オーストラリアの核のゴミ処分場計画

 『原子力資料情報室通信』第502号(2016/4/1)より

フィリップ・ワイト(FoEアデレード、元原子力資料情報室国際担当)

 

 

 

 本誌492号に、南オーストラリア州政府(South Australia、以下SA州)が2015年3月に設置した核燃料サイクル王立委員会(以下、王立委員会)1)に関する記事を寄稿した。王立委員会は2016年2月15日に中間報告を発表し、最終報告は5月6日に発表する計画としている。
 中間報告の主要部分は州政府に対して世界の高レベルおよび中レベル放射性廃棄物2)の国際的な保管および処分施設の設置を提案するものだった。この提案は少なくとも幾つかの国々、特に北東アジア諸国が、SA州が彼らの高中レベル放射性廃棄物を受け入れた場合少なくない金額を支払うとの推測にもとづいている。主要な候補先には韓国、台湾、日本が含まれている。オーストラリアのジュリー・ビショップ外相は最近の訪中訪日後のコメントで中国をこのリストに追加している。しかし、独裁的な国家で広大な土地を持つ国が自国内で処分場を探すよりもオーストラリアに放射性廃棄物を送るほうが安くて簡単だと考えることは難しい。他の国々でも自国の放射性廃棄物の重荷を他国に転嫁して、遠くに追いやることができるのであれば喜んで乗ってくる国があるかもしれない。王立委員会の提案シナリオにおいてはいくつかの主要な原子力発電国は除外されている3)。しかし彼らは別のプランも持っている。
 前回の記事で指摘したように王立委員会への諮問は4つの課題を検討することだった。以下にその4つの課題と中間報告の回答をまとめた。

課題1:国内における放射性元素の探鉱、採鉱、選鉱規模拡大の可動性
 ⇒中間報告:「ウラン採鉱の拡大は経済的利益をもたらす可能性がある。ただし最も大きな機会ではない。」
課題2:転換、濃縮、燃料製造、再処理を含む処理量拡大の可能性
 ⇒中間報告:「すでに供給過剰であり、市場は不安定である。SA州におけるウラン処理能力の拡大には次の10年間において商業的に成立する可能性はない。(中略)原子力発電がない場合、SA州において使用済み燃料の再処理施設は不必要であり、商業的にも不要である。」
課題3:原子力発電施設を建設・運営することの可能性
 ⇒中間報告:「予見可能な将来にわたってSA州における原子力発電所からの発電に商業的な余地は存在しない。」ただし、「原子力発電が必要とされるときに備えて、今から検討していくことは有効だろう。」
課題4:SA州における放射性廃棄物の管理・保管・処分施設の設置の可能性
 ⇒中間報告:「保管・処分統合型施設は商業的に可能性があり、保管施設は2020年代後半には運営可能となる」

