高レベル放射性廃棄物処分関連3法改正案の問題点について

高レベル放射性廃棄物処分関連3法改正案の問題点について

原子力資料情報室 西尾漠

 高レベル放射性廃棄物の処分に関連して3つの法律の改正案が今国会に提出されています。
 ①原子炉等規制法の改正案では、処分に対する安全規制の枠組みが(枠組みのみが)盛り込まれます。また、これまで核物質防護の対象外だった高レベル放射性廃棄物が、対象に加えられます。
 ②特定放射性廃棄物最終処分法(以下、最終処分法)の改正案では、「長半減期低発熱性廃棄物(以下、TRU等廃棄物)」が、処分の対象となる「特定放射性廃棄物」に加えられ、高レベル放射性廃棄物との併置処分が可能とされます。また、イギリスから返還されるべきTRU等廃棄物を「放射能レベルとして等価」と見なされる高レベル放射性廃棄物に交換して受け入れられるようにします。
 ③再処理積立金法の改正案は、上記②の「等価交換」により費用減となることに対応するためのものです。
 以下は、これら法案の問題点についての備忘録であり、国会質問の参考になればとも考えて検討しました。

★ますます複雑になる「法令用語」
 次に例示するようにますますややこしく、ますますフツーの人にとっては縁遠く感じられる新語が登場します。本気で皆に考えてもらいたいなら、まずこの点から改めるべきでしょう。なお、例示した新語の説明(カッコ内)は正式な定義でなく、一般的な用語を記しています。
 たとえば「代替取得」は、正式な定義だとこうなってしまうのです。「発電用原子炉設置者が、その発電用原子炉の運転に伴って生じた使用済燃料の国外における使用済燃料の再処理又は特定加工に伴い使用済燃料、分離有用物質又は残存物によって汚染される物(以下、「被汚染物」という。)に替えて、原子炉に燃料として使用した核燃料物質その他原子核分裂をさせた核燃料物質を化学的方法により処理することにより当該核燃料物質から核燃料物質その他の有用物質を分離した後に残存する物を国外において固型化した物(当該被汚染物を固型化し、又は容器に封入した場合における当該固型化し、または容器に封入した物に比して、その量及び経済産業省令で定める方法により計算したその放射線による環境への影響の程度が大きくないものに限る。)を取得することをいう」。

【原子炉等規制法に登場する新語の例】
 第一種廃棄物埋設(高レベル廃棄物の埋設)
 第二種廃棄物埋設(低レベル廃棄物の埋設)
 特定廃棄物埋設施設(高レベル廃棄物の埋設施設)
【最終処分法に登場する新語の例】
 第一種特定放射性廃棄物(高レベル廃棄物のガラス固化体)
 残存物を固型化した物(日本の原発由来のガラス固化体)
 代替取得により取得した物(イギリスからの「等価交換」ガラス固化体)
 第二種特定放射性廃棄物(TRU等廃棄物)
 特定加工(MOX燃料の加工)
 分離有用物質(プルトニウム、ウラン)
 残存物(再処理後に残存する高レベル廃棄物)
 再処理施設等(再処理施設、MOX燃料加工施設)

 他方、高レベル廃棄物については「第一種廃棄物埋設」の定義中に「人の健康に重大な影響を及ぼすおそれがあるもの」との説明が、またTRU等廃棄物については「第二種特定放射性廃棄物」の定義中に「長期間にわたり環境に影響を及ぼすおそれがあるもの」との説明があります。わかりやすい言葉が含まれたのは、評価すべきことでしょうか。といっても定義の全文を引用すると、やはり思いきり難しくなってしまうのですが……
 ところで、先に引用した「代替取得」の定義の中に気になる一語があります。「特定加工」です。代替される側のTRU等廃棄物としてMOX燃料加工の廃棄物もあるかのように書かれているのですが、これは従来の説明にはなかったことではないでしょうか。ぜひ釈明を求めたいと思います。

