技術検討小委員会(6)・長計策定会議(9)への意見書

技術検討小委員会(6)・長計策定会議(9)への意見書

2004年10月6日
原子力資料情報室 伴英幸

1. 直接処分コストについてのコメント

1.1. 詳細なデータの公開とともに試算結果が公表されたことは、原子力委員会の情報公開に対する姿勢を示すもので、よいことだと受け止めます。その上で、一つ一つの単価や費用算定額について公開できない理由があれば、それをきちんと説明してくださることが望ましいと思います。

1.2. 試算結果は、シナリオ比較のための諸条件、さまざまなレベルの仮定の基に直接処分コストを試算した結果です。議論の過程では、たとえば使用済み燃料を90年間貯蔵する案も出されました。比較のためには処分までの貯蔵年数を同じにすることになりましたが、仮に、貯蔵年数を90年とした場合あるいは更に長期にした場合には、処分場の処分孔間距離や坑道間距離は「力学的安定値」に収まっていきそうです。面積はガラスの場合の2倍程度に収まりそうです。処分場面積が大きくなることから処分場選定の困難や処分場建設の困難が指摘されましたが、これら様々な困難も緩和されそうです。また、処分費用も相当に減ることになりそうです。つまり、政策が決まればそれに最適な方法があるといえます。
 また、電力各社は高燃焼度燃料を利用するように変わってきています。高燃焼度燃料の使用済みが主要な使用済み燃料になると、六ヶ所再処理工場では再処理できなくなります(平均燃焼度45GWd/tが維持できない)。また、不溶解残渣が増えて、再処理に対して技術的障害となることが予想されます。ガラス固化体の処分にしても、現在想定している内容と同様の条件では困難になり、貯蔵期間を50年を大きく超えて延ばさなくてはならなくなることも予想されます。
 他方、今回は使用済みMOX燃料の処分コストを単純に4倍と置きましたが、これに対しても、厳密なチェックが必要だと考えます。ウラン燃料の燃焼度が55GWd/tへと(あるいは将来はさらにあがるかもしれませんが)増えていけば、MOX燃料の燃焼度も40GWd/tから上げていくこととなるでしょう。そうなると、使用済みMOX燃料の処分は、今回仮定したような、1体を1つのキャニスターに入れて処分することさえ困難となると考えられます。処分までを考慮して燃焼度を規制するなどの規制も考慮しなければならないと考えます。今点は使用済み燃料も同様でしょう。
 『使用済み燃料の諸部説処分コスト算定結果に関する留意点』では「ガラス固化体の費用算定の際と同等の保守性を有する結果を得るべく」となっていますが、単に保守性と述べるだけでなく、コスト比較が可能な条件として設定したことも加えて明記するべきだと考えます。

1.3. 使用済み燃料の地層処分に関する研究の遅れは国の責任だと考えています。直接処分策の研究開発の必要性は以前からの指摘されていたことです。
 直接処分コスト試算の添付資料では、高レベル放射性廃棄物やTRU廃棄物の研究開発が相当に進んでいるような印象を受けますが、果たしてどうでしょうか? 一般の人が目にする例で言えば、深地層研究所の宣伝パンフレットには、地下深部は未知の世界と言った記述があります。また、核燃料サイクル開発機構のいわゆる2000年レポートやNUMOの2004年の「高レベル放射性廃棄物地層処分の技術と安全性」を見ても、これから研究開発することが本当に沢山あることが分かります。
 政策を変更するとこれまでの研究が水泡に帰すかのような発言がありますが、直接処分の今後の課題を、ガラス固化体に共通の部分、応用可能部分、直接処分固有の部分などに分けて、ガラス固化体のこれまでの研究開発をベースに対比させていただくとより分かりやすいと考えます。

