福島第一原発 きびしい作業環境の中、高い被曝状況は続く すべての収束作業者を疫学調査の対象にして、健康管理の徹底を

『原子力資料情報室通信』第481号(2014/7/1)より

 福島第一原発はいまなお事故収束とはほど遠い状況にある。これまで、事故収束作業に従事する労働者は1日約3,000人とされてきたが、今年2月に入り4,000人を超えるようになり、4月は4,450人となった。5月23日の東京電力の定例記者会見では、警報機付きポケット線量計APDの貸し出し数でのカウントでは5,000~6,000人が作業しているという。環境改善のため下駄箱やロッカーの数を増やしているが追いつかない状況にあるという。
 汚染水タンクの増設や多核種除去設備ALPSの増強などさまざまな汚染水対策の作業量が急増。また新しい事務棟、入退域管理施設と作業員の休憩所や食堂などの9階建ての施設、防護服などを焼却する施設など大型の建設工事が始まっている。このような状況の中、負傷事故が急増している。
 3月28日には死亡事故が起きてしまった。免震重要棟北側にある倉庫の地下で基礎杭の補修作業をしていた労働者が、土砂とコンクリートの崩落の下敷きになって死亡した。工事の元請け会社は東京電力の子会社である東双不動産管理(株)で、被災者は2次下請けの会社で働いていた。事故発生してから救急車で病院に搬送されるまでに2時間以上もかかっている。

図1 福島第一原発作業員被曝状況(人・シーベルト)

 

 図1に、月ごとの集団線量を示した。

011年12月16日の「収束宣言」後も被曝量は減ってはいない。汚染水処理作業に追われるようになった2013年8月から増加傾向が著しい。
 2013年10月は台風対策なども加わり、過酷な労働環境のなかで、作業ミスが相次ぎ高い被曝量となった。同月9日には、淡水化装置のホースの付け替え作業をしていた作業者が配管をまちがえてはずしてしまったため、6人の作業者が1リットル当たり3,400万ベクレルという高濃度のストロンチウムなどベータ核種を含む汚染水を浴びた。
 2014年2月19日には、H6タンク群の1基から約100トンの汚染水が漏れ出した。1リットル当たり2万4,000ベクレルのストロンチウム90などを含む汚染水が敷地約870平方メートルに拡がった。誤った弁操作で、別のタンクに移送するはずだった汚染水がこのタンクに入りあふれ出したという。東京電力は調査をおこなっていたが、原因が明らかにされないまま打ち切ってしまった。

 

