美浜3号で配管破断・死傷事故(原子力資料情報室通信363号より)

※『原子力資料情報室通信』363(2004/9/1)号は事故対応のため発行が遅れ、9月10日前後のお届けになる予定です。ここでは、同号の美浜3号事故特集の部分を掲載いたします(内容は、8月下旬までの情報にもとづいています)。ただし、図表は省略しております。図表は本誌にてご参照ください。『原子力資料情報室通信』は会員の皆様にお送りしております。

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美浜3号で配管破断・死傷事故
置き去りの品質管理と労働安全
―他原発の健全性にも大きな疑問
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□死傷事故発生―ついに「犠牲者」

 8月9日、11人の下請け労働者が死傷する大事故が、関西電力の美浜3号炉(加圧水型炉・82.6万キロワット・1976年12月1日運転開始)でおきた。2次系の配管が破裂し、中をながれていた9.5気圧・140度の熱水が、爆発でもするかのように、蒸気となって一気にタービン建屋に噴き出したのだ。
 噴き出した蒸気は、タービン建屋内で作業していた下請け労働者を直撃、5人が死亡・7人が全身やけどなどの重傷を負った(8月25日現在)。負傷し病院にはこばれたのはすべて「木内計測」という会社の従業員で、同社は計測装置の点検業務を請け負っている。8月9日から、運転継続中の美浜3号炉のタービン建屋内で作業を開始していたという。定期検査開始を8月14日にひかえ、破裂した配管から10メートルしか離れていないところで、床の養生、作業エリア区画作成、工具類の搬入など、定期検査期間中に行なうはずの作業に携わっており、定期検査の前倒し実施が行なわれていた。
 タービン建屋内には、通常の運転中は巡回パトロールのために1人か2人の巡回員が入ることがあるだけで、事故がおきた日のように221人もひとがいるような場所ではない。

□事故の経過―関西電力の資料から

 関西電力の記者発表資料などをもとに、事故の経過を簡単に追っておこう。
 配管が破裂したのは、8月9日の午後3時22分ごろである。この時刻にタービン建屋の2階の天井付近に設置された火災報知器が作動した。運転員がタービン建屋に湯気が充満しているのを確認し、3時26分にタービン発電機の緊急停止操作を開始した。
 その2分後の3時28分に給水ブースターポンプ、ついで主給水ポンプが自動停止したため、直後に、蒸気発生器A(3つあるうちの1つ)で給水流量と蒸気流量のミスマッチがおき、原子炉が緊急自動停止した。
 タービン建屋内で作業員が倒れているのを最初に発見したのがこれより少し前の午後3時27分ごろである。
 原子炉停止後は「タービン動補助給水ポンプ」が起動して蒸気発生器の冷却をつづけた。
 破裂箇所を隔離して給水の流出を止めるために、午後3時44分に脱気器水位制御弁を閉止したが、蒸気噴出による脱気器の水位低下が止まらない。4時5分に主蒸気隔離弁を閉止し、午後4時26分にようやく主給水隔離弁を閉止した。配管の破裂から、この時点まで熱水・蒸気の噴出がつづいた。その後、「電動補助給水ポンプ」での給水と主蒸気逃し弁による蒸気放出で炉心の残留熱の除去をつづけた。
 8月10日午後7時5分に原子炉低温停止にいたるまでの運転操作や原子炉の状態、とくに1次冷却系の除熱機能への影響など詳しく検討する必要があるだろう。また、いったん停止後にタービン動補助給水ポンプが作動せず待機除外の状態になったことにも注意しておきたい。
 原子炉設置許可申請書の「事故解析」では、「重大事故」のひとつとして、「主給水配管破断」をとりあげている。主給水配管の両端破断(ギロチン破断)後、破断箇所を隔離して、破断していない系統の蒸気発生器に補助給水して除熱、加圧器安全弁で減圧するシナリオになっている。
 今回の事故では破裂箇所の特定と隔離に非常に時間がかかり、蒸気発生器からタービンバイパス弁を経由して、復水器にダンプする操作をつづけていたので、大量の冷却水の放出となった。あわや、スリーマイル島原発2号炉事故か、という状況だったのではないか。
 破裂した配管からどれだけの2次冷却水が失われたのか。関西電力は、復水器補給水(常用)[79.4トン]+脱気器水位低下[286.6トン]+低圧給水加熱器保有量[40トン]+復水タンクおよび復水器(非常用)[400トン]=806トン、から流出量を約800トンと推定している。復水タンク、2次純水タンクからの給水の量はどうなっているのかなど、検討が必要だ。蒸気の噴出が、タービン建屋内の電気設備、制御システム、保安システムに相当のダメージを与えた可能性もある。

