東海第二原発20年延長をめぐる原発不経済性の末路と責任のたらい回し

『原子力資料情報室通信』第523号(2018/1/1)より

東海第二原発20年延長をめぐる原発不経済性の末路と責任のたらい回し

東海第二原発運転差止訴訟原告団共同代表
大石光伸(茨城県、常総生協)

はじめに

東海第二原発は今年11月28日で40年を迎える。日本原子力発電(株)(以下、日本原電)は、昨年11月24日、東海第二原発を2038年まで運転する「20年延長」を規制委員会に申請した。
延長申請は「新規制基準に合格していること」が要件であることから、規制委員会は例によって延長申請ができるよう昨年10月に審査終了・合格見込みとし、4月には規制基準合格証を出し、続けて20年延長認可を出そうとしている。
だが、適合性審査の最終段階(2017年11月14日)で、設置(変更)許可要件である「経理的基礎」の審査が「異例の公開」で行われた。安全対策費用1,740億円を借入金に頼ることから、規制委は債務保証先の提示を求めることとなったのだ。

2012年私たち地元茨城県を中心に1都7県の住民は、日本原電と国を相手に東海第二原発運転差止訴訟を水戸地裁に提訴した。その中で、「日本原電は経理的基礎がなく運転は違法である」ことを主張してきた。
日本原電の経営悪化の契機は、これまで電力会社の会計で隠されてきた「廃炉費用」と「使用済燃料再処理費用」の顕在化による。以下、住民訴訟で原告らが主張してきた廃炉会計制度と日本原電の経営実態について報告する。

 

「廃炉会計」をめぐる制度改正
2001年に国際会計基準となった「資産除去債務会計」が日本の企業会計に適用されたのは震災前の2010年である。原発はその典型的適用対象であり「廃炉会計」と呼ばれる。
「資産除去債務会計」とは、有形固定資産の除去時点で有害物質の処理(解体・撤去・処分)のための相当の費用発生が不可避であるならば、現時点でその有害物質を処理する義務が存在しているものとして、あらかじめその費用も含めた資産計上を行い、対応してその費用を引当金として負債計上しておき、廃止までの期間で毎期減価償却して除去費用を内部留保するという会計方法である。

2010年資産除去債務会計の適用でそれまでの「解体引当金」はそれ以後「資産除去債務」として表示されることとなった。
一般の設備はその使用によって「利益を生む」ことから資産として認識し減価償却をしていく。使い終わって廃棄するのにはそれほど費用は発生しない。だが原子力発電設備は使えば使うほど放射能に汚染されてその廃止に巨額の費用がかかり、核燃料に至っては燃やせば燃やすだけその処理費用が発生する。設備・原料の使用によって長期にわたる巨額の「費用を生む」ことが原子力発電の最大の問題である。
本来資産除去債務会計は「資産/負債の両建処理」が原則のところ、経産省は引当金不足の明示をあいまいにするために原発に対する「解体引当金に関する省令」を適用して毎期「発電量に応じて」解体費用を引当ればよいとした。ところが翌2011年の東電福島第一原発事故で国内の原発が停止し、「発電量に応じた」引当方法では引当ができない。慌てた経産省は2013年10月に電気事業会計規則を改正して引当方法を「定額法」に変更。さらに廃止時点での引当金不足を「廃止後まで廃炉費用を電気料金に転嫁する」道を電力会社に提供してやる。
具体的には、1)廃炉の原因如何にかかわらず運転終了後も廃止措置中の原発施設は「電気事業の一環としての事業」として減価償却を継続すること、2)原発の稼働状況にかかわらず解体引当期間を従来の40年から50年に延長すること、3)解体引当金の計上方法は従来の生産高比例法から定額法に変更することが規定された。
こうして電力各社は廃炉による資産の一括減損会計を免れるばかりか、廃止時の廃炉費用積立不足分も電気料金に転嫁することが可能となった。実質的東電救済策である。
私たちは2013年の法廷で、このような国による電力事業者への特別な措置は企業会計基準からの逸脱と主張した。

 

