六ヶ所再処理工場の臨界防止対策は不十分

六ヶ所再処理工場の臨界防止対策は不十分
                             
■六ヶ所再処理工場:ウラン・プルトニウム混合溶液の二重装荷事故について

日本原燃は、 3月11日(日)11時13分頃、試験中の六ヶ所再処理工場のウラン・プルトニウム混合脱硝建屋において、ウラン・プルトニウム混合溶液を脱硝用の皿に誤って二重に供給した事故が発生していたことを、12日(月)に公表しました。原因について日本原燃は、脱硝用の皿の移動作業、溶液の供給作業時、ともに運転員が十分な確認を行っていなかったためとしています。

原子力資料情報室は、この「ウラン・プルトニウム混合溶液の二重装荷事故」について、日本原燃(東京事務所)に下記「要請書」を提出しました(3月16日)。日本原燃から公表されている情報は非常にわずかです。しかし今までに判明した情報を検討すると、今回の二重装荷事故は、六ヶ所再処理工場の臨界(二重装荷)対策が簡単に破られ、施設の臨界防止設計が不十分であることを証明しています。

■二重装荷防止対策が機能しなかった!

脱硝装置を全自動モードで運転中、温度センサー警報の発報により脱硝装置の運転はストップしました。運転員は、半自動モードに移行し脱硝を継続し、再び警報が発報しないことから誤警報と判断し、脱硝作業を終了させています。しかし運転員はそれ以降の工程(乾燥→冷却→荒粉→気送→測定)を行いませんでした。脱硝皿はそのまま測定ステージに置かれていました。脱硝装置にセットされる前に脱硝皿は計量されることになっていますが、計量されないまま(既に脱硝された脱硝体が残ったまま)、脱硝装置の脱硝ステージにセットされてしまったのです。
⇒二重装荷はあり得ないとしていた前提が破られた!

■粉体と溶液の二重装荷事故は安全審査の想定外

脱硝ステージに脱硝皿がセットされたので、運転員は自動運転モードによる作業を開始しました。ウラン・プルトニウム混合溶液が供給され、さらに脱硝作業が開始された後、中央制御室の運転員が、「前の工程と同一番号の脱硝皿が脱硝ステージ上にある」ことを発見しました。しかし日本原燃は、脱硝体とウラン・プルトニウム混合溶液を混合しても臨界にならないとして、二重装荷状態のまま脱硝を継続し終了させています。
⇒六ヶ所再処理工場の安全審査では、粉体と溶液の二重装荷事故は想定されてない!
運転規則に違反している。

■安全審査資料:『再処理工場の設計基準事象』(日本原燃)
ーウラン・プルトニウム混合脱硝設備・脱硝装置ー
脱硝皿での臨界(対策) : MOX粉末の入った脱硝皿の脱硝装置への移動を防止するために、空気輸送終了検知および脱硝皿の重量確認による脱硝皿移動停止インターロックを設ける。また、脱硝皿は二重装荷のPuに対しても未臨界が維持できるよう臨界安全設計している。したがって、脱硝皿中のPuは臨界に至ることはない。

しかし今回事故のように、半自動モードで作業が行われると、全自動モードにおいて二重装荷を防止するハズの「輸送終了検知および脱硝皿の重量確認」作業が行われないまま、脱硝皿が脱硝装置にセットされてしまうことが明らかになったのです。

また六ヶ所再処理工場の安全審査では、ウラン・プルトニウム混合溶液の二重装荷を想定した評価を行っていますが、粉体と溶液の二重装荷はまったく想定されていません。

■電子レンジで脱硝されるプルトニウム
(プルトニウム:ウラン・プルトニウム混合酸化物 : MOX)

六ヶ所再処理工場で生産されるプルトニウムは、プルトニウム単体の形態ではありません。再処理工程の途中で一度分離したプルトニウムとウランは、溶液の状態で 1:1 の割合で混合され、加熱・脱硝(水や硝酸を取り除く)され、ウラン・プルトニウム混合酸化物(モックス:MOX : Mixed OXide)として貯蔵されます。

