ウランとトリウムの取扱いに関わる問題

ウランとトリウムの取扱いに関わる問題

古川路明(理事)
2006年12月29日

 島根大学において核燃料物質の使用について不適当な取扱いがあったことが明らかになった。この件についてことのあらましと私の考えていることを述べてみたい。

■1.今度の問題のあらまし

 新聞報道(朝日新聞)などによると、問題が起こった経過は以下の通りである。

 昨年9月、島根大学に在籍していた中国人研究員が、岩石の年代測定のための基準にする物質として、米国の販売会社にインターネットで核燃料物質を注文した。その内訳は酸化ウラン2.6グラム、金属ウラン0.128グラムと酸化トリウム0.068グラムである。今年6月、核燃料物質一式が一般の小包などとともに宅配業者によって大学事務室に届けられた。研究員は「日本の法規制を知らずに発注してしまった」と話しているという。

 島根大学は、研究用に少量(300グラム以下)を所持、使用する「原子炉等規正法」による許可を受けているが、海外からの直接購入は認められていない。報告を受けた文部科学省は島根大学に厳重注意した。

■2.「核燃料物質」とは

「原子力基本法」によると、「核燃料物質」は「ウラン、トリウム等原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する物質であつて、政令で定めるもの」と定義されている。「原子炉等規制法」などの関係する法令にくわしい定義が載せられているが、ちょっと目を通した程度で内容が把握できるようなものではない。要点をいうならば、ウランとトリウムを含む化合物などはすべて核燃料物質であるといっても大きな誤りはないであろう。

■3.「国際規制物資」とは

 ウランやトリウムを放射線を放出しない普通の元素と同じように取り扱うこともある。陶器の釉薬にウランが入っていたことがあり、光学レンズにトリウムを添加した例もあった。基礎研究でもぜひ必要なことがある。核燃料以外の用途も考えねばならない。このような事情があって「国際規制物資」という名のもとに、普通の場所でウランとトリウムが使用できる取扱いがある。天然ウラン300グラム、劣化ウラン300グラムとトリウムとトリウム800グラムまでは許可さえ受ければ、普通の場所で使用できる。ただ、どこの国から入手したかははっきりさせねばならないし、使用後の廃棄物も厳重に管理されねばならない。島根大学では、国際規制物資としての使用許可を受けていたのだと思う。インターネットで購入することはその趣旨に照らして問題となるであろう。

■4.廃棄物の処分は

 ウランとトリウムはアルファ線を放出するので、内部被曝の防護が重要である。体内への取り込みは極力避けねばならない。廃棄物は、特定の場所に保管する以外ない。このような放射性元素を取扱う実験室などで頭が痛いのは廃棄物の処置である。現在のところ、集荷してくれる機関はなく、各々の事業所などで保管する以外の道はない。国が責任をもって対応すべきではないか。

 話は多少それるが、ウランのもっとも大量の廃棄物が出るのは、核燃料の加工事業などである。そこから出る「ウラン廃棄物」をどう処分するかは決まっていない。早急に国が処分の方針を確立すべきではないか。1999年9月に臨界事故を起したJCO(株)東海事業所の構内には、燃料加工の業務を停止した現在でも、かなりの量のウラン廃棄物が残されている。