国策「再処理」の強制
隠されてきた原子力発電をめぐるコストのもうひとつは使用済核燃料の処分=バックエンド費用(中間貯蔵・再処理・最終処分)である。「再処理」はすでに破綻が明らかな「国策」である。再処理は最終処分の3倍近いコストがかかると言われる。
これまで「再処理」費用は各電力会社が積立金を資金管理センターに拠出(資金は電力会社に帰属)し、日本原燃(六ヶ所再処理工場)に支払ってきた。
だが、福島原発事故後電力会社の破綻が想定されるようになり、確実な再処理費用の支払いが保証されないおそれが浮上するとして、政府は2016年新たに法律で新法人「使用済燃料再処理機構(NuRO)」を作り、電力会社に再処理資金をこの法人に拠出することを義務づけ、再処理の費用を国家に帰属させ、国家管理するに至る。
こうして電力各社の貸借対照表から「使用済燃料再処理等積立金」(資産勘定)と「使用済燃料再処理等引当金」「同準備引当金」(負債勘定)という科目は消え、損益計算書の費用科目に毎期発電量に応じて国家法人に「拠出」されることとなった。積立金不足は「再処理未払金」として計上処理を迫られることとなる。
なお、「最終処分費用」(地層処分)の方は、最終処分法により2000年に設立された原子力発電環境整備機構(NUMO)に直接拠出され、やはり電力会社の貸借対照表には現れていない。

 

すでに経営破綻している日本原電
1)2010年が財務構造悪化の転機
日本原電は2010年、それまでかろうじて維持してきた経営バランスを崩した。
その発端は日本原燃六ヶ所再処理工場資金不足への電力各社の支援増資につきあわされた日本原燃株303億円の増資引受である。国策「再処理」に関わる支援が末端の電力会社の経営バランスをくずすきっかけとなった。もうひとつの廃炉費用は、資産除去債務会計の適用で、解体引当金1,432億円は「資産除去債務」2,058億円に引き継がれた。
そして震災直前のこの年、日本原電は敦賀3・4号の用地整備費に589億円を投資する。会社全体で工事資金733億円と償還債務505億円(日本原燃株取得303億円を含む)の計1,238億円のうち、1,888億円を外部から資金調達する(社債発行300億円、長期借入400億円を含む)。
2011年3月期決算、日本原電の有利子負債残高は前年の167億円からいっきに834億円に増え、総資産に占める有利子負債割合は10%にもなった。それまでは設備投資は表向き自己資金でまかなっていたが、10年から一転、外部資金に依存してしまう。
これら2010年におきた複数の要因と自らの経営判断を契機に日本原電の経営は転落する。

 

2)2011年以後、資金繰り逼迫
2011年の東日本大震災は経営に追い打ちをかけ、原子力安全・保安院の指示による「緊急安全対策」の設備対応で短期の運転資金はいよいよ逼迫する。資金繰りはすさまじく、11年にはコマーシャルペーパー(無担保約束手形)250億円発行、12年には78億円のウラン燃料を売却して現金を調達する。
そして12年4月に1,040億円の運転資金短期借入でつなぐものの、翌年4月にその償還返済が迫る中、手元現金は680億しかなくなり、借り換えができなければ資金ショートが予測された。年末、日本原電倒産の可能性がささやかれた。

13年4月の借入償還を控えて銀行団は、原電資金繰り支援に応じる前提として、実質国有化された東電を除く電力4社(東北電力・中部電力・北陸電力・関西電力)の債務保証を求め電事連会長が音頭をとって1,040億円借換債務保証の継続を取り付け、日本原電は資金ショートを免れた。以後、この債務保証は毎年続く。

16年の再処理積立管理法改正で再処理費用が引当金から拠出金に変わったことで、日本原電は未払再処理費用830億円を再処理国策法人NuROへの負債として計上せざるを得なくなり、会計変更時の不足差額分110億円は3年間で支払わなければならなくなった。
17年3月期決算で日本原電のキャッシュ(現預金残高)はわずか141億円しかない。

 

3)新規制基準による安全対策費の資金調達
東海第二原発の安全対策費は、規制委審査で設備を増設せざるを得なくなり、当初予定の430億円から1,740億円に膨れあがり、その調達ができるのかという点で経理的基礎の審査が「異例」の公開で行われ、債務保証の確認が許可の要件とされた。

 

4)責任のなすりあい、たらい回し
規制委員会の更田委員長は翌11月15日の記者会見で、「経理的基礎の審査は安全対策費の調達ができるかどうかで限定的」と言い、日本原電という会社の安定性や将来の経営は「共同出資会社だからあとは株主である電事連がどう考えるかだ」「事業全体を所管するところ(経産省)の責任もある」と責任転嫁を公然と表明した。

これに対し電事連勝野会長は11月17日の記者会見で「資金調達の計画が出てくれば(電力各社が)何らかの形で考えていく」「株主として早期に再稼働し、経営の安定に結び付けてほしい」と応答。株主である電事連各社は、停止中の日本原電の維持費毎年1,000億円を供出するより債務保証の方がまだましと目先の利益で考えている。東海第二原発を稼働させて「維持費くらいは自分で稼げ」という意味である。