事故が起きた装置は、ウラン・プルトニウム混合(硝酸)溶液から硝酸を取り除くためのものです。六ヶ所再処理工場では、マイクロ波加熱直接脱硝法(MH法)という東海再処理工場で開発された方式が採用されています。このMH法というのは電磁波であるマイクロ波を加熱の熱源として利用するもので、簡単に言えば家庭にある「電子レンジ」と同様の構造です。六ヶ所工場のウラン・プルトニウム混合(硝酸)溶液は、「電子レンジ」で加熱・沸騰されて硝酸を飛ばします。(硝酸は亜硝酸ガスなど硝酸系のガスとして排棄されます)

■ウラン・プルトニウム混合脱硝装置の概要
装置に関する詳細情報は公開されていません。報道情報などを総合すると、概ね下記のような工程を持っていると推測されます。

ウラン溶液  プルトニウム溶液
    ↓     ↓
【ウラン・プルトニウム混合槽】
       ↓
       ↓(ウラン・プルトニウム混合溶液)
       ↓
     【脱硝装置】
脱硝ステージ:脱硝皿にウラン・プルトニウム混合溶液が供給され、マイクロ波によって加熱・昇温する(脱硝されたもの:脱硝体)
  ↓
待機ステージ:
  ↓
乾燥ステージ:脱硝体を乾燥
  ↓
冷却ステージ:脱硝体を冷却
  ↓
荒砕ステージ:脱硝体を荒く砕く
  ↓
気送ステージ:脱硝皿から荒く砕かれた脱硝体を空気で吸取り、焙焼炉へ送る
  ↓
待機ステージ:脱硝皿の重量を測定し、脱硝体がない(カラである)ことを確認する
  ↓               
カラの脱硝皿は、再び脱硝ステージにセットされる

■グローブボックス(ウラン・プルトニウム混合脱硝装置)

実際には、六ヶ所再処理工場のウラン・プルトニウム混合脱硝装置は危険なプルトニウムを取り扱うため、装置全体がグローブボックスと呼ばれる大きな箱に収納されています。ウラン・プルトニウム混合脱硝装置はこの箱の中にあり、ゴム手袋が箱の中に向かって取り付けられ、トラブルやメンテナンスの時、作業員が手を入れて操作します。プルトニウムが超微粒子となって飛び散る危険性があるため、装置自体がグローブボックスの中で扱われます。

■事故経過(概要)
日本原燃の発表、報道等の情報を整理しました。

3月11日(日)
 【自動モードで運転中】
運転操作は中央制御室の監視カメラで監視。

9:44
温度センサー、温度高警報発報(脱硝中に発報)

装置の運転がストップ

警報をリセットするために運転モードを半自動に変更
                 
安全確認:再発報するか確認し、再発報しなかった。
→ 前の工程は順調だった、一過性のもの、誤報と判断。

【半自動モード】

10:12      
脱硝皿の再脱硝開始

10:16
脱硝皿の再脱硝終了

【(脱硝体の入った)脱硝皿】が 、脱硝ステージから→待機ステージに移動

運転員はこの先の工程を実施しなかった。
通常はチェックシートにもとづき搬送するが、チェックシート確認を後回しにした?

【(脱硝体の入った)脱硝皿】が、そのまま脱硝ステージにセットされた。

運転員【全自動モード】に変更
通常作業と考えて作業を開始。

10:47
全自動モード運転開始
脱硝ステージ上の【(脱硝体の入った)脱硝皿】にウラン・プルトニウム混合溶液を供給
→二重装荷【脱硝体+ウラン・プルトニウム混合溶液7.3リットル)】

脱硝開始

11:13
(脱硝中)
運転員B(中央制御室)が「前の工程と同一番号の脱硝皿が脱硝ステージ上にある」ことを発見。運転員はカメラ画像で皿に粉体が残っていないか確認する必要があったが、画像で二重装荷の状態を確認したのではなく、同じ皿の番号を発見した。

脱硝ステージ上の【二重装荷の脱硝皿(脱硝体+ウラン・プルトニウム混合溶液7.3リットル)】の脱硝を継続

■脱硝皿について
セラミック製
直径:45センチメートル
高さ:8センチ
脱硝皿の最大容量:約13リットル
定量ポットの1バッチ:7.3リットル

■ウラン・プルトニウム混合脱硝建屋の概要【参考:事業許可申請書(日本原燃)】
 ウラン・プルトニウム混合脱硝設備は硝酸ウラニル貯槽1基、硝酸プルトニウム貯槽1基、混合槽2基、一時貯槽1基、脱硝装置2基、焙焼炉2基、還元炉2基、混合機1基、粉末充填機1基で構成され、2系列(一部1系列)となっている。プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)は、ウラン235の濃縮度1.6wt%以下の硝酸ウラニル溶液と硝酸プルトニウム溶液が、重量混合比1対1で混合され脱硝される。設備の最大脱硝能力は2系列で一日あたり108kg・(U+Pu)、1系列は一日あたり約54kg・(U+Pu)である。