★最終処分法改正案の問題点

◎TRU等廃棄物と高レベル廃棄物の併置処分
 TRU等廃棄物と高レベル廃棄物の併置処分を可能にすることが、最大の問題点です。 

 TRUとは超ウラン元素、すなわちウランより重い元素で、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウムなどを言います。TRU等廃棄物と「等」をつけているのは、地下水とともに移行しやすい炭素14やヨウ素129などもふくまれているからで、資源エネルギー庁などでは単に「TRU廃棄物」と呼んでいます。再処理工場やMOX燃料加工工場の操業・解体により発生し、TRUも炭素14やヨウ素129も半減期が非常に長く、強い放射能毒性を有します。
 TRU等廃棄物の地層処分対象廃棄体には、廃銀吸着材(ヨウ素129吸着除去用のフィルター)や硝酸系濃縮廃液などをセメント固化したりアスファルト固化したりしたドラム缶、雑固体廃棄物をセメントなどで固化した角型容器、ハル(燃料被覆管の剪断片)やエンドピース(燃料集合体の端末)を圧縮してステンレスの容器に収納したキャニスターといったものがあります。ドラム缶やキャニスターは炭素鋼製のパッケージに収納し、空隙部をモルタルで充填することが考えられているほか、炭素14やヨウ素129の放出抑制を考慮した代替技術の開発も行なわれています。
 材質・形態等が均一でないこと、セメントが用いられること、固化方法やパッケージなど未だ不確定な点が多いことなどが指摘できます。
 こうした廃棄物を高レベル放射性廃棄物と同じ処分場に併置処分できるようにしようという法改正ですが、高レベル放射性廃棄物の処分場候補地調査の公募の際には、ただの一言も説明されていませんでした。法改正が目の前に来てようやく「低レベル放射性廃棄物もいっしょに処分する」と説明をはじめたといいますが、TRU等廃棄物を仮に併置処分すると、それ自体の危険性に加えて、高レベル放射性廃棄物の処分についても悪影響を与える危険性があります。
 それは、TRU等廃棄物はセルロースや廃溶媒、アスファルトといった有機物や、硝酸塩などの化学物質をふくみ、地下水と反応して高アルカリ性の環境をつくるセメント系材料が多く使われているからです。それらが高レベル放射性廃棄物の処分に与える影響としては、以下のようなことが指摘されています。
1.ガラスの溶解やオーバーパックの腐食などへの影響
2.緩衝材(ベントナイト)の変質などへの影響
3.処分場近くあるいは広域での地下水の流動特性などへの影響
4.同じく岩盤の透水性などへの影響
 他方、TRU等廃棄物の処分側も、高レベル廃棄物の熱などによる影響を受けます。結果として双方の処分施設内でも岩盤中でも、放射能をより移動させやすくする可能性があります。
 国や電力業界は、TRU等廃棄物と高レベル放射性廃棄物の処分施設を併置するとはいっても300メートル程度の距離をあけてつくれば大丈夫としていますが、その根拠はないに等しいものです。高レベル放射性廃棄物の処分についても、とりわけ広域・長期の影響はほとんど未解明ですが、TRU等廃棄物では放射能の移動がさらに複雑で、いっそう知見は乏しいのです。
 線量評価では、高レベル放射性廃棄物処分の最大被曝線量は処分から約80万年後で、年間約0.000005ミリシーベルトとされているのに対し、TRU等廃棄物では約1万年後で、年間約0.002ミリシーベルトと、最大被曝予想量は400倍となり、最大を迎えるまでの期間も短くなります(前者は当時の核燃料サイクル開発機構=現・日本原子力研究開発機構による評価。後者は同機構と電気事業連合会による評価)。この評価値はどちらも数ケタの過小評価が疑えますが、それはともあれ、TRU等廃棄物が加わることで危険性がより高く、かつ身近になることは間違いありません。
 処分作業時の事故を考えても、アスファルト火災や、炭素14、ヨウ素129の揮発など、TRU等廃棄物の危険性は大きいと言えるでしょう。
 TRU等廃棄物も併置処分されるかもしれないことを始めは隠し、明らかになると問題点を隠す公募のありようは詐欺に近いと言えます。