1.4. 政策変更コストについて

 ①代替火力関連の算定については、技術検討小委員会のタスクではありませんので、「基本シナリオのコスト比較に関する報告書」では言及されないと思いますが、もしその考えでしたら、代替火力関連を同報告書から削除することを求めます。さらに、シナリオのコストに加算するべきでないことは以前にも述べましたが、書き込むとすれば、政策変更に伴う課題の欄にするべきです。
 ②課題の欄では、まず、政策変更コスト発生の責任者を明らかにするべきです。直接処分コストを市民から隠蔽して、政策を強引に進めてきた国や電力各社の責任を考えるなら、政策変更コストを「国民負担」にするべきではないと考えます。
 ③政策変更に対してはさまざまな対応策があるはずですが、コスト比較のために設定した電力需要を前提として、炊き増しのみが考えられています。省エネ策を中心とした多様な対応を考えるべきです。
 その上で、内容にも大きな疑問があります。このような場合は、今考えられる最も低い限界コストを提示するべきです。「喪失電力量」の算出根拠が曖昧な上、代替分の単価設定を見ると、火力の建設で対応していると考えられます。火力の稼働率を考えると、主として燃料費ですむのではないでしょうか? 仮に、増設が必要だとすれば、このような荒っぽいやり方でなく、厳密に増設分を算定する必要があると考えます。原子力発電に関しては③④のサイクルコストだけでなく、運転維持費も含めるべきです。火力3タイプの単純な平均も荒っぽいやり方です。

2. 長計策定に関する公聴会の青森での開催をお願いします

 第8回策定会議で委員にのみ配布された要請書は、「青森で早期のヒアリング開催」を求めるものでした(参考1)。シナリオ間の総合評価案が事務局から出され、さらに議論を重ねるためにも青森での公聴会の開催はたいへん意義のあることだと考えます。第8回の意見書で提出しました青森県政策推進室のアンケート結果をみても、また、三村知事の策定会議でのご発言においても満足している人が極めて少数と推測されます(「やや不満8%、不満20%、なんとも言えない50%」という別のアンケート結果を知事は引用されました)。さらに、国民的合意は深まっていないとの新潟県知事のご発言を伺うにつけ、決定した政策への理解を求めるのみならず、政策決定の過程において十分に意見を聞く必要があると考えます。その意味からも、青森県での公聴会の開催をお願いします。

3. シナリオ間総合評価についてコメント

3.1. 安全の確保:この点が一番重要な評価軸だと考えます。シナリオ①並びに②については、再処理工場、MOX加工工場での事故のリスクが高まります。シナリオ①は高速増殖炉を将来の目標として、初めて、意味を持つシナリオですが、高速増殖炉の事故のリスクも高くなります。
 また、再処理を続けることによって、常に一定量のプルトニウムが施設内に留まり、また、プルサーマル利用によってプルトニウムが日本中の原発へ輸送され続けることになります。原子力施設への攻撃が懸念される中で、安全の確保はさらに困難となります。

3.2. 環境適合性:次に重要な評価軸がこれです。シナリオ1&2は再処理することにより、放射性物質の環境放出が日常的に起こり、そのことによる環境汚染が懸念されます。たとえば、放射性のクリプトン85は過去の大気圏核実験の結果、大気1立方メートルあたり1Bq程度に上昇していますが、六ヶ所再処理工場が稼動し続けることで、青森上空の大気中の濃度は3000倍程度に達してしまうことが予想されます。
 また、海外再処理工場の周辺の白血病増加の報告は、因果関係は未だ証明されていないとはいえ、放射能による影響を十分に疑わせるものです。六ヶ所再処理工場を稼動させれば、将来、同施設周辺での増加も懸念されます。

3.3. 核不拡散:日本の核燃料サイクル政策は、とりわけ核(技術)の拡散が世界的に問題となっている現状において、懸念を増大するものです。また、東北アジアの緊張をいっそう高めることにつながります。
 IAEAの事務局長のエルバラダイ事務局長は世界の核(技術)拡散状況への対策として、核燃料サイクル政策のきわめて厳しい制限を提案しています(Carnegie International Non-Proliferation Conference Washington, DC 21 June 2004)。
 IAEAにより未申告核物質・原子力活動が存在しないことの「結論」を得ましたが、統合保障措置への移行は、軽水炉に限られており、たとえば核燃料サイクル開発機構の高レベル放射性物質研究施設(CPF)では再処理施設と同等の厳しい査察が協議されていると聞いています。また、六ヶ所再処理工場の稼動と同時に査察日数は大幅に増えることになります。それでも、六ヶ所での大量のプルトニウムの取り扱いでは、保障措置の最大の技術目標である「有意量の転用の適時の探知」が保証し得ないことは、核物質管理学会の萩野谷徹前日本支部長らも指摘している通りです。これらは大きな懸念材料となります。核燃料サイクル政策を放棄することが世界的核拡散に対抗する防止策だと考えます。