 厚生労働省(以下、厚労省)は3月25日、緊急作業従事者の内部被曝線量の追加評価実施結果を公表した*1。2013年7月、東京電力が厚労省が示した統一の評価手法を使っていなかったため、最初の見直しを実施し、431人の被曝線量を最大で48.9ミリシーベルト上方修正したが、その見直しは不十分であった。
 厚労省は、「今回の再評価は、疫学研究のばく露評価を実施するために必要な詳細な核種毎の測定値、各種係数、計算過程等を完全に統一するため、実施されたものである。これは本来、事業者の裁量にゆだねられている評価方法の詳細に踏み込んだ行政指導であり、前回の再評価と異なり、全ての内部被ばく線量データを対象とした」と述べている。
 東京電力は、作業者が服用した安定ヨウ素剤に一定の効果があったと判断し、ヨウ素131の被曝を加算していなかった。厚労省は、ヨウ素131を摂取した可能性が完全に否定できない以上、過大評価が見込まれるものの、安定ヨウ素剤の効果を考慮せず、ヨウ素131の検出限界値が検出されたと仮定して、ヨウ素131による被曝推定と加算を実施するよう東電を指導したという。
 再評価の結果、東電社員1人が89.83ミリシーベルト低く評価されており、1ヵ月半で180.1ミリシーベルト、関連企業の作業員2人が新たに50ミリシーベルト超の被曝をしていたことが明らかになった。再評価の対象は、2011年3~4月に働いた作業員7,529人のうち142人(東電社員24人、関連企業18社の従業員118人)。1.01~89.83ミリシーベルトの増加があった。
 内部被曝線量については、電離放射線障害防止規則は「厚生労働大臣が定める方法により求める」と規定されていて、その方法を示した大臣告示には基本的な考え方が示されているだけで、詳細な方法は各事業者が決めて評価を実施するとされてきた。3.11後、厚労省は東京電力や関連企業に対して、内部被ばく線量の統一の評価手法を示したが、その内容は明らかにしてこなかった。
 2013年度から厚労省研究班による「東京電力福島第一原発作業員の甲状腺の調査等に関する研究」が祖父江友孝・大阪大学院医学系研究科社会環境医学講座教授らを中心に始まっている。この過程でようやく厚労省が正確な内部被曝線量の把握の必要性を認識したことが、今回の追加再評価の説明で明らかになった。
 4月2日に公表された原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書でも、日本側の内部被曝評価に対して「関連企業が実施した内部被曝評価については、比較した19人中8人はUNSCEARによる推定値の約50%以下だったので、信頼性が確認できなかった」と指摘している。
 東京電力は、被曝線量が高かった12人の社員については、日本原子力研究開発機構(JAEA)や放射線医学総合研究所(放医研)の協力のもとにていねいな評価をおこなっている。しかし、12人以外の東電社員、下請け企業の労働者についての内部被曝線量の評価はどうなっているのかを、私たちは交渉の場で問い続けてきた。
 2011年6月、全国労働安全衛生センター連絡会議らとともにおこなった第2回政府交渉では、事故後3月12~14日まで福島第一原発正門周辺の警備にあたった労働者の支援者がきびしかった現場の状況、食事も正門横の守衛室で摂らざるを得なかった実情を労働者に代わって訴えた。爆発のあったとき現場にいた労働者の内部被曝評価は「ゼロ」。どのような評価でそうなっているのかは明らかにされなければならない。

 

 厚労省は6月4日、「東電福島第一原発緊急作業者に対する疫学的研究のあり方に関する専門家検討会」(座長:大久保利晃・放射線影響研究所理事長)の報告書を取りまとめ、公表した*2
 事故発生から2011年12月16日の「収束宣言」まで緊急作業に携わった約2万人の健康状況を、死亡時まで追跡調査するというもの。調査対象者はすべて「東京電力福島第一原発における緊急作業従事者等の長期的健康管理」制度の登録者である。
 しかし、疫学調査の対象を「緊急作業従事者」に限定せず、現在もそして今後、廃炉に向けてますますきびしい作業を強いられるすべての収束作業従事者に拡げるべきである。そして、疫学調査とあわせて、国の責任で「収束宣言」後の労働者を含むすべての収束作業者従事者の生涯にわたる健康保障をおこなうべきであると求めて続けている。
 厚労省は、2011年12月までの作業者は原子炉が安定せず極度の緊張を強いられ、一時的に線量限度を250ミリシーベルトに上げざるを得なかった状態で作業に従事したため「長期的健康管理」の対象とした。「収束宣言」後は、他の原発と同様に法令に基づき事業者が実施する年2回の特殊健康診断と一般健康診断で健康管理を図る。平均線量を比べると平常時とはちがうが、現行法の枠組みで対応できる線量レベルであるという姿勢だ。
 今回の疫学研究のあり方に関する検討会では、「収束宣言」後に新たに従事するようになった労働者について、調査対象とするかどうかは議論の対象とはならなかった。
 検討会では、調査対象者へのメリットとして、情報の提供、ニュースレターの発行などが語られたが、労災申請に対するサポートなどもっと親身な対応が必要だろう。
 長期的健康管理制度での「手帳」の交付は、「収束宣言」までの被曝線量が50ミリシーベルトを超える「緊急作業従事者」に限定されている。まず、すべての収束作業従事者に長期的健康管理「手帳」を交付することから始めるべきであろう。
(渡辺美紀子)

*1:http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000041525.html
*2:報告書、資料などhttp://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000047387.html

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