福島第一原発事故 汚染水処理問題の現状と市民の反応

『原子力資料情報室通信』第532号(2018/10/1) より

Nuke Info Tokyo, No.186, 2018 より

福島第一原発事故 汚染水処理問題の現状と市民の反応

トリチウム水と呼ばれ、その処分方法が検討されてきたALPSの処理水に、トリチウム以外の核種も告示濃度を超える濃度で含まれていた事実が多核種除去設備等処理水の取扱いに係る説明・公聴会の開催直前に報道され、多くの市民の驚きと怒りをかった。本稿は、この問題について当室発行の英文ニュースレター「Nuke Info Tokyo, No.186, 2018」に掲載することを目的に、汚染水問題の現状の概要とその処分方針をめぐって8月末に行われた公聴会での市民の反応まとめたものである。

汚染水対策の概要
●汚染水はなぜ発生し、増加しているのか。
福島第一原発の敷地内の地下には豊富な地下水が存在し、西側(山側)から東側(海側)に向けていつも流れている。原子炉建屋の地下部分は地震でダメージを受けて、き裂等が発生しており、地下水はその隙間から流入が可能となっている。メルトダウンした燃料に常時注水して冷却をしている状態だが、その冷却水は核燃料と接触しているのでそこから放射性物質が溶け出して放射能汚染水となっている。放射能汚染水を建屋外に漏らさないために、地下水の水位が必ず原子炉建屋の水位より高くなるように、サブドレンで地下水位を制御している。原子炉建屋の水位が地下水水位より低くなると、建屋内の汚染水は外に漏れ出しにくくなるが、同時に周辺の地下水が建屋内に流入しやすくなる。これが、汚染水が増量しつづける理由である。
●汚染水の処理システム
62の核種(注1)が汚染水からの除去対象とされてチェックされている。汚染水処理の流れは、はじめにセシウムとストロンチウムを、「サリー(東芝などが開発)」および「キュリオン(米キュリオン社が開発)」で分離したのち、淡水化装置で塩分を分離している。そこまで処理された水の一部は再度原子炉冷却に利用され、残りを多核種除去設備ALPS(東芝が開発)(注2)にかけて、トリチウム以外の核種を分離している。ALPSで処理された水はタンクに貯蔵される(図1)。

図1:汚染水の処理フロー(東京電力ホームページより)

2018年3月時点のAPLS処理水の貯蔵量は約105万m3、増加量は約5~8万m3/年、ALPS処理水のトリチウム濃度は約100万 Bq(ベクレル)/L、トリチウムの総量は約1000兆 Bqと評価されている。
●汚染水増加抑制対策
増加の原因は豊富な地下水量にある。原子炉建屋に地下水を近づけないために、以下の対策をしている。①山側で原子炉に触れる前の地下水をくみ上げて、放射能測定したのち海洋放出。②原子炉建屋群を取り囲むように遮水壁(凍土壁)を設置。③凍土壁の内部に設置したサブドレンで地下水位を制御。④凍土壁の外側の海側に鋼鉄製の遮水壁を設置。⑤4の内部で地下水をくみ上げて汚染水の海洋流出を防止。⑥雨水の土壌への浸透を防ぐためのフェーシング(むき出しの地面などをアスファルト等で被覆)。
これらの対策の結果、汚染水発生量は、約520 m3/日(2015年12月~ 2016年2月平均)から、約140 m3/日(2017年12月~ 2018年2月)へと減少したと報告されている。
●ALPSの仕組みと処理水の評価
ALPSは、鉄共沈処理と炭酸塩沈殿処理を利用した前処理設備と、多種類の吸着塔を組み合わせた主設備で構成されている(図2)。主設備の吸着塔は、活性炭を利用したコロイド吸着材や、ストロンチウム吸着材、セシウム+ストロンチウム吸着材、アンチモン吸着材、銀吸着材(ヨウ素吸着)などを組み合わせた構成であり、消費型だ。つまり、一定量の対象物質を除去すると吸着性能が落ちてしまうので、状況を確認しながら吸着塔を交換しなければならない。2014年のALPS性能試験段階で、処理前後の各種核種濃度をチェックしながら、上記の吸着塔の構成の変更や追加がなされた。
性能試験段階では、Co-60、Ru-106、Sb-125、I-129の十分な除去が困難で、一部の核種で告示濃度を超える濃度で検出されたことが報告されている。I-129の残留については銀吸着塔を増やして対応した。その後の調査で、吸着材交換後の性能維持期間は約20日間で、この間ならば処理済水の濃度は告示濃度より低くなることが確認された。しかし、吸着材を高い頻度で交換するとALPSの稼働率が低下することが問題視された。これは当時、構内にALPS処理する前の汚染水が保管されたタンクが大量に存在し、原発の敷地境界における放射線量が高くなっていたことによる。敷地境界の放射線量を下げることを優先し、当面の間は吸着塔の交換頻度をあげない(処理能力が不十分になることを許容した)運用をすることが決定された。
ALPSは汚染水処理の最後の工程であるため、ここで分離・除去しきれない放射性物質が残るかどうかは、放射性廃棄物の処分を考える上で重要なポイントとなる。
2017年度にALPS処理水から検出された主な核種と最大濃度、および排水中の告示濃度を表に示す。
なお、放射能汚染水を処理すると、浄化された処理水の他に、当然、分離された放射性物質のスラリーや、使用済みの吸着塔などが放射性廃棄物として発生する。これは高い放射能をもち、例えばストロンチウムの濃度は、 109~10Bq/Lほどである。水分が含まれており放射線分解での水素発生リスクがある。そこで、脱水化処理を進め、固体状の安定保管の検討を行っている。現在これらの処分方針も決まっていない。