経産省はマスコミに情報をリークし「東電、日本原電2,000億円の債務保証」(8月25日)という報道に続き、11月17日には「原電の廃炉費、大幅不足 原発建設に流用」(廃炉引当金を敦賀3・4号建設費に使った)という記事を書かせた。
「引当金の流用」というのは不正確で、企業会計において引当金は負債勘定の会計上の「引当額」であって、廃炉費用という名前のついたお金が存在するわけではなく、あくまで負債と資産のバランスを見る。資金を設備投資に回したからといって直ちに「流用」には当たらない。
だが日本原電にあっては、ほぼすべての現存固定資産が廃炉を前に資産性がなくなろうとしていると同時に廃炉費用が長期に発生するがゆえにキャッシュの調達能力が問題となるが、キャッシュもない。すでに東京電力らが日本原電に拠出している廃炉費用も相当するキャッシュはなく、再度電気料金に転嫁することは二重取りである。
最後の活路にしたい東海第二原発の20年運転延長だが、基準適合性安全対策1,740億円に加え、このあと5年以内に特定重大事故対処設備に1,000億円超がさらに必要とされる。
一連の報道から読み取れる経産省の真意は、「日本原電は株主が電力各社。東海第二再稼働は電事連各社による株式増資で支援せよ」あるいは「東海第二は東電が吸収、敦賀は関電が吸収で救済せよ」というメッセージと思われる。姑息である。

 

5)日本原電は東電らの「子会社」、東海第二は東電 らとの「共同開発品」?
周知の通り、日本原電は原発のリーディングカンパニーとして電力9社+当時は国営だった電源開発の出資で作られた「国策民営」の「落とし子」である。とうにその役割は終え、「原発の不採算性」という構造問題が表面化し、「原発専業モデル会社」の末路の姿を見せている。
日本原電は、法廷で「日本原電は東電や関西電力の子会社」「東海第二原発は東京電力・東北電力との共同開発品」と公言し、だから停止中の維持費も、再稼働への投資も、そして廃炉費用も東京電力らが負担するのは当然と主張している。原告ら住民は、廃炉費用を東京電力らが最後まで責任を持つことを証明する「運転停止後に発生する費用(停止後費用)の取扱いについての基本協定」の提出を求めている。

 

2011年運転停止以後の7年間の日本原電維持費約9,000億円は経産省が電気料金への転嫁を認め、東電・東北電力・関西電力・中部電力らの電気料金に上乗せされて国民負担となっている。そして今、東海第二原発再稼働の資金の債務保証は「共同開発品」として東北電力や東京電力(または東電HD子会社)が引き受けようとしている。東電に東海第二再稼働支援の資格はないが、廃炉の責任はある。
そもそも東海第二原発をこれから20年運転しようが、毎年1,000億円規模の売上で、2009年以前でさえ敦賀を入れて毎年20億円の利益を出すのが精一杯の企業が20年で3,000億円近い投資の回収は困難である。そして会計表示上引当ててある廃炉引当金は相当のキャッシュがない以上虚構で、引当不足以前の問題である。

日本原電の株主・親会社である電力各社は、電力自由化の中で総括原価方式廃止によって日本原電維持費の電気料金転嫁が困難になることを予期し、また国内外の自然エネルギーの急速な普及によるコスト競争圧力も受けて、これ以上の日本原電維持費の供出を回避するために東海第二を稼働させようとし、さらに廃炉負担を先延ばししてやがて破綻したら逃げようとしている。株主として出資している資本金はわずか1,200億円程度。毎年1,000億円維持費を負担し続けるより出資金を放棄した方がましで、あわよくば国に責任をかぶせて廃炉に国民の税金を使う道を窺っている。そうはさせない。

 

おわりに
東京電力福島第一原発事故後、原発再稼働をめぐる攻防は西日本からはじまり、いよいよ福島第一原発事故の恐怖を身近に経験した東日本・首都圏での攻防に入る。

「東海第二原発再稼働」という問題は、日本の原発の矛盾を端的に示している。今この国で繰り広げられているのは政府・規制委・電力会社の「責任のなすりあい、たらい回し」である。半世紀にわたる国策民営の原子力発電の末路の局面で、東海第二原発は、東電をはじめとする電力会社に完全な廃炉まで責任を持たせる国民と電力資本・国との攻防である。

先輩たちの反原発・脱原発の長くねばり強い闘い、そして福島の人々の苦しみと思いを胸に、その加害・被害の一端を担ってしまった私たちは、腹を据えて歴史のけじめをつける努力をするつもりである。国民の声で東日本・首都圏で女川・福島第二・東海第二・浜岡を包囲して再稼働を断念させ、廃炉に最後まで責任を持たせなければならない。