 ほかの領域においては特定の限定的な環境下においてのみの支持があったものの、領域4のみは強い推奨をうけることとなった。
 王立委員会が原発や他の核燃料サイクル施設の導入を支持しなかったことは、原子力批判派の大きな勝利だ。これは日本を含む国際的な専門家たちが王立委員会の委員やスタッフに与えた影響を反映していると言えるだろう。
 オーストラリアのメディアは原子力反対派を素朴な理想主義者だと描いている。しかし、王立委員会の中間報告は原子力推進派こそ素朴な理想主義者だということを明らかにした。私が4年前に日本からオーストラリアに戻った時、私は多くの人々やメディアが福島原発事故などなかったかのように原子力の空想的な夢を鵜呑みにしていることに驚いたものだ。彼らは原子力を気候変動対策の切り札だとか、小型モジュラー炉(SMR)や先進的核燃料サイクルといった第四世代型原子炉が核のゴミを燃料に変えてくれ、安くてクリーンで事実上無限に電力を供給できるといったことを信じきっていたのだ。しかし中間報告はSA州における原子力開発を長期にわたって完全に否定した。中間報告はこうした技術が短中期的に実現不可能だと明らかにしたのだ。
 しかしながら、日本が高レベル放射性廃棄物をオーストラリアに捨てることに興味を持つだろうという検討課題4の主張には、根拠が無いわけではない。日本は自国内での最終処分場探しに長年苦しんできたから、他国に責任を押し付ける機会を歓迎したとしても驚きはない。もともと日本はオーストラリアに比べて地質学的に不安定で、処分場の完全性を保証するのが難しい。湿潤な環境も放射性物質を施設外に漏らしてしまうリスクを高めている。さらにオーストラリアに比べて人口密度も高い。
 1990年代後半から2000年代初頭にかけて、オーストラリアに地層処分施設を作るという提案がパンゲア(Pangea)という組織によっておこなわれていた。その提案は否定されたが、パンゲアの科学的な検討グループに東京大学の鈴木篤之教授(当時)が加わっていたことは記憶しておくに値する。鈴木氏は原子力安全委員会の元委員長で、日本原子力研究開発機構の元理事長でもある。彼の関与から、パンゲアの提案に日本の原子力村が関心を持っていたと推測するのは自然なことだろう。パンゲアとその後継者であるアリウスは、いつもオーストラリアに核のゴミを捨てることに関心を示す国の1つとして、日本をあげている。
 オーストラリアの提案と、モンゴルに日本や他の国々の高レベル放射性廃棄物を処分するという提案には共通項がある。2011年の毎日新聞のスクープで明らかになったこの提案は日本の3つの原発メーカーの1つで、米原発のメーカーウェスティングハウスを子会社に抱える東芝の不適切会計問題の文脈で最近報じられた。1月16日付Japan Times4)は以下のように報じている。
 「表向きは3つの政府間(モンゴル、日本、米国)で議論されたが、これは米国と東芝によって、包括的核燃料サービスと呼ぶスキームで新興国に原発を売り込むために描かれた計画だった。このスキームによれば、原発メーカーは潜在顧客に対して原発を購入した場合、将来発生する核のゴミの処理を引き受けることを保証することとなる。」
 東芝は使用済み燃料の処分も含むパッケージ型提案ができれば原発を売りやすいと考え、この計画に関わったのだ。この計画はモンゴルが日本の高レベル放射性廃棄物を受け入れると、直接言ってはいない。しかしもし他国の使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物を引き受けるなら、日本のゴミも引き受けないわけはない。モンゴルの提案は人々の反対によって凍結されたが、地下に潜っただけかもしれない。オーストラリアの観点から見れば毎日新聞のスクープを書いた記者の次の記事が興味深い。5)
 「(モンゴル外務省のオンダラー原子力担当大使への)インタビュー後、大使はオーストラリアで似たような計画があると耳にしたが、なにか情報があれば教えてほしいと言ってきた。モンゴル政府のオーストラリアとの最終処分場受け入れ競争に向けた熱心な姿勢を示すものだ」
 おそらく大使が言ったのはパンゲア提案のことだろう。しかしこのビジネスにおいてモンゴルがオーストラリアを競争相手だと見なしていたのは注目すべきだ。しかし、原子力発電国が他国に代金を支払っても使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物を送ることに関心があるからといって、自動的にそのビジネスが利益を生むとは限らない。
 コンサルタント会社Jacobs MCMの王立委員会向け報告書は、使用済み燃料13万8000トンと39万m3の中レベル放射性廃棄物処分場が100年間にもたらすSA州の経済的利益を以下のように推計した。
*収入合計(割引なし):2570億豪ドル、費用合計は1450億豪ドル
*最初の30年間は毎年50億豪ドル以上、理論上処分が完了するまでは毎年20億豪ドルの収入が発生する
 魅力的な数字に見えるかもしれないが、この数字は全く検証されていない。世界のどこにも放射性廃棄物処分の商業取引のモデルがないからだ。さらに、予算通りにいく巨大プロジェクトはあるだろうか。たとえば六ヶ所再処理工場の公式のコスト推計では当初予測の3倍のコストとなっている。仮にSA州の放射性廃棄物処分場コストがJacobsの推計の3倍になった場合、コストは収入を大幅に上回ることになる。SA州は施設の完成前に使用済み燃料の受け入れを始めることを検討しているが、もし送り出した国が自国内でもっと安く処分する方法を見つけたり、たとえばモンゴルといった他の国からもっと安い処分提案を受けたりしたらどうなるのだろうか。そのような場合、SA州はもう送り返せない核のゴミとともに取り残されることになる。南オーストラリア大学のリチャード・ブランディ教授は以下のように指摘している。
 「後世に絶え間なく続くコストを残すことになり、彼らは貧しくなるだろう。前の世代を恨むようになるかもしれない」6)
 予想できない長期の計画における経済的なリスクだけではない。放射性廃棄物の輸送時や施設の稼働時の事故リスクも無視している。放射性物質は予想しているよりずっと簡単に外部に出てくる。現在、長寿命の放射性物質が深地層の処分施設に実際に保管されているのは米ニューメキシコ州の核廃棄物隔離試験施設(WIPP)だけだが、そこでは外部に放射性物質が漏洩するのは20万年に1回の確率だと予想されていた。しかし実際には稼働後たった15年で外部への放出と労働者の被ばくが発生した。7)
 社会的な問題も考慮しなければならない。高レベル放射性廃棄物の保管と処分をおこなう施設は不可避的に先住民の土地もしくは先住民にとって文化的に重要な土地が選ばれることになる。オーストラリアはウラン鉱山、核実験など核関連の活動を先住民の土地でおこなってきたという残念な歴史がある。だから先住民が懐疑的なのは自然なことだ。先住民を代表するオーストラリア非核連合は王立委員会のSA州を国際的な核のゴミ処分場にするという提案を「短期的な利益のために、長期に渡る被害をうける」8)とすぐさま拒絶した。
 王立委員会は地元の同意をこのような計画の不可欠な条件だとしている。しかし、同意がどのようなものかは定義していない。オリンピックダム鉱山の前例を踏まえるなら、先住民の権利と利益が損なわれかねない。オリンピックダム鉱山は将来の拡大も含めて先住民土地権利法の適応が除外されているからだ。
 オーストラリアと日本の反原発運動は複数の課題に少ない人員で取り組まなければならず、大変な状況に置かれている。それでも、SA州やオーストラリアの他のどこにも日本の核のゴミ処分場を作らせない取り組みで、協同して取り組む方法を見いだすことを希望したい。その最初の段階として、どんな進展でも共有しあい、また政策や運動戦略について共有しなければならない。
 先住民の出した声明に賛同することも市民団体ができる活動の1つだ。彼らは世界の非政府団体に声明に賛同し、彼らの土地を高レベル放射性廃棄物の処分場にさせないよう手助けして欲しいと求めている。もし、あなたの団体が声明に賛同いただけるなら、是非以下のサイトにアクセスして欲しい。
www.anfa.org.au/sign-the-declaration/
(声明の和訳はcnic.jp/6932から)
(翻訳:松久保肇)