図2:ALPSの構成(東京電力ホームページをもとに作成)

ALPS処理水の取り扱いを巡る議論
政府はALPS処理水に関して、「トリチウム水タスクフォース(2013年12月~2016年6月)」を設置し、処分方法の技術的な評価を実施した。そこでは、地層注入、地下埋設(コンクリート固化)、海洋放出、 大気放出(水蒸気)、大気放出(水素)の5つの選択肢を評価した。
これを引き継いで、風評被害などの社会的な影響も含めた総合的な検討を行うための「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」が2016年11月から開催されている。2018年8月には風評被害の問題について広く国民の意見を聞くためとして、公聴会が開催された。
なお、以前から原子力規制委員会の更田委員長は、ALPS処理水は希釈した上で海洋放出をするべきだと主張しており、トリチウム以外の核種が含まれていても告示濃度以下に希釈すれば放出して良いとする姿勢を示している。

公聴会での市民の意見
公聴会は、福島県内で2か所、東京都内で1か所の計3か所で開催され、意見表明者は14名+14名+16名の延べ44名だった。意見表明者は、事前に意見の概要を文書で提出しなければならず、参加のハードルが高いものだった。また、当日の表明時間はひとり当たり5分と制限され、傍聴者の発言は許されず、賛同したとしても拍手さえしてはならないと会場でアナウンスされたらしい。
公聴会では、初めに事務局からこれまで小委員会で議論された内容の概要説明があった。その内容は、廃炉の状況、ALPS処理水の貯蔵量、トリチウムの性質(生物影響は小さい、世界中で海洋放出されているが健康被害は確認されていない)、ALPS処理水の処分が必要な理由(敷地内の保管スペースがひっ迫し、デブリ取り出し作業が停滞する)、5つの処分方法の評価、処分にともなう社会的影響だった。
意見表明した延べ44名のうち、環境中に放出することに条件付きで賛成したのはベータ線計測システム開発に政府の支援を求める2人のみで、他の全員が反対の意見を表明した。以下に出された主な意見を記載する。

・小委員会でも報道でも「トリチウム水」と呼ばれて、トリチウム以外の核種が除去されたことを前提として、処分について議論されてきた。他の核種の告示濃度以上の残存が確認されたので、議論を一からやり直すべきだ。
・公聴会の規模が小さく、回数も少ない。平日昼間のみでは、参加できない人も多い。これでは広く国民の意見を聞いたことにはならない。重要な問題なので、多くが参加できる工夫をして公聴会を続けるべきだ。
・そもそも現状で貯蔵できている放射性物質を環境に放出することは、環境倫理的にも、海洋汚染を防止するためのロンドン条約の観点からも行うべきでない。
・放射性物質の廃棄の際には、濃度のみならず、総量規制も必要ではないか。
・ひとたび海洋放出されれば、水産業に壊滅的な被害を与える。輸入規制などの世界的な影響を受ける。これは風評被害を「科学的な知識の欠如に基づく」と批判したところで解決しない。
・海洋放出する場合、これ以上福島の海を汚してはならない。他の場所での放出の検討も必要だ。
・トリチウムが環境中に放出された場合の、モニタリング体制が確立されておらず、水産物や水環境の低頻度の検査では安全性・危険性の評価ができない。
・小委員会はトリチウムの生物影響を軽視している。
・大型タンクに保管して放射能の減衰を待つのが、最もリスクの小さい、現実的な方法ではないか。

多数の参加者からのALPS処理水の環境放出への反対意見を受けて、小委員会の委員長は、意見を持ち帰り引き続き議論をするとまとめて公聴会は終了した。公聴会の様子は複数のメディアで報道され、世間の注目を集めている。筆者は、このまますぐには海洋放出の強行はできなくなったのではないかという印象を受けた。実際に国がどのような判断をするのか、今後の動きが注目される。

(注1)62核種 http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/genkyo/fp_cc/fp_alps/index.html
(注2)「多核種除去設備」と「増設多核種除去設備」と「高性能多核種除去設備」があり、「高性能多核種除去設備」は日立GEが開発。

(谷村暢子)

Nuke Info Tokyo, No.186, 2018に本稿全文の英語版があります。
www.cnic.jp/english/