電力システム改革貫徹のための政策小委員会 東電救済の貫徹に終わる恐れ

『原子力資料情報室通信』第512号(2017/2/1)より

電力システム改革貫徹のための政策小委員会 東電救済の貫徹に終わる恐れ

 電力シスムテム改革貫徹のための政策小委員会(以下、貫徹委)が中間とりまとめ案を公表し、パブリックコメントが1月17日まで行われた。
 電力システム改革貫徹の目指すところは需要家の選択肢や事業者の事業機会をいっそう拡大することである。そのための諸政策と、併せて、電力が抱える課題の解決と称して財務会計面での改革などが提案されている。
 貫徹委は2つのワーキンググループ(WG)で具体案が審議された。電力市場整備WGと財務会計WGである。本稿では市場整備問題に触れつつ、消費生活に影響の強い財務会計面での改革について述べる。

市場整備の効果は限定的
 報告案は市場整備として主に、ベースロード電源市場と非化石価値取引市場を創設することを提案している。前者は、石炭火力、原子力、大規模水力などの電源を取引する市場で、新電力がこれらの電源を調達できるようにするために創設すると言う。後者は再生可能エネルギー(以下、再エネ)と原子力の非化石電源としての価値を取引するものだ。以前にあったグリーン電力証書のようなもので、これを買うことにより非化石電源を導入したと見なすのである。2030年時点で非化石電源の割合を44%にすることを経産省が求めているので、この価値の取引によりクリアできるようにしようというわけだ。
 もともとは、卸電力市場で活発に電力が売買されていれば、わざわざベースロード電源や非化石価値の市場は必要がない。
 実は卸電力市場は、2004年に卸電力取引所(JPEX)として創設された。ところが、この取引所を通した電力の売買は、日本の全電力販売量のわずか2.6%に留まっている(2016年6月時点)。これは英国51%、北欧86%(いずれも2013年度)、フランス25%(2015年度)と比べてあまりにも低い。この理由は、旧一般電気事業者(以下、9電力。沖縄を除く)が市場にほとんど電力を出さないからである。かろうじて自主的取組として余剰電力を出すに留まっている。
 2020年に実施される発送電の分離形態は法的分離となっている。すでに東電は事態を先取りして法的分離形態を体現している。すなわち、東京電力フュエル&パワー(火力発電)、東京電力エナジーパートナー(配電)、そして東京電力パワーグリッド(送電)に分社化し、東京電力ホールディングスがこれらの株を保有して経営を支配している(原発は同社が保有)。これでは東電ホールディングスの意向が強く働き、送電部門の中立性が危ぶまれる。他の9電力もこれに追随するだろう。
 本来なら所有権を分離して完全に独立した会社に分けるべきだ。でないと分社化した会社間の取引が中心に行われて、発送電の法的分離後も、卸電力市場が活性化することは考えにくい。
 経産省は電力を市場に出すことを9電力に強制できないという。そこで、後述する損害賠償費用の一部を消費者負担とするインセンティブを付け、電源を特定して、創設する市場を機能させるつもりだ。損害賠償費用の消費者転嫁は東電対応であるが、市場整備の突破口とも考えているのだろう。

廃炉会計制度でも廃炉は進まない
 財務会計WGでは廃炉会計制度と損害賠償の仕組みが提案された。二提案は共に電気事業会計規則の変更に関連してくるというだけで、両者の本質的な関連性はない。
 廃炉会計制度は、廃炉へのインセンティブを高めて、エネルギー基本計画に掲げる原発依存度低減を図るという。すでに2013年と15年に改定され、今回はこの若干の修正という内容になっている。まとめると、40年もしくはさらに早くに廃炉した場合に、廃炉後も使用する設備(例えば使用済み燃料プールなど)については廃炉時に一括除却せず、資産として減価償却を続けられるようにし、その減価償却費は送電部門で回収することを認めている。また、廃炉費用は必要額を原則40年で積立てることにしているが、不足分も送電部門で回収できるようにする。つまり、託送料金を通して全消費者に負担させようというのである。このような極めて特殊な電気事業会計制度への批判も強いが、そもそも、この制度を導入して廃炉が進むとは考えにくい。高浜1・2号炉に続いて美浜3号炉も40年を超える運転期間の延長を申請し認められている。9電力が40年超運転をめざしていることが明白だからだ。

最大の狙いは消費者負担による東電救済
 報告案は原発事故による賠償の備えと福島第一原発の廃炉の資金確保を消費者に負担させることを提案している。これこそが、今回の報告案の最大の狙いではないか。報告案には福島原発事故の賠償額や廃炉費用の増加分について触れず、制度に言及しているだけだ。費用の増加は非公開で開催された「東電改革・1F問題委員会」(以下、東電委)で示され、併せて費用負担のあり方も示された。1Fとは福島第一原発のことだ。たった1枚の参考資料であるが、それに沿って貫徹委の報告はまとめられているのだ。
 この資料によれば、確保すべき資金として、1Fの廃炉・汚染水対策費が6兆円増加して8兆円、損害賠償額が2.5兆円増加して7.9兆円、除染費用と中間貯蔵費用が2兆円増加して5.6兆円と再評価されている。
 このうち廃炉・汚染水対策費は東京電力ホールディングスの利益から積み立てるとしているが、確実に利益が出るのは送電部門(東京電力パワーグリッド)である。送電部門は自由化後も総括原価方式が継続されるから確実だと経産省は言う。これは廃炉費用を託送料金に組み入れることではなく、託送料金が今より高くなることはないと説明しているが、自由化により本来は下がるはずの託送料金が、高止まりする可能性を認めている。除染や中間貯蔵費用は国が立て替えていて、従来通り1兆円で買い取った東電株を将来売却してかかった費用に充てる。
 問題は損害賠償費用である。経産省は唐突に「事故前に確保されておくべきであった賠償への備え(過去分)の負担」のあり方という問題設定を行った。事故は起きない前提で政策を作ってきた政府の無責任な開き直りである。今後とも、最大事故を予測すれば福島原発事故を遥かに超える可能性もあるのに、どう賠償額を確保しておくべきなのか。滅茶苦茶な論理展開であるが、この「過去分」を導入することで、新電力に移行した消費者にも負担を強いる構造ができたのだ。具体的には託送料金を通して増加分の費用回収を行う(東電委では2.5兆円だが、貫徹委報告案では2.4兆円で試算)。
 一般家庭の1ヶ月の電力消費量で、過去分は18円程度だと試算している。これに加えて、産業部門からの間接的な負担もあると、ご丁寧に注釈までついている。回収期間は40年を想定しているので、毎月の出費は40年間続く。計算方法も論理性はなく、15年度の設備容量を基にしているのは、2.4兆円を出すための数字合わせとしか考えられない。
 事故が起きた後で本来確保しておくべきだったと言われるのなら、一般消費者はそのような設備はとても怖くて手が出せないというのが心情だろう。
 こうした諸提案は東電を存続させる東電救済策として出されている。これに対して、本来は東電を解体(法的整理)するのが先だとの声が改めて高まっている。東電とその大株主が何の負担もなく救済されて、一般消費者に負担が押し付けられる構造こそが改められるべきだ。         

(伴英幸)