1)核燃料サイクル王立委員会ウェブサイト:www.nuclearrc.sa.gov.au
2)中間報告は高レベル放射性廃棄物と使用済み燃料を同一視しているが、再処理後の高レベル放射性廃棄物を除外していない。
3)Jacobs MCMの報告書は中国・ロシア・米国・フランス・英国を検討対象から除外している。
4)Philip Brasor, 16 January 2016, “The elephant in the room for Toshiba is nuclear”, The Japan Times:
5)Haruki Aikawa, 13 March 2012, “Mainichi scoop on Mongolia’s nuclear plans highlights problems in dealing with waste”, Mainichi Japan:
 english.news.mn/content/100100.shtml
6)Richard Blandy, 23 Feb 2016, ‘Nuclear waste dump confounds cost-benefit analysis’, InDaily:
 indaily.com.au/business/analysis/2016/02/23/nuclear-waste-dump-fails-the-cost-benefit-test/
7)Matthew Wald, 29 Oct 2014, ‘In U.S. Cleanup Efforts, Accident at Nuclear Site Points to Cost of Lapses’, The New York Times:
 www.nytimes.com/2014/10/30/us/in-us-cleanup-efforts-accident-at-nuclear-site-points-to-cost-of-lapses.html
8)Australian Nuclear Free Alliance, 16 February 2016, “Long term damage for short term gain: ANFA slams Royal Commission’s proposal that SA host an international nuclear waste dump”
 www.anfa.org.au/long-term-damage-for-short-term-gain-anfa-slams-royal-commissions-proposal-that-sa-host-an-international-nuclear-waste-dump/