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日本原燃株式会社
代表取締役社長 兒島 伊佐美 殿

          要  請  書

2007年3月16日
原子力資料情報室
                            
 3月11日に発生したウラン・プルトニウム混合脱硝装置での、ウラン・プルトニウム混合溶液二重装荷事故は、六ヶ所再処理工場の安全問題、特に臨界安全上の重大な事故である。私たち原子力資料情報室は日本原燃に対して、六ヶ所再処理工場のアクティブ試験を中止し、事故原因の究明と臨界安全対策の再検討、事故についての説明会の開催を要請する。

 日本原燃から公表されている情報は下記のみである。
「3月11日(日)11時13分頃、ウラン・プルトニウム混合脱硝建屋において、脱硝体が入った脱硝皿に、ウラン・プルトニウム混合溶液を誤って供給したことを確認しました。原因は、発生当時の運転モードにおいては、本来、混合溶液を供給する脱硝皿が空であることを確認してから、ウラン・プルトニウム混合溶液を供給するべきところ、この確認を十分行わなかったためと推定されます。今後は、誤供給が起きないよう、手順の見直しや設備の改善等を行うことを考えています。」

1)公開されている情報はあまりにもわずかであり、事故の実態はまったく公表されていないに等しい。このような情報は公開の名に値しない。情報開示の方法を再検討することを強く要請する。そのためにも、この事故に関する説明会を開催するべきである。

2)温度センサー警報が発報した後、事故を起こした脱硝皿の再脱硝が開始されている。温度高の警報への対応はどのように行われたのか。安全確認がどのように行われたのか。

3)運転モードを半自動にするマニュアルはどのようになっているのか。半自動モードでの安全確認は、どのように行われているのか。温度センサー警報発報への対応をみると、半自動運転が今までにも行われていたのか。

4)なぜ、運転員が脱硝以降の作業を行わなかったのか。運転マニュアルでは、どのような確認作業が規定されているのか。

5)六ヶ所再処理工場の臨界安全について、「MOX粉末の入った脱硝皿の脱硝装置への移動を防止するために、空気輸送終了検知および脱硝皿の重量確認による脱硝皿移動停止インターロック」が設けられていることになっているが、今回の事故がなぜ防げなかったのか。

6)ウラン・プルトニウム混合溶液の二重装荷を防止するインターロックはないのか。

 以上のような疑問点、問題点を考えると、この事故は六ヶ所再処理工場の臨界安全対策がまったく不十分であること、また日本原燃が工場の運転において保安規定や運転規則を犯している実態を明らかにしている。私たち原子力資料情報室は、六ヶ所再処理工場のアクティブ試験中止を改めて強く要請する。今回のウラン・プルトニウム混合溶液の二重装荷事故の原因の究明と再発防止対策、事故についての説明責任を日本原燃が果たすよう、要請する。

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■関連情報

【ウラン・プルトニウム混合脱硝建屋における脱硝皿への溶液の誤供給について(日本原燃)】
www.jnfl.co.jp/daily-stat/topics/070312-recycle-b01.html

【東奥日報】
www.toonippo.co.jp/news_too/nto2007/20070312192211.asp

【デーリー東北】
www.daily-tohoku.co.jp/tiiki_tokuho/kakunen/news/news2007/kn070313b.htm

【ウラン・プルトニウム混合脱硝装置の検証報告】
cnic.jp/modules/xfsection/article.php?articleid=60

【グローブボックス(原子力図書館)】
sta-atm.jst.go.jp:8080/pict/04/04090105/07.gif

【マイクロ波加熱直接脱硝法による混合転換プロセスの実証20年の歩み】
jolisfukyu.tokai-sc.jaea.go.jp/fukyu/gihou/pdf2/n24-02.pdf

【六ヶ所再処理工場の問題点:工程図参照】
cnic.jp/knowledgeidx/rokkasho