開発については「縮減も」としながら結論が見送られました。しかしもんじゅをはじめとする高速増殖炉開発は、多くの問題点を抱えています。以下、幾つかの問題点を申しあげ、再度、抜本的な見直しをお願いいたします。

 「もんじゅ」の再開については、財務省から「14年間運転停止しており、何らの研究成果が上がっていないにも関わらず、毎年莫大な経費を要している。来年3月に運転再開を目指しているが、今後とも莫大な経費を投入すべきか否か、必要性を検証する必要があるのではないか」と指摘がありました。別紙1「『もんじゅ』に開発意義なし」に示すように、「もんじゅ」の必要性については多くの識者から否定的な声があがっています。スズキ氏や鳥井氏らは高速増殖炉開発の意義は認めた上で、「もんじゅ」がその開発に必要なものでないことを述べています。開発されようとしている実用炉と「もんじゅ」がまったくの別物である点は、別紙2「『もんじゅ』と実用炉の主な違い」をご参照ください。
 残念ながら「もんじゅ」の実情を知る仕切り人がいなかったこともあり、必要性の検証はできずに終わっています。そのため「再開すべきでない」との結論に至らなかったとはいえ、「再開やむなし」は再開への疑問が多く残ったということでしょう。これで終わりではなく、「必要性を検証する必要」はいっそう重要な課題となっています。
 そこで、たとえ「再開やむなし」としても、2010年度は検証期間とし、予算は運転の維持費にとどめるべきだと思います。「もんじゅ」の運転関係経費要求額233億円の内訳を明らかにし、維持のために必要な費用とその余の費用を選別すべきです。なお、維持費についても、財務省の指摘の通り「毎年の実績を反映しつつ、経費削減を徹底的に行うべき」ことは、いうまでもありません。

 高速増殖炉サイクル技術の研究開発費としては203億円が、仕切りの対象となりました。財務省からは以下の点が指摘され、「本事業は当面凍結すべきではないか」と提言されています。
 第一に、急ぐ必要はないということです。「『もんじゅ』に関する研究ではなく、『もんじゅ』の次々世代の実用炉(2050年目途)に向けた研究であり、急ぐ必要はないのではないか。加えて、『もんじゅ』の運転再開の大幅な遅れにより、その後の実用化に向けた研究計画も大幅な遅れ。本研究についても大幅な後ろ倒しをすべきではないか」。
 次々世代の実用炉に向けた研究とはいえ、当面は次世代の実証炉(2025年目途)に用いる技術の開発につけられた予算です。その意味では、財務省の指摘に誤解があるのかもしれません。しかし、実用炉の計画が1967年の原子力研究開発利用長期計画で「昭和60年代の初期に実用化することを目標」とされて以来、逃げ水のように遅れつづけてきたことは周知の事実であり、2050年前にという現在の目標もさらに先延ばしされることは必至と見られています。むしろ必要なのは、そうした「失敗の歴史」の総括なのではないでしょうか。
 現原子力安全委員長の鈴木篤之氏は、東京大学教授であった1997年当時、「原型炉『もんじゅ』の次にくる実証炉の建設には反対だ。実証炉をつくらなくても、作った場合と同等の目標を達成できるような技術手法はあり、そうした考えを導入すべきだ」と表明されていました(1997年7月1日付電気新聞)。にもかかわらず、多額の予算を獲得することを良しとする官僚体質のもと、むだな実証炉開発予算がつけられつづけています。

 第二に、費用の額が大きすぎることが問題視されています。「そもそも『もんじゅ』に巨額の国費が投入されていることに鑑みれば、それ以外の関連研究開発は極力抑制すべきではないか」。
 実は高速増殖炉サイクル技術の研究開発予算要求は、203億円だけではありません。経済産業省も、「発電用新型炉等技術開発委託費」の名目で、実証炉の技術開発予算56億円を要求しています。他にも隠された開発予算がまだありそうです。
 なかでも、まったく不用不急なものとして、経済産業省の要求する「高速炉再処理回収ウラン等除染技術開発」費があります。「高速増殖炉が本格導入される2,050年以降」に、その使用済み燃料を再処理して得られる回収ウランから不純物を取り除く技術です。明らかに、削除されてしかるべきです。
 また、高速増殖実験炉「常陽」という、既に事業目的を失ったものについて、いまだに20億円近い予算が文部科学省から要求されています。「常陽」は、すでに高速増殖炉開発における役割を終え、一般的な照射試験炉となっていて、他の原子炉で代替できるものです。しかも2007年6月に事故を起こして以来、停止されています。

