【連載】 水道水のセシウム濃度調査 第10回 調査結果まとめと考えさせられたこと(終)

『原子力資料情報室通信』第531号(2018/9/1) より

【連載】 水道水のセシウム濃度調査 第10回 調査結果まとめと考えさせられたこと(終)

本調査は、東京の水道水と河川水に含まれる放射性セシウム濃度を、地域別に季節変動も考慮して明らかにすることが目的でした。計画が終了したので、これまでの結果を振り返りながら報告します。
調査のきっかけは、原子力規制庁による上水(蛇口水)に含まれる放射性物質濃度の公表値において、2016年6月時点で全国で最も汚染されていたのが東京都(葛飾区)であったことです(7.3 mBq/kg)。ひとつ前の期間のデータでは、東京都の値(新宿区)は1.7 mBq/kgでしたので、採取地点の変更がセシウム濃度に大きな影響を与えているのではないかと考えました。関連して、浄水場の発生土(水を処理する過程で発生する水中のにごり成分の集積物)に含まれる放射性物質濃度を比較してみると、江戸川から採水している葛飾区の金町浄水場の方が、荒川から採水している東村山浄水場よりも系統的に高い値だとわかりました(521号)。
このことから、都内の水道水を原水別に3系統(江戸川、利根川・荒川、多摩川)、および、それぞれの河川水、そして、井戸水由来の水道水の合計7つの水試料に含まれる放射性セシウム濃度を調査する計画をたてました。自然の揺らぎを考慮し、採水時期は、夏の大雨のあと、冬の期間(山間部の降雪は河川に流出しない)、春の雪解けのあとの全3回おこないました。
測定結果を表に示します(番号は採取地点を示す。528号に記載の地図を参照)。全期間をとおして、江戸川の河川水と、江戸川由来の金町・三郷系の水道水に含まれる放射性セシウム濃度が、ほかよりも高いという結果を得ました。江戸川河川水のセシウム137濃度はおよそ3~5 mBq/kgで、水道水ではおよそ2~4 mBq/kgでした。次いで、汚染が認められたのは荒川の河川水および、利根川・荒川由来の水道水です。荒川河川水は全期間でセシウムが検出されましたが(0.7~1.8 mBq/kg)、水道水では、冬季の採水にて0.9 mBq/kgが検出され、他の期間は不検出でした。多摩川および地下水由来の水道水からは一度も放射性セシウムは検出されませんでした。
測定結果から、東京を流れる他の河川と比較して、江戸川の河川水に放射性セシウムが多く含まれており、これを原水とする水道水からも検出されていることが明らかになりました。調査のきっかけとなったように、新宿区の水道水(利根川・荒川由来)よりも葛飾区の水道水(江戸川由来)の方が、系統的にセシウム濃度が高いことが証明されました。
これらの値は飲料水の基準値(10 Bq/kg)よりも非常に低く、健康問題に直結するレベルではありません。しかし東京電力福島原発事故が起こったとき、将来、水道水に含まれるセシウム濃度が200 km以上離れた地域で最も高くなること、また、水道水の汚染レベルを核実験時代まで引き戻してしまうこと(527号)を予想した人はいたでしょうか? この調査を通して、原発事故が取り返しのつかない歴史的な環境汚染をもたらした事実を重く受け止め、人間が科学技術を過信することの危うさを改めて考えさせられました。(連載おわり)

(谷村暢子)