◎受託業務の中身が変わった
 原子力発電環境整備機構は、本来業務のほかに「受託業務」もできることになっていますが、その中身が変わります。研究用原子炉から発生する高レベル廃棄物の受託処分ができるとされているのが、研究用施設から発生するTRU等廃棄物の受託処分ができるように変わるのです。
 高レベル廃棄物の受託処分の可能性はなくなったのでしょうか。

◎「業務困難の場合の措置」は?
 第74条に「別に法律で定める」とある法律は、どうなっているのでしょうか。前述のようにTRU等廃棄物との併置処分によって「業務困難の場合」が発生する可能性はいよいよ大きくなっていると思えるのですが。

★原子炉等規制法改正案の問題点

◎安全規制は形だけ
 設計及び工事方法の認可、使用前検査、溶接の方法及び検査、施設定期検査等の安全規制の枠組みが他の施設と同様に定められ、また、固有のものとして坑道の閉鎖に伴う措置の枠組みが定められます。ここでも具体的なことはすべて経済産業省令に白紙委任されており、「安全規制の定めもないままに処分地の選定が行なわれている」との批判を形式的にかわすものとしか思えません。

◎最新の知見をどう反映させうるか
 原子力安全委員会特定放射性廃棄物処分安全調査会の中間報告「特定放射性廃棄物処分に係る安全規制の許認可手続と原子力安全委員会等の関与のあり方について」(2007年1月)は、次のように述べています。「地層処分事業は、地下300メートルより深い地層に廃棄物を処分するという従来の原子力産業においては経験のない事業であり、特に、その安全確保においては、地質環境の条件やその長期的な変化への配慮が重要となる」「地層処分事業が長期にわたることから、将来の最新の知見等によって、処分施設の変更を余儀なくされる可能性も完全には否定できないことから、事業者は、その様な事態を念頭に、事業(変更)許可やその後の設計及び工事方法の認可(設工認)、施設の確認の申請など、地層処分事業の進め方を検討していくことが重要である」。
 そうした指摘が何ら配慮・検討されていないように見えるのですが、どうなのでしょうか。
 坑道の閉鎖に伴う措置について中間報告は、「特に、地層処分の場合には、坑道の閉鎖の時点における知見に基づいて処分の安全性が確保されていることが求められる点を踏まえるならば、今後、安全規制において最新の知見を反映させる制度のあり方について、広く総合的に検討する機会を設けることが望まれる」としています。経済産業省令への白紙委任でお茶を濁すべきではないでしょう。

◎議会や第三者機関による監視の必要性
 同じく中間報告に「諸外国においては、予定地の選定、事業許可に際して、国民の代表である議会が直接関与し(フランス等)、あるいは規制機関に対して独立性を有する専門家による組織が事業の適正と透明性について監視する仕組みを設けている例もある(アメリカ等)」と記述されています。そうした仕組みを設ける考えはないのでしょうか。また、「原子力安全委員会が外部の科学者団体の協力を求め、あるいは原子力安全委員会の下に国民の各層から選ばれた会議体を設けて意見を求める措置をとる等の選択肢は検討に値する」とも書かれています。原子力安全委員会が勝手に「具体化を図る作業を行っていく」ということでよいとは思えません。

◎ガラス固化体も核物質防護の対象に
 現行法では「廃棄物管理事業者」のみについて規定され、「廃棄物埋設事業者」は対象外だった核物質防護規定、核物質防護管理者の規定が、両者をふくむ「廃棄事業者」に変えられます。それによってガラス固化体もTRU等廃棄物も核物質防護の対象に加えるとの趣旨ですが、具体的には経済産業省令に白紙委任されています(現行の経済産業省令では廃棄物管理事業者による防護措置の対象からガラス固化体は除外。TRU廃棄物については想定外)。
 核物質防護の対象になることで、関連事業従事者の人権侵害が懸念されている防護規制の適用範囲がひろがります。そんな白紙委任は許されることでしょうか。
 ともかく核物質防護の対象に加えようというのなら、どのような危険があるのか、できる限り具体的に説明させる必要があります。