高レベル処分場候補地選び 露呈した「公募」の欠陥 (『通信より』)

『原子力資料情報室通信』392号(2007.2.1)掲載

*この記事のあと、1月25日に東洋町長は再び応募しました。
このことに抗議して声明( cnic.jp/472 )をNUMO,経済産業省などへ送りました。

高レベル処分場候補地選び 露呈した「公募」の欠陥

 高レベル放射性廃棄物の処分場候補地(概要調査地区)の公募が2002年12月に始まってから、4年余が過ぎた。いまなお正式な応募は1件もない――と思っていたら、実は高知県東洋町が昨06年3月20日に応募していたのだという。いや、処分実施主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)は応募書を受理せず差し戻したことで「正式な応募は現時点ではない」と説明しているから、やはり応募ナシでよいのか。
 ともあれ東洋町の田嶋裕起町長は、応募したことも差し戻されたことも町民に隠して、NUMOや資源エネルギー庁を説明役とする「勉強会」を続け、「正式な応募」を策してきた。
 今年1月15日にそれを暴露され、町長は「軽率だった」と述べながらなお、「今後の勉強会などで経緯を説明する」としている。応募は軽率にも程があるし、町民を騙してきたことは軽率では済まされない。「勉強会」を続けるなどとは無責任も甚だしいと言えよう。
 と同時にこの事態は、「住民や議会の合意が得られてから」と差し戻されたとはいえ、その後はNUMO側が合意獲得に乗り出していることをふくめ、町長が独断で応募できてしまえる「公募」の欠陥を露呈させた。文献調査だけの段階で多額の交付金(07年度からは2年間で20億円に引き上げ)をちらつかせる一方、住民の意見を聞くこともなく、応募の中身についても認識不足のまま応募書が出せる手続きとすることで、ともかくも応募させてしまおうというのが、「公募」のしくみである。
 これまでに応募の動きが浮上したどの市町村でも、ひたすら交付金目当ての応募ばかりという実態は、他ならぬこの「公募」の産物だろう。06年12月6日には滋賀県余呉町の畑野佐久郎町長が「誘致断念表明」を行なったが、もともと町長は処分場そのものを誘致するつもりはなく、候補地(概要調査地区)に選定されるための文献調査のみを受け入れて国から交付金を得るのが目的だと公言していた。
 東洋町長もまた、12月14日に経済産業大臣に質問状を出し、途中下車ができることの確認を求めている。21日には甘利明大臣から回答があり、「当該都道府県知事又は市町村長が概要調査地区等の選定につき反対の意見を示している状況においては、当該都道府県知事又は市町村長の意見に反しては、概要調査地区等の選定が行われることはありません」というものだった。
 この回答の文章は、町長の質問状が旧来の説明から引用して真意を質したそのままを繰り返しただけである。そこに「応募さえしてくれたらよいのだ」との本音が透けて見える。東洋町長にしても、自ら公募に応じようとしながら、わざわざそんな回答を得ようとすること自体、余呉町長と変わりない姿勢であると宣言しているに等しい。
 12月には長崎県対馬市で、市議らが11月中旬に六ヶ所村への視察に市民約30人を連れ出し、NUMOの説明会を開いていることが明らかとなったが、やはり「選定の際には県知事が『被爆県』として反対してくれるだろう」との考え方なのだと推測される。07年1月1日付の地元紙が伝えた青森県東通村長の受け入れ姿勢にしても、国との間で処分場にしないことを確認している県の存在を本音では前提にしているだろう。
 ちなみに、上述の経済産業大臣の回答内容は、高レベル廃棄物処分法案の国会質問や質問主意書に対する答弁、答弁書で繰り返された文言だが、それら答弁や答弁書では、「意見を聞いてこれを極めて重く受け止めて、最終的には国が決定するものだ、そういう規定であります」「『同意を得なければならない』という規定とは異なり、当該都道府県知事等の同意を得るということを国の決定についての要件とするものではない」とも答えていた。「適地とされた地点すべてで地元の首長が反対した場合はどうなるのか」との質問にも、「御理解をいただけるような地区を選定するということに最大限の努力を尽くしてまいるわけでございます」との答弁だった。
 途中で逃げ出すつもりでもよいから、ともかく応募をというのは、本気で応募をするところなどないことを承知しているからだろう。応募さえしてくれたら、後は「地元の御理解を得るべく最大限の努力」が実行されれば首長の意見などどうとでもできる。それが、政府やNUMO側の考えであることは明白だ。
 国中の多くの人が何も知らない中で、財政難に苦しむ自治体の弱味につけこんで処分場を押しつけようとする「公募」のあり方を根本的に改め、誰からも嫌われるやっかいものの高レベル放射性廃棄物をどうしたらよいかの大きな議論を起こすことを、政府と電力会社に改めて強く求めたい。
(西尾漠)

*この記事のあと、1月25日に東洋町長は再び応募しました。
このことに抗議して声明( cnic.jp/472 )をNUMO,経済産業省などへ送りました。

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