多発性骨髄腫、悪性リンパ腫が疾患リストに例示される さらに、労災認定の枠を拡げよう

第2回「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」が12月25日(金)午前10時-12時に、中央合同庁舎5号館16階労働基準局第2会議室にて、非公開で開催される。
 議事は?個別労災請求事案に係る医学的事項について?その他となっている。
 非公開の理由として、「本会議は、検討事項に個人情報等を含み、特定の個人の権利又は利益を害するおそれがあるため」としている。
 『原子力資料情報室通信』424号で、「梅田さんの心筋梗塞についての検討会はじまる」と、9月9日に第1回検討会が開催されたことをお伝えした。

その後、梅田さんに厚労省担当者から、「9月9日の検討会は、梅田さんの事案ではなかった。梅田さんについての検討会は11月か12月に開かれ、今年中には結論が出ます」との連絡が入った。
 その経緯については、『原子力資料情報室通信』425号でお伝えした。
cnic.jp/849

今回の検討会は第2回となっている。9月9日の第1回検討会が梅田さんについての検討であったということである。


『原子力資料情報室通信』第427号(2010/1/1)より

多発性骨髄腫、悪性リンパ腫が疾患リストに例示される
さらに、労災認定の枠を拡げよう

渡辺美紀子

 12月3日、労働基準法施行規則(労基則)第35条専門検討会(座長:櫻井治彦・中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター技術顧問)で、電離放射線による多発性骨髄腫と悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫に限る)が、労災認定の対象疾患として労基則別表第1の2に加えられることが決まった。
 これまで別表第1の2には、物理的因子によるものとして第2号5に「電離放射線にさらされる業務による急性放射線症、皮膚潰瘍等の放射線皮膚障害」が、また、がんとして第7号10に「電離放射線にさらされる業務による白血病、肺がん、皮膚がん、骨肉腫又は甲状腺がん」が規定されていた。
 前回検討会の開催は2002年で、なんと7年ぶりに開かれた。電離放射線に関しては、長尾光明さんの多発性骨髄腫と喜友名(きゆな)正さんの悪性リンパ腫の「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」の専門委員としてかかわった明石真言(まこと)・放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター被ばく医療部長が両疾病について疫学調査を中心に説明した。
 明石氏の説明への感想として、座長である櫻井氏は「・・・多発性骨髄腫などで同じ対象集団を観察していると、はじめは有意の差で過剰の死亡が認められたものが、後で認められなくなったような報告もあるということです。これは私が他の化学物質でそういうようなデータを、直接自分でいろいろレビューしたときにめぐり合って、そのときに考えたことがありますが、やはりある時期に調べてポジティブだったのが、後でネガティブになっている。少し前倒しになって、ある時期に早く発生しているけれども、その後、それが明瞭でなくなる。一般集団でも起こってきますから、比較的こういう発生の確率の低いものについては、そういうことも考えられるなという気持ちでおります。ですから、後でネガティブになったからといって、否定することにはならないという感覚を持っております・・・」と、発言した。

労災申請の困難

 私たち被曝問題に取り組む支援グループは、2004年1月に長尾さんが多発性骨髄腫で労災認定された直後から、厚生労働省に対し、多発性骨髄腫を職業病リスト例示疾患に加えることを強く求めてきた。しかし、35条検討会は2002年以来開催されないまま経過し、05年に悪性リンパ腫で死亡された喜友名さんの申請は、大阪府・淀川労働基準監督署の判断で不支給とされてしまった。
 その後、支援グループが厚労省と交渉を重ねた結果、厚労省が専門家を招集し検討会で検討することとなった。支援グループが全国に呼びかけた署名は15万を超えた。市民と国会議員の参加で院内集会を開き、遺族の喜友名末子さんが厚労省に「早期認定を!」と強く訴え、申請から3年後の08年10月、ようやく支給が決まった。
 長尾さんの場合も申請に至るまでの過程が困難をきわめた。労基署の窓口で放射線管理手帳を示して相談しても、「そんなものは証拠にならない」とか「もう時効だ」とか言われたり、勤務していた会社に元請け会社がどこだったかを問い合わせても、なかなか教えてもらえなかった。他にもこのような扱いを受け、申請をあきらめたり、妨害をはねのけられずに泣き寝入りしてしまった人もいるだろう。

梅田さんの心筋梗塞での申請

 約30年前に原発で働いた梅田隆亮さんもそのひとりだったが、08年9月、心筋梗塞で島根県・松江労基署に労災申請した(本誌423-425号参照)。梅田さんは、1979年3月に島根原発で約1週間、5-6月に敦賀原発で約1ヵ月間定期検査に係わる工事に携わった。敦賀原発での作業終了後のホールボディカウンター(WBC)検査で通常の3倍もの2247カウントの内部被曝をしていることが明らかになった。長崎大学医学部でのWBC精密測定で、ふつう体内にないはずのコバルト57・58・60、マンガン54、セシウム137などの核種が検出された。梅田さんは労災申請をしようとしたが、九州大学病院放射線科で「異常なし」の診断書を作られたり、執拗ないやがらせを受けたため、申請をあきらめざるを得なかった。
 08年7月、再度長崎大学医学部で検査を受け、「・・・当時、悪心、全身倦怠感、易出血性などの症状があり、病院の検査で白血球減少を指摘されたそうですので、急性放射線症候群に近い被ばくがあった可能性は否定できません。心筋梗塞の発症は(諸要因に加え)1979年当時の被ばくが関与している可能性は否定できない」(要旨抜粋)との所見を得ている。梅田さんの場合、放射線管理手帳に記載されていない外部被曝線量、また長崎大学医学部でのWBC精密検査で測定された内部被曝をどう評価するのかが大きな鍵となる。

新しい研究・データが明確に示す放射線との関連性とこれからの課題

 最近、英国放射線業務従事者国家登録(UK National Registry for Radiation Workers)の第3次解析結果(NRRW-3)が発表された。これは、これまでに公表されている中で最も検出力が高い研究で、白血病(慢性リンパ性白血病を除く)と白血病以外のがんのいずれについても、累積外部被曝線量に伴った統計学的に有意な増加傾向が認められた。
 また免疫学の進歩により、原爆被爆者において、がん以外のほとんどの主要な疾患の死亡率と放射線量との間にも明確な関連性がみられるとの報告も出てきた。放射線に被曝した人は、免疫システムの老化によるおとろえがより進んでいる可能性があるという。
 私たちのこれからの課題は、労災認定の対象疾患を白血病、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫以外のがん、がん以外の疾患についても拡げること。また、放射線被曝労働を労働安全衛生法の有害業務に加え、被曝労働者に健康管理手帳を交付させることなどである。
 また、労災申請と支給・不支給の件数、審査の過程と関連資料を公開させ、原発の全被曝線量の96%以上の被曝を受けている下請け労働者の被害の実態を明らかにしたい。

 

 

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