 第三に、民間中心で進めるべきという点です。「本研究は、民間出資により設立された株式会社が実施。実用段階の研究開発は、民間中心に進められるべきではないか」。
 本事業の”主体”である日本原子力研究開発機構の前身のひとつで高速増殖炉開発を行なってきたのは、旧どうねん(動力炉・核燃料開発事業団)です。どうねんは当時、「政府資金開発事業団」と揶揄して呼ばれていました。政府資金を引き出し、研究は民間に丸投げするという実態からです。
 1980年から2009年までの費用9032億円のうち民間から1382億円(15%)の出資があった「もんじゅ」について、文部科学省は「官民共同で進めている」と説明しています。本研究は商業目的の技術開発であり、そのような「官民共同」で済まされてよいはずもありません。予算の要求に際して官民の負担割合が明記されていないようでは、検討すらできないでしょう。


[別紙1]

「もんじゅ」に開発意義なし―原発推進派からもこんな評価

☆肩書きは発言当時のもの

高速増殖炉『もんじゅ』の建設については、電力業界はもう資金負担に応じきれない、計画そのものを白紙に戻して再検討してほしい――と事実上、動燃のプロジェクトから降りる姿勢を明らかにした。(1974年10月21日付読売新聞)

原型炉『もんじゅ』についての最近の情報は良く知らないが、いまでも10年前の設計で居眠りしたままやっているんだろうか。『もんじゅ』が完成したとき、『作ることにだけ意義のあった現代の遺物』にならないよう祈る。(ケネス・T・スズキ=米カリフォルニア大学、『原子力工業』1981年7月号)

大型MOX炉[プルトニウム・ウラン混合酸化物燃料を用いるタイプの高速増殖炉の意]は開発意義が乏しい。(平岡徹=電力中央研究所特別顧問、2000年2月13日付福井新聞)

[もんじゅが高速増殖炉の実用化に役立つというのは]車の運転によって飛行機の運転に役立つと言っているようなもの。(鳥井弘之=日本経済新聞社論説委員、2000年2月16日付福井新聞)

もともと(もんじゅへの)期待感は薄いものがあった。(資源エネルギー庁関係者、2003年1月29日付電気新聞)

いつまでもだらだらと高速増殖炉を開発する必要性があるのか。(豊田正敏=元東京電力副社長・日本原燃相談役、2004年11月15日付福井新聞)

高速増殖炉原型炉「もんじゅ」を巡り、周辺住民が国の設置許可の無効確認を求めた訴訟で、最高裁は設置許可を適法とする逆転判決を下したが、裁判で勝利したはずの経済産業省の受け止め方は複雑だ。……旧通産省以来、同省の本音は核燃料サイクルの放棄だったとみていい。……しかし一度決まった国策、しかもすでに「もんじゅ」は7000億円を超える投資をしているだけにストップをかけることができなかった。今回の最高裁判決でさらに歯止めがかからなくなると予想される。省内には「反対と言っていた幹部はなぜ体を張らなかったのか」と歴代幹部を責める声が強い。(『エコノミスト』2005年6月14日号)

往々にしてもんじゅは動かすことに頭がいっていて、もんじゅを一体どういうふうに使うかということが、この14年間の空白の中で若干当事者、関係者含めて忘れ去られている。(田中俊一=原子力委員長代理、2009年8月18日第31回原子力委員会定例会議議事録)

過去、運転再開を4度延期し、14年間も停止したままの「もんじゅ」。政府は後継実証炉の利用技術などの検討をしているが、はた目には「ロードマップ」へのこだわりが強いようにみえる。いま一度、運営体制の抜本的な見直しを基本に、計画を再考してみてはどうか。(S.A.、『原子力eye』2009年10月号)


[別紙2]

「もんじゅ」とFBRサイクル実用化研究開発が目指す実用炉の主な違い