福島第一原発収束作業の現場 すべての矛盾のしわ寄せが現場の労働者に

『原子力資料情報室通信』第477号(2014/3/1)より

 福島第一原発の現場は2011年12月16日「事故収束宣言」後も高線量下のきびしい環境のもと、汚染水対策や使用済み燃料プールからの燃料取り出しなど過酷な被曝労働が続いている。すでに約3万2000人の労働者が動員され、総被曝線量は約400人・シーベルトに達しようとしている(表参照)。
 「収束宣言」以降、東京電力は工事の発注を競争入札に切り替え、コストカットを徹底した。そのしわ寄せは現場の労働者に押し付けられている。労働者の不安を無視して、全面マスクの領域を狭めたり、防護マスクの質を下げるなど安全対策の装備は軽装化され、賃金や手当は減額された。
 昨年9月のIOC総会での安倍首相の「状況はコントロールされている」「汚染は完全にブロックされている」などのスピーチと福島第一原発現地視察以降、国は収束・廃炉作業のペースを急がせ、現場への圧力はさらに高まり、労働者は過重労働を強いられるようになった。10月11日付の東京新聞は、線量計を交換して1日に複数回現場作業に入るなど、労働基準法違反の10時間を超える長時間にわたる過酷労働もあることを伝えている。

被曝低減対策ないまま燃料体取り出し

 本誌474号でもお伝えしたが、昨年11月18日から4号機の使用済み燃料プールからの燃料集合体の取り出しが始まった。この作業現場で、燃料プールの水に含まれる放射性コバルト60が空間線量を高める原因となっていることが2月5日、原子力規制委員会での公表で明らかになり、規制庁は東京電力に鉛で遮蔽することや除染などして作業員の被曝低減対策を直ちに行うことを求めた。
 このコバルト60は、3.11事故以前の2010年11月に始まった4号機の定期検査で行われた原子炉圧力容器内のシュラウド(炉心隔壁)の交換・切断作業でプール内に広がったものとみられている。作業現場の空間線量は毎時40マイクロシーベルト前後とされていたが、12月から1月にかけて行った規制庁の調査では、プールに架かる燃料取り扱い機の上の線量は毎時81マイクロシーベルト、作業台車の上は90マイクロシーベルトと予測線量の2倍を超すものとなった。
 プール内の水の汚染については最大の関心事で、東京電力の記者会見でも記者から質問が出たが、回答はなかった。東京電力は作業現場の被曝低減対策を十分行わないまま燃料体取り出し作業を始めてしまったのだ。
 現場で働く労働者たちには燃料取り出し作業が始まることすら知らされず、彼らはテレビや新聞報道ではじめて知るという状態だった。4号機や共用プールのすぐ近くに位置するGエリアで汚染水タンク対応にあたっている労働者たちにも知らされていなかった。不測の事態が起きたとき、作業者は共用プール付近を通って避難せざるを得ないが、その手順などはいっさい示されない。現場の労働者にはその日行う作業の説明しかなされず、他の現場でどのような作業が行われているか、その危険性などまったく知らされないまま働かされている状況である。
 作業者には現場の状況と危険性を正確に伝えなければならない。事故発生から3年になろうとし、今後ますますきびしい作業が始まろうとしている現在、現場では重要な作業を担う労働者に基本的情報すら十分に与えられていないあやうい状況にある。
 2月20日、またもタンクから約100トンの高濃度の汚染水が漏れた。1リットルあたり2万4000万ベクレルものストロンチウム90など全ベータ核種が含まれ、表面線量率は毎時50ミリシーベルト。汚染は敷地約870平方メートルに広がり、現場では汚染土壌の除去作業などに追われることになった。今回のトラブル原因も作業員の配管弁の操作ミスなどとされているが、現場で起きているさまざまなトラブルのほとんどは作業者に的確な指示を出す管理能力が決定的に不足していることによるものだ。作業計画を立て、工程表づくりに携わる人たちが現場の実態をほとんど把握していないこと、現場で作業をしている人の意見を吸い上げるシステムの欠如こそが問題だ。

労働者に生活と健康管理の保障を

 原発労働者の雇用は、日本の原発が稼働して以来一貫して多重下請け構造がまかり通ってきた。そして「偽装請負」「違法派遣」「賃金のピンはね、不払い」「労災隠し」が常態化している。3.11後もその状況は変わらず、ますますきびしさが増している。線量が一定のレベル(例えば、年間20ミリシーベルト)に達してしまった下請け労働者が、配置転換など他の仕事を保障されることはまずない。なんの保障もないまま解雇されてしまう場合がほとんどである。しかし、国・行政機関や電力会社は何の対策もとっていない。
 私たちは、全国安全衛生センター連絡会議やヒバク反対キャンペーンなど多くの団体とともに関係省庁と交渉を重ね、現場の労働実態を明らかにすること、事故収束作業における災害防止、被曝防護対策のための安全衛生活動の徹底と原子力事業者の責任の強化などを求め、被曝労働者の健康保障、生活保障について、国が前面に立ち責任をもつべきことを訴えて続けている。
 また、「収束宣言」後に新たに従事した労働者は、緊急作業従事者として扱われず、国による長期的健康管理の対象から外されているが、彼らについても緊急作業従事者に対する長期的健康管理のデータベースに登録し、登録者全員に長期的健康管理のための「手帳」を交付し、しっかり健康管理することを私たちは求めている。しかし厚生労働省(以下、厚労省)は、「収束宣言」以降、新たに作業に従事している労働者については他の原発と同様に法令に基づき事業者が実施する年2回の特殊健康診断と一般健診で健康確保すれば十分としている。
 厚労省は、緊急作業従事者の疫学調査を開始すると表明し、2月14日、「東電福島第一原発緊急作業従事者に対する疫学的研究のあり方に関する専門家検討会」第1回会議が開催された*1。
 緊急作業従事者の内173人が通常作業の5年間の線量限度である100ミリシーベルトを超えた。データベースで管理される情報の活用も含めた緊急作業者を対象とした疫学調査の調査計画のあり方について検討しようというもので、今後月1回のペースで検討会を開催し、5月中を目途に報告書をまとめるという。

放射線起因での労災認定65件

 これまでに放射線起因で労災申請の件数がどのくらいあり、認定状況はどうなっているのかを2009年5月に厚労省に問い合わせたところ、1976年度から2008年度までの各年度の支給決定件数計45件と件数のみを電話で聴取した。申請件数の把握は困難とのことだった。
 その後の状況を問い合わせたところ、件数と疾病名が明らかになり、表にまとめた。総数は65件。原子力関連では16件(JCO事故含む)、医療従事者32件、工業部門の非破壊検査員11件、その他6件。
 私たちが長尾光明さんの労働災害を課題にして交渉を始めた2003年10月から、厚労省のホームページで「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」の開催状況が示され、認定された疾病と放射線被曝との因果関係についてなどが不十分ながら公開されるようになった*2。
 1994年度に医療分野で認定された肺がんについてその根拠となった考え方など訊ねたが、「不明である」という回答だった。2003年10月以前の検討状況については、資料なども残っていないとのことだった。このような重要な決定の根拠は明らかにされなければならない。

(渡辺美紀子)

*1: http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000037535.html

*2: http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000aiuu.html#shingi128882

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