原子力資料情報室声明 「もんじゅ」廃炉の方向決定 原子力政策の大転換へ結びつけよう

「もんじゅ」廃炉の方向決定 原子力政策の大転換へ結びつけよう

 

2016年9月27日

NPO法人原子力資料情報室

 

 9月21日に原子力関係閣僚会議が高速増殖炉「もんじゅ」について、「廃炉を含め抜本的な見直しを行うこととし、その取り扱いに関する政府方針を、高速炉開発の方針と併せて、本年中に原子力関係閣僚会議で決定することとする」ことを決定した。遅きに失した感もあるが、率直に歓迎したい。

 原子力関係閣僚会議は、「原子力政策に関する重要事項に関し、関係行政機関の緊密な連携の下、これを総合的に検討することを目的として」設置され、外務大臣、文部科学大臣、経済産業大臣、環境大臣、内閣府特命担当大臣(科学技術政策)、内閣府特命担当大臣(原子力防災)および内閣官房長官で構成されている。

 2015年11月の原子力規制委員会の勧告に対して文部科学省は「もんじゅの在り方検討会」を設置して新主体探しによる「もんじゅ」の延命を模索してきたが、いよいよ政治が廃止を決める事態に至った。

 本『通信』504号で「もんじゅに関する市民検討会」の提言に関して報告したように、「もんじゅ」は設備面、組織面で老朽化しており、運転はどう考えても無理だと考えられる。さらに、報道にあるように新規制基準に適合するための対策工事に2,000億円程度かかるとしている。それでも尚、新規制基準に適合するかは疑問だ。

 さらに東海再処理工場内にある燃料加工施設の耐震補強も2,000億円程度とされているが、田中俊一原子力規制委員長は、新たな施設が必要であるとの認識を9月7日の定例記者会見で示した。とすれば、さらに費用負担が必要になるだろう。運転に必要な費用は6,000億円を超えることは必至だ。

 一方、運転による研究成果の取り纏めが活かされる可能性は皆無と言っていい。なぜなら福島原発事故を経験した今では、原発よりいっそう危険な高速炉の建設を受け入れる自治体はないからだ。

 加えて、福島原発の廃炉に物的(費用)・人的資源を集中しなければならない状況であり、「もんじゅ」の再開のための諸費用を投入するべきでないとの判断も働いているのだろう。廃炉はもっとも合理的な判断と言える。

 報道によれば、西川一誠福井県知事は閣議決定後に県庁を訪れた松野文部科学大臣に対して、「目先にとらわれた場当たり的な対応」であり無責任きわまりないと、政府の説明責任を強く求めた。廃炉の最終決定には地元自治体へきちんと説明する作業が残っている。これを年内に終えたいとしているのだ。

 

核燃料サイクル政策の堅持というが

 関係閣僚会議は「もんじゅ」廃炉の方針と同時に「核燃料サイクルを推進するとともに、高速炉の研究開発に取り組むとの方針を堅持する」ことも決めた。注目しておきたいのは「高速炉」との表現だ。エネルギーセキュリティの観点から国産増殖炉の開発を目標としてきた60年来の原子力政策はようやく撤回された。この転換の政策的意味は大きい。

 高速炉は言ってみればプルトニウム専焼炉である。消費に着目すればプルサーマルがあり、余剰に着目するのであれば、それに加えて直接処分など他の方法がある。軽水炉とコスト面で引き合わない高速炉をわざわざ開発する必要性はない。その上、暴走爆発事故のおそれが高く、危険な原子炉である。

 なんとか開発の意義付けをしたいとの動機から出てきているのが、放射性廃棄物の減容化である。フランスは高速炉の実証炉建設を目指しているが、ここでも、減容化によるメリットが強調されている。

 フランスの高速実証炉計画はASTRID(Advanced Sodium Technological Reactor for Industrial Demonstration)と呼ばれ、電気出力60万kWのナトリウム冷却型の高速炉である。2025年の稼働を目指して、現在は基本設計の段階である。基本設計は2019年までに終える目標だが、すでに遅れが指摘されている上に、費用調達が困難に陥っているとも伝えられる。開発の行方は不透明と言わざるを得ない。

 高速炉開発の堅持は、さしあたりこのASTRIDへの協力と国内では研究路「常陽」による研究になる。どちらも既に進行中で、閣議決定はこの部分は変更しない、と言っているに過ぎない。なお、「常陽」は新基準適合性審査の申請を準備している段階なので、こちらも再稼働まで進むかは未知数である。

 日仏とも廃棄物の減容化をメリットとして強調しているが、発生する廃棄物全体を考えれば、減容化につながらないことは原子力委員会の核燃料サイクル技術等検討小委員会が2012年に明らかにしている。加えて、どのように処理しても高レベル放射性廃棄物の処理・処分は避けられない。

 従って、これを機にサイクル政策自体の抜本的な見直しを進め、撤退する道筋を付けるべきだと考える。

 

高速炉開発会議(仮称)の設置

 閣議決定は国内の高速炉開発の司令塔として「高速炉開発会議(仮称)」を設置することを決め、経済産業大臣を中心に文科大臣やJAEA、電気事業者および民間メーカーで構成されるとしている。旧来の5者協議会の焼直しである。同協議会は2006年7月に設立され、2015年頃に高速増殖炉の実用化戦略研究をまとめて公表する予定だったが、実現しないまま現在に至っている。

 「もんじゅ」が廃炉になったことで、焼直し「開発会議」が経産省の主導で行われることになった。同省の権益が一段と増したと言える。

 しかし、増殖炉を高速炉に変えたところで、高速炉開発会議が成果を出せる見通しはない。机上の計画はできたとしても、「もんじゅ」や六ヶ所再処理工場のガラス固化工程に見られるように国内技術開発の失敗を考えれば、建設地の困難の問題もあるが、とても実現性があるとは考えられない。

 

原子力政策の大転換を

 経産省は再処理−プルサーマル路線への転換を図ってきた。六ヶ所再処理工場で抽出されるプルトニウムはプルサーマルで消費することを基本としている。しかし、これはその先の高速増殖炉開発を目標としての暫定的な路線との位置づけだった。いま、高速増殖炉開発が放棄されたことで、再処理の意義も失われた。コスト的にも高いプルサーマルが電力市場の競争環境の中で生き残るには政府による手厚い保護策が必要だ。経産大臣による認可法人として設立された使用済み燃料再処理機構は保護策への布石と言える。高速増殖炉が開発されてこそ、原子力発電が意義を持つと言われてきた。原子力政策そのものの根本的な見直しへと進めるべきだ。

 (本声明は、『原子力資料情報室通信』第508号に掲載されます)