新潟県知事、柏崎市長、刈羽村村長宛ての要請書

泉田裕彦新潟県知事、会田洋柏崎市長、品田宏夫刈羽村村長 宛ての
要請書

2009年2月17日

特定非営利活動法人原子力資料情報室
山口幸夫共同代表
西尾漠共同代表
伴英幸共同代表・事務局長

時下、貴職におかれましては、益々ご健勝、ご活躍のことと拝察いたします。

 さて、史上に前例のない大きな地震動で被災した東京電力・柏崎刈羽原子力発電所で、7号機の起動試験の是非と再開の是非とをめぐって、様々な見方が語られ、論議がかわされております。東京電力は起動試験から、段階的に100%出力までもってゆき、過渡試験なしに再開・営業運転を計画しています。しかし、第14回(2月10日)の設備健全性、耐震安全性に関する小委員会では、それは危険であり、100%出力の後、原子炉を停止して詳細なチェックをすべきであるとの強い指摘が小委員から出されました。国の作業部会では、この重大な議論がないまま、起動試験から再開への許可を与えようとしています。
 2007年7月の新潟県中越沖地震によって、想定を遥かに超えた大きな地震動を受けたにもかかわらず、柏崎刈羽原発の安全性は保たれたとする一つの判断があります。東京電力がそれを主張し、原子力安全・保安院、そして、原子力安全委員会がこれを容認しました。他方、具体的な根拠を挙げて、そのような結論は科学的・技術的な見地から導くことは到底できないと危険性を主張している科学者・技術者たちが居ます。現在、この二つの主張がぶつかりあっています。
 私たち原子力資料情報室は、新潟県、柏崎市、刈羽村の三者が設置した二つの技術小委員会と東京で頻繁にひらかれる政府の作業部会の議論を、当初からずっと傍聴してきました。
 東京電力が提出する資料を一通り検討するのは政府の作業部会です。しかし、新潟県の小委員会はだいぶ様子が違います。東京電力提出の資料だけではなく、委員がパワーポイントを用いながら研究の最先端にもとづいた議論を展開します。また、地元の人々の提起を実地に調査して、真実を明らかにしようと努力しています。私たちは、この姿勢を高く評価するものです。そして、新潟県、柏崎市、刈羽村が政府と独立に地震で被災した原発の現状の健全性と今後の安全性を判断しようとしている努力に心からの敬意を表する次第です。
 しかし、二つの小委員会では、科学的な批判について異なった意見が出されており、未だ議論が収束しておりません。
 私たちは08年3月6日付で、新潟日報に意見広告を掲載し、柏崎刈羽原発は運転再開をすべきではないと、新潟県のみなさんに訴えました。しかし、残念ながら、私たちのそのときの懸念は現在も解消されていません。新潟県民の安心と安全は、いまだ保障されていないと考えています。
 地元と東京電力との信頼関係は、2002年8月の東京電力のトラブル隠し発覚以降、今日に至るまで依然としてつくられていません。明るみに出た再開へ向けた内部工程表、たびかさなる事故と火災のみならず、原子力安全・保安院までもが地元はプルサーマル受け入れを了承しているという間違った情報を全国に発信しました。
 二つの小委員会の熱心な議論にもかかわらず、私たちが意見広告で表明した疑念は、以下に述べるように残っています。
1)劣悪な地盤は「豆腐の上の原発」よりも、もっと危険な「くず湯に浮かぶ原発」へと後退しました。(08年12月23日、山崎晴雄小委員長発言)
2)地震発生断層として、F-B断層よりはもっと長大な佐渡海盆東緑断層がM7.5の地震を起こす心配が指摘されています。(石橋克彦小委員)
3)建屋の不規則なレベル変動の原因がまだ解りません。「くず湯に浮かぶ原発」のせいでしょうか。次の地震に耐えられるのか、非常に心配です。
4)2?4%以下の設備の塑性ひずみがあるのか、ないのか、結局わからないというのでは、不安が除けません。
5)中越沖地震では大きな放射能漏れはなかったとされました。しかし、私たちが行った調査では松葉に放射能(炭素14)が検出され、地元の人たちの調査では桜の花びらに通常以上の異常が見つかっています。生態系への放射能の影響が心配です。
 こう見てくると、あの地震で引き起こされたさまざまな事柄について本当のことがいまだ判らないのです。

そこで、貴職に強く要望したいとおもいます。
(1)小委員会での議論は中途半端な両論併記ではなく、徹底的に行って、科学的な結論を導いてください。
(2)それぞれの主張とその根拠を県民のだれにも分かる言葉で説明してください。
(3)2009年2月現在、柏崎市と刈羽村の住民、及び、他地域の新潟県民の、上に述べたような疑問が解かれないままでいます。これを、解消するために、県内各地で小委員会委員と住民とが直接対話できる機会を複数回つくってください。
(4)住民・県民が心から安心感を持てることを第一とするか、7号機再開で地域経済の振興を図るか、前例のない判断に『30年後の柏崎を考える』(新潟県自治研センター発行)が示唆を与えていると思います。ぜひ、同書にある「10の提言」についてご検討ください。