□事故現場―すさまじい「爆発」のあと

 事故後まもない8月11日に、社民党の事故現地調査団(福島瑞穂党首、近藤正道参議院議員(新潟選挙区選出)ほか)に同行して、美浜3号炉の事故現場を見てきた。その時のメモから事故のようすをよく表していることがらをいくつか抜き出しておく。
 タービン建屋の北側入口からはいるとすぐ、石ころのように転がっている白っぽいかたまりがいくつも目についた。これは配管をつつんでいる保温材(=断熱材。石膏製で白い細かい繊維が中に混ざり込んでいる)で、建屋内のあちこちで散乱していた。階段をのぼって2階へいくと目の前の細い梁のようなものに、金属製の保温材カバーがぶら下がっているのを見た。グレーチングのうえにのぼって破裂した配管を見上げると、破裂部の下流側を中心に5メートル程にわたって、保温材カバーも保温材もふき飛ばされて、赤茶っぽい防錆剤を塗った鋼の配管がむき出しになっていた。破裂部は、紙がひきさかれてめくれたかのように開いていた。数メートル離れた位置の蛍光灯カバーが破損し、近くの弁の一部にへこみがあった。養生をほどこした床に水たまりが残っており、安全柵がいくつも倒れていた。
 また、刑事告訴を意識してか、事故現場にメディアを入れておらず、随行した関西電力の説明者の現場での説明も準備不足で、総じて情報公開の程度は低い。これが死亡事故をおこした会社か、と思うほど当事者意識がたりない、という印象である。

□なぜ配管が破裂したのか―LBB成立性に対する反証

 破裂したのは第4低圧給水加熱器と脱気器のあいだをつなぐ復水管で、外径560ミリ、肉厚10ミリの炭素鋼製の配管である。タービン建屋2階の天井近くに敷設されている。
 この配管は、事故後の調査で厚さが1ミリ程度にまですり減っているのがわかった。配管の中をながれる熱水の渦巻き様の流れや気泡をふくんだ流れなどによって配管が浸食される作用と、腐食(錆の生成)とが交互におこり、配管内部から肉厚を減少させる現象が進んだためだ。これは、エロージョン/コロージョン(erosion/corrosion)ないしは「流れによって誘発された腐食(flow assisted corrosion)」、最近では「流れによって促進された腐食(flow accelerated corrosion)」とよばれている劣化現象である。
 破裂部から50~60センチ上流側の配管つなぎ目部(フランジ部)に、流量計測のためのオリフィスとよばれる流れ制限板(環状)が取り付けられている。オリフィス通過後には流れの圧力が下がるが、この圧力低下は流量にほぼ比例することが知られている。オリフィス前後の圧力の差を引き出した配管ではかることで、ここでの流量を知ることができる。
 ところが、このオリフィスの下流側には流れの乱れが生じることが知られており、これがエロージョン/コロージョンによる配管減肉のおおきな原因になった。
 美浜3号炉の配管の破裂した箇所については、運転開始以来、一度も肉厚の検査が行なわれてなかったことが明らかになっており、このことも重大な問題である。
 エロージョン/コロージョンによって配管の肉厚の減少がすすみ、ある時点で内部の圧力に耐えられなくなって一気に破裂(あるいは、ギロチン破断)するような破局的な事故にいたった。このことは、単に今回おきた美浜3号炉の事故だけのことでなく、炭素鋼配管のエロージョン/コロージョンによる破壊現象では、「破断前漏洩(Leak Before Break)」による事前の検知が不可能であることをしめしている。
(上澤千尋)

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■作業者の安全はまったく考慮されていなかった
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 原子炉を稼働したまま、2次系とはいっても、冷却にかかわる重大事故につながる可能性のある配管が縦横に走る現場で、関西電力(関電)の下請け企業の作業員221人(事故時、建屋内にいたのは104人)はどんな作業をしていたのだろうか。
 事故発生時、多くの作業員は建屋外で3時の休憩をとっていた。被災した木内計測の作業員たちは現場の混雑を避け、休憩時間に2階のタービン周りの熱交換器の取り換えに備えて、圧力計や温度計などを搬入していた。福井県原子力安全対策課の資料(www.atom.pref.fukui.jp )では、作業箇所は「現地制御装置定期点検工事、2次系制御弁定期点検工事、1次系制御弁定期点検工事(計装)」の工事エリアと表記されている(図2)。
 もし、配管の破断時刻がずれていたら、もっと多くの死傷者が出た可能性があったのだ。11人の死傷者を出した木内計測の作業員たちは軽装のままで、配管が破断するおそれなどなにも知らされないまま作業をしていた。(被害者救出の時系列を表1に示す)。