3.4. 経済性:コスト比較では直接処分政策が有利であるとの結果が出ました。第15回の「長計についてご意見を聞く会」に出席して意見を述べたメリーランド大学のスティーブ・フェター教授のコスト比較方法に従えば、再処理政策と直接処分政策が収支均衡するウラン価格はおよそ2億3600万円/トンUとなり、現在のウラン価格をトン当たり約550万円とすると、実に43倍に高騰するまで再処理に有利な状況にならないことになります(今回の試算結果を基に計算)。再処理が有利になることはないと言えます(参考2)。

3.5. 資源の節約:核燃料サイクルでは大きな節約になりません。原子力発電および核燃料サイクルは、拡大するエネルギー需要を想定して、それに対応するものであり、むしろ消費を拡大させる方向へ作用し、省エネは進みません。資源節約を考えるなら、省エネこそを積極的に推進する政策を第1に考えるべきで、そのためには、原子力及び核燃料サイクルからの撤退が効果的だと考えます。

3.6. 海外の動向:表ではドイツ・スイス・ベルギーがシナリオ②に分類されていますが、これらの国では、すでに政策変更を行っており、シナリオ③に分類すべきものです。恣意的な分類だとの感を否めません。さらに、イギリスも軽水炉用再処理工場THORPは第1期の契約分の再処理終了をもって同工場は閉鎖される計画です。したがって、3つの核兵器国を除いて、すべてがシナリオ③に分類されます。

参考1)青森の市民団体からの要請書

原子力開発利用長期計画策定会議 議長・近藤駿介様
原子力開発利用長期計画策定会議 委員各位

2004年9月9日

核燃サイクル阻止一万人訴訟原告団/核廃棄物搬入阻止実行委員会/青森県生活協同組合連合会/青森県保険医協会/核燃料サイクル施設問題青森県民情報センター/核燃から郷土を守る上十三地方住民連絡会議/核燃から海と大地を守る隣接農漁業者の会/六ヶ所牛小舎/グリーン・アクション六ヶ所/花とハープの里/ネットワークみどり/核の中間貯蔵施設はいらない!下北の会/核燃いらないわ三沢の会/核燃を考える住民の会/核燃いらない十和田ネットワーク/核燃止めよう浪岡会/核の再処理はイラナイ・八戸の会/放射能から子どもを守る母親の会/弘前脱原発・反核燃の会/核燃を勉強する会

 長計会議での原子力政策に関する活発な議論については、私たちの地元青森県のマスコミでも紹介され、核燃サイクル立地県の住民として非常に注目しています。
 それは、今回の長計改訂作業の最大のテーマが、私たちの地元青森県にある六ヶ所再処理工場を中心とする核燃料サイクル問題となっているからです。総額19兆円以上にも上るとされるバックエンドコスト問題や、使用済み核燃料の直接処分に関する試算隠しなど、核燃料サイクルをめぐる状況の大きな変化や、昨今の原子力行政策に対する信頼の失墜に、私たち青森県民は不安と共に重大な関心を持たざるを得ません。
 青森でも、六ヶ所再処理工場の計画推進をめぐって様々な議論や動きが活発になっています。再処理工場のウラン試験をめぐる議論にも賛否両論あり、多くの県民の間で、不安と疑問の声が挙がっています。
 さらに私たち青森県民が懸念するのは、私たちの将来を決定づけるような重要な問題が地元の多様な意見を踏まえる機会を持っていないことです。今回の長計策定会議は、今まで見る限り、東京ばかりでの開催となっており、傍聴も簡単にはできないのが現実です。会議には青森県に関連する委員が選ばれたり、三村知事からの意見聴取が予定されているようですが、残念ながら県内の多様な意見を求めるものではありません。
 青森県の将来はどなるのか、多くの県民は地元の声を改訂作業に反映させることを強く願っております。そのため私たちは、策定会議の地元青森での早期のヒヤリング開催を強く要請いたします。

以上

以上20団体連絡先:
核廃棄物搬入阻止実行委員会

参考2)
地層処分問題研究グループのコスト試算に関する論文を紹介します。
geodispo.s24.xrea.com./kaisetu/cyclecost.pdf