「長期エネルギー需給見通し(案)」への意見

原子力資料情報室は、本年4月8日、経済産業省が実施していた「長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)に関する意見」に対して意見を応募しました。加えて、4月30日には、声明「世論無視のエネルギーミックス」を発表しています。

今般、経済産業省は、2030年のエネルギーミックスにおける原子力の比率を20~22%などとする「長期エネルギー需給見通し(案)」を発表、パブリックコメントを募集し、当室は、以下の意見を応募しました。

 

「長期エネルギー需給見通し(案)」への意見

2015/7/1

原子力資料情報室

 

1.2030年エネルギーミックスにおける原子力の比率はゼロに立ち返って検討するべき

 

 原子力について、2014年に策定されたエネルギー基本計画は「震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する」と定めていたはずだが、今回提示された案では想定されている2030年の総発電電力量(1兆650億kWh)に占める原子力比率は20~22%とされている。現存する原発を稼働率80%で全基稼働させ、さらに仮に、現在建設中の大間、島根3号が稼働したとして計算しても、炉規法の定めた40年廃炉原則に立って考えれば、2030年時点のエネルギーミックスにおける原子力比率は、20基14%程度となる。敷地内活断層の問題で再稼働が困難とみられる東通、志賀、敦賀、柏崎刈羽、地元の反対姿勢で再稼働が困難とみられる福島第二を考慮すれば、この値はより低くなり、10%程度となる。再稼働できた全ての原発で20年の稼働延長をおこない得たとして2030年時点の原子力比率は19%程度となる。

 現実的には、過去の原発稼働率が1995~2001年を除いて恒常的に80%を下回っていたこと、現在審査に入っていない原発や審査に入っていても再稼働できない、または稼働延長できない原発の存在を考慮すれば、この値はより低いものとなるだろう。

 よって、本案は、多くの既存原発の再稼働および稼働延長を前提とした、むしろ原子力に回帰する計画だ。

 一方、エネルギー基本計画では「いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、国民の懸念の解消に全力を挙げる」ことが前提とされているが、各種世論調査によれば、市民の原発再稼働への懸念は低下することは無く、依然、60%前後を推移している。そのような環境下で再稼働が順調に進むとは想定しがたい。本案で提示された原子力比率は現実的には達成不可能な数字といえる。

 本案が正式決定されれば、この見通しに従って環境整備がおこなわれることとなるが、現実的には達成不可能な原子力比率を打ち出した結果、2030年には電力供給不足が発生することすら懸念される。空想的な原子力比率を提示するのではなく、市民の圧倒的多数の世論を考慮して、一体どのようにして原子力をゼロにするのかを検討するべきである。

 

2.エネルギー需要見通しは過剰である

 

 2030年のエネルギー需要は実質経済成長率が平均年率1.7%となることを前提に算出されている。しかし、日本の生産年齢人口はおおよそ年1%程度で減少していくことを考慮すれば、実質的には年率約3%の経済成長が想定されている。このような経済成長は実際に実現可能なのか。90年以降の経済成長率は年平均0.9%程度、さらに生産年齢人口の減少を加味すれば、現実的なメインシナリオは経済成長率0%であろう。本案の前提とされる経済成長率1.7%は過剰な見積りである。

 経済産業省は国家戦略の目標値としてこの数字を提示しているのだろうが、この見積りにしたがって設備投資をおこなえば、過剰な社会インフラ投資につながり、将来世代への負担につながる。

 人口減社会にふさわしいエネルギー需要見通しこそが、今回のエネルギーミックス策定に求められている。案策定を根本からやり直すべきである。

 

3.エネルギーミックスは省エネルギーと自然エネルギーをベースに検討するべきである

 

 日本は1970年代以降、エネルギー利用効率が大幅に改善したが、1990年代に入るとその速度は鈍化、1990年代末以降、GDP 比一次エネルギーで欧州諸国に遅れを取るようになった。一方で「かわいた雑巾」論に代表されるように、もはや改善余地は存在しないと強調することで、省エネルギーへの努力を後回しにしてきた。結果、日本の総CO2排出量は福島第一原発事故前の2008年度において1990年比6.4%増に達していた。

 あらゆる廃棄物の対応原則は発生抑制、再使用、再生利用であり、まずは発生抑制こそが第一の選択肢である。CO2排出量の削減にも省エネルギーこそを前提として検討するべきである。そのために、実効的な総量削減義務や排出権取引市場の設立などの制度的措置を早急に取り入れるべきである。

 また、本案策定過程では、環境省は2030年のエネルギーミックスにおける自然エネルギー比率を35%とすべきとした。また、国際エネルギー機関の”World Energy Outlook 2014”は、世界の総発電電力量にしめる自然エネルギーの割合を、2020年に26%、2040年に33%になると推計している。しかし、本案では、2030年で22~24%と極めて消極的な値となっている。

 本案は「徹底した省エネルギー・再生可能エネルギーの導入」と主張しながら、実態は極めて消極的であり、世界の自然エネルギーに転換していく動きに逆行している。原発再稼働反対という市民の圧倒的多数の意見を踏まえ、サステイナブルな社会を実現するためには、環境省の提示した2030年の自然エネルギー比率35%を採用すべきである。