喜友名さん労災認定!原発被曝労働者の悪性リンパ腫で初

 『原子力資料情報室通信』第413号(2008/11/1)より 

全国のみなさま、ご支援ありがとうございました。

喜友名正(きゆなただし)さん、労災認定!
原発被曝労働者の悪性リンパ腫で初めて

 喜友名正さんの悪性リンパ腫が、原発労働ではじめて、労災認定されました。
 10月27日、淀川労働基準監督署から支給決定し、遺族に通知したというという連絡があり、お連れ合いの喜友名末子さんは代理人である金高望弁護士とともに沖縄県庁記者クラブで会見に臨みました。
 厚生労働省の電離放射線障害の業務上外に関する検討会は、10月3日に開催された第5回会議で、悪性リンパ腫と業務上被曝の因果関係を認めました。その報告を受けた淀川労基署は、2006年9月に出した不支給決定を取り消し、労災と認めたのです。
 全国のみなさんからの15万筆を超える署名と地道に重ねた厚労省交渉などが大きな力となりました。みなさんとともに喜びを分かち合いたいと思います。
 正さんの病気は労働災害によるものと確信し、この日を待ち望んでいた末子さんは「全国のみなさんの支援のおかげです。感謝の気持ちでいっぱいです。夫が亡くなって、止まったままだった私の時間が動き出した。体の底から力がよみがえってきた感じです。夫と同じように原発で働きがんなどの病気で苦しんでいる人がいれば、応援したい」と、喜びとこれからのことを力強く語ってくれました。

喜友名さんが働いた過酷な労働現場

 末子さんによると、正さんは健康で働くことが大好きで、病気で仕事を休むことなどほとんどなかったそうです。中学時代はバスケットできたえ、釣りや海にもぐり漁をするなどスポーツ好きで活動的だった正さんが、1997年に原発で働くようになってから疲れを訴えるようになりました。スポーツをする気力もなくなり、おどろくほど手足が冷えるようになり、食欲も日に日になくなりました。
 2001年ころからひんぱんに鼻血が出るようになりましたが、病気とは思わず働き続け、04年1月には体調不良となり、2月に退職を余儀なくされました。
 退職後突然、顔の右半分が大きく腫れ上がり、沖縄県立病院に入院、鼻に腫瘍が見つかり、緊急手術を受けました。同年5月、琉球大学医学部付属病院に転院し、血液のがんの一種である悪性リンパ腫(鼻型NK/Tリンパ腫)と診断され、壮絶な闘病の末、05年3月亡くなりました。
 身近で正さんの体調の変化を見てきた末子さんにとって、正さんの病気は原発で働き被曝した労災以外の何ものでもなかったのです。末子さんは悪性リンパ腫という病名が決まった時点で、病院に「これは労災にまちがいないから」と治療費の支払いをストップしてもらったそうです。
 末子さんが2005年10月に行なった労災申請に対し、淀川労基署は06年9月4日「傷病の発症原因が不明と判断されるため、死亡と業務との相当因果関係が認められない」として、不支給決定を行ないました。
 末子さんは、直ちにこれを不服として、10月23日、大阪労働局に不服申し立て(審査請求)を行ないました。
 金高弁護士から、原子力資料情報室に相談があったのはこのころです。正さんの放射線管理手帳や勤務した親会社から提出された被曝管理台帳のデータにもとづいて整理したところ、正さんが短期間にいかに高い線量をあびたかを明確に示していました。
 正さんは沖縄から全国7ヵ所の加圧水型原発に飛び、定期検査の現場で、放射能漏れの検査をしていました。
 末子さんによれば、正さんは仕事に出かけたと思ったら「放射線を浴びすぎた」と言ってすぐに沖縄に戻ってくることがたびたびあったそうです。仕事をしないと収入がなくなるので、仕事を求めてまたすぐに別の原発に行き、原発に入れないときは、沖縄で別のアルバイトをしていたのです。正さんが命を削って働いた過酷な労働現場については、まだ何も明らかにされないままです。

 厚労省は、第5回検討会で検討した資料の一部だけを、10月20日、ホームページで公開しました。「悪性リンパ腫、特に非ホジキンリンパ腫と放射線被ばくとの因果関係について( www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/s1010-3.html )によれば、「悪性リンパ腫、とくに非ホジキンリンパ腫は、一般的にリンパ性白血病の類縁の疾患として取り扱われており、両者は類縁疾患とみなすことができる。このことを踏まえると、悪性リンパ腫、とくに非ホジキンリンパ腫については、認定基準(略)において白血病の認定の基準として定められている放射線被曝線量を参考として、判断を行うことが適当と考えられる」と見解を示しています。疫学調査の結果は、白血病とくらべると、リンパ腫の放射線被曝との関係性が弱いこと明らかであるが、労働者救済の観点から認定するという内容になっています。今後、もっと厳密に分析しなければなりません。

これからの課題

 これまで原発での被曝労働者の労災認定は、白血病の5人と2004年1月に多発性骨髄腫で認定された故・長尾光明さんだけでした。喜友名さんの悪性リンパ腫が認定されたことで、労災対象の拡大に向かってさらに一歩踏み出しました。
 今回の成果を泣き寝入りを余儀なくされている多くの被曝労働者の救済に結びつけるために、今後引き続き、下記の残された課題で厚労省交渉を行ないます。
①喜友名さんの悪性リンパ腫労災認定と、その経過を全国の労働局、労働基準監督署に徹底して通知すること
②多発性骨髄腫や悪性リンパ腫など白血病類縁疾患を、認定基準の例示疾患に加えること
③喜友名さんの過酷な被曝労働の実態とその原因を明らかにすること
④情報を公開し、検討会の透明性を高めること
 これらの問題に取り組むことで、闇に葬られた被曝労働の実態を明らかにしていきたいと思います。これからも、ご協力よろしくお願いします。

(渡辺美紀子)


■報告集会を準備中です。
「喜友名さんの労災認定を支援する会」では、支援のみなさまへのお礼、運動の経過と成果、今後の課題と取り組みを内容とする報告集会を計画しています。詳細が決まり次第、ニュースやホームページなどでお知らせします。

喜友名労災認定勝利報告集会(大阪)

日時 11月30日(日)午後1時30分~5時です

会場 ヒューマインド、第2研修室

JR環状線 蘆原橋下車 徒歩7分
www.humind.or.jp/map.html

■まだお手元に集まった署名をお持ちの方は、ぜひ送ってください。これからの交渉のとき提出します。

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