【原子力資料情報室声明】原発・石炭火力が脱炭素社会を阻害する 長期戦略懇談会提言をうけて

原発・石炭火力が脱炭素社会を阻害する 長期戦略懇談会提言をうけて

2019年4月17日

NPO法人原子力資料情報室

 

地球温暖化対策の国際協定である「パリ協定」において、各国は2020年までに長期低排出発展戦略(以下、長期戦略)を国連に提出する必要がある。政府は本年6月のG20大阪サミット前の長期戦略公表をめざしており、首相官邸に設置された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会」が、4月2日、提言をとりまとめた

本提言において長期戦略は、パリ協定が示す1.5℃目標の実現に貢献するもの、環境と成長の好循環を実現するための非連続的なイノベーション、「野心的」なビジョンであること、スピード感をもった対策であること、望ましい社会像への移行をしめすもの、といった要件をみたす必要があるとされている。

しかし、その「野心的」なビジョンとは、温室効果ガス排出量の2050年80%削減(2013年度比)であり、非連続的なイノベーションの実態は原子力利用やCO2の回収、貯留・利用(CCUS)を用いた石炭火力の脱炭素化、そして水素社会を言うに過ぎない。それでは、2050年に2013年度比で80%を削減し1.5℃目標を達成する目標には到底届かない。非連続的なイノベーションは単なる現状維持の言い訳ではないか。

こうした羊頭狗肉な提言が策定されたのは、政府の長年の原子力・石炭火力推進政策が背景にある。1990年代以降、CO2排出量削減が政治課題に上がるようになっても、原子力頼みで削減を図ったにもかかわらず、CO2排出量は増加の一途をたどってきた。

政府は、2030年の電源構成に占める原子力の割合を20~22%、石炭火力を26%(2010年時点で原子力は29%、石炭火力は25%)にするという。この目標を達成するため、政府は原子力と石炭火力を維持し、容量市場やベースロード電源市場、原子力向けの非化石価値取引市場といった施策を次々と打ち出している。

しかし、福島第一原発事故前、54基が稼働していた原発は、2019年4月現在、9基が再稼働したのみで、21基が廃炉・廃炉検討中、8 基は審査の申請にも至っていない。その現実をどう考えるのか。2030年に20~22%という目標達成が不可能なことは明らかだ。一方、石炭火力については仮に45年で廃炉になると仮定しても、目標を大幅に超過する。原子力の不足分をすべて再生可能エネルギーで補ったとしても、発電に伴うCO2排出量は現状を大幅に上回ることになる。

CO2排出量の削減は、現実的に導入可能な技術の積み上げで達成するべきであり、将来の技術開発は上乗せ対策とするべきだ。願望に頼った技術開発偏重の長期計画では破たんが目に見えている。今必要とされている長期計画は、脱原発という世論、原発が再稼働できない現実に即した、再生可能エネルギーの全面導入という「非連続的なイノベーション」である。

(以上)

 


参考:

出典:原子力文化財団、原子力・エネルギー図面集、https://www.ene100.jp/zumen/2-1-16

 

出典:電力広域的運営推進機関、2019年度供給計画の取りまとめ、https://www.occto.or.jp/kyoukei/torimatome/files/190329_kyoukei_torimatome.pdf