□定検の短縮化で労働強化

 定期検査は原発の健全性を確認するために機器の点検や補修、部品の交換などを行なう作業で、かつては3ヵ月くらい運転を止めて行なわれていた。90年代に入り、経済性を優先した方向に動き出し、電気事業の自由化の流れの中で、各電力会社はさらにコスト削減をめざして定検の短縮化にしのぎをけずっている。いまでは40~50日に短縮され、30日未満ですませてしまった例も出ている(浜岡4号で01年に29日、敦賀2号で02年に同じく29日など)。
 期間が短縮された分は、今回のように原子炉を稼働したままの状態で定検の準備を進めたり、定検期間に入ると24時間の作業体制をしくことでカバーすることになる。下請け・孫請けの作業員は徹夜など過酷な労働を強いられ、「夜の作業がつらく、きちんと仕事ができない」などの訴えも出ている。現在は、13ヵ月以内に1度の定検が義務づけられているが、電力業界は、18ヵ月間もの長期連続運転を計画し、さらに原発の経済性を上げることをねらっている。
 老朽化にともない、点検しなければならない箇所や内容は増えているにもかかわらず定検の手抜きをして期間短縮をし、コスト削減ばかりを追求する現在のような体制では、どんな事故がおきても不思議はない状況だ。

□福井労働局「重大災害対策本部」設置

 木内計測は、関電の子会社である関電興業の下請け会社で、関電の原発の計器類のメンテナンスを請け負っている。関電との関係では孫請けである。14日から予定されていた定検では、約400社が作業を請け負うことになっていた。元請けに連なる下請けが30数社あり、孫請け、ひ孫請けとその下に請け負い業者が何層も続くという。社員派遣というケースもあり、下請け労働者の構成は複雑である。
 こうした複雑な下請け構造も含めた実態を明らかにしようと事故後、厚生労働省・福井労働局は「重大災害対策本部」を設置し、敦賀労働基準局に現地対策本部を立ち上げた。安全管理に欠かせない情報の伝達や指揮系統が、関電を頂点とするピラミッド構造の中で有効に機能していたのかどうかなどについて、実態調査が行なわれている。労働者の安全を守るという立場で、徹底した調査を望みたい。
 両局は、関電が配管の点検対象漏れを把握した時期なども調査しており、23日、労働安全衛生法違反の疑いで関西電力を書類送検する方針を決めた。木内計測や元請けの関電興業、関電に対して、作業手順が適切だったか、安全衛生責任者の有無、マニュアル通りに作業が進められたかなどを事情聴取した。その結果、関電が破損した配管の検査をおこたり、職員を危険な状況下で作業させた可能性があると判断した。労働安全衛生法では、死傷した従業員の雇用者の責任を問うのが通例だが、今回、11人が死傷したことの重大さを考慮し、施設設置者である関電の責任を重視した。
 電力会社に対して、電気事業法が優先されるので、法的処分に問いにくいという考え方があるようだ。すでに5人もの尊い命を奪っておきながら、労働安全衛生法違反などという軽い罪で許されるはずはない。業務上過失致死罪で責任をとらせなくてはならない。
 今回の事故は2次系だから安全性が軽視されたとしているが、被曝をともなう一層厳しい条件にさらされ劣化が進んでいる1次系も含めた総点検、安全対策が必要なことはいうまでもない。
 原発の作業被曝は世界的に低減傾向にある中、日本では一昨年の東京電力の欠陥隠し発覚後、検査が増えたことなどから突出して高い。02年4月ウィーンで開催された「原子力の安全に関する条約会議」でも指摘を受けた。
原子力施設で事故やトラブルが起これば、かならず被曝をともなう作業が必要となる。これらの被曝量の97%は下請けの作業者に押し付けられている実態も忘れてはならない。
(渡辺美紀子)

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■「検査漏れ」の原因と管理指針の限界
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 美浜3号の破断箇所は2次系炭素鋼配管の管理指針による検査リストから漏れており、関西電力と検査下請会社(三菱重工・日本アーム)のあいだでそれが放置されていた。ここではリスト漏れの経緯をたどるほか、指針自体の問題点、そして事故後の対策について考える。
 1970年に運転開始した美浜1号(34万kW)は大阪万博に電気を送ったことで知られるが、73年に燃料破損事故を起こし、関電と三菱重工は幹部ぐるみで隠蔽した。美浜2号(50万kW)は72年に運転開始し、91年に蒸気発生器細管ギロチン破断を起こしたが、ギロチン破断は起こらないと断言していたのが関電であった。そして美浜1号の燃料破損が内部告発によって明るみに出た76年に運転を開始したのが、美浜3号であった。1号~3号いずれも三菱重工製である。
 美浜3号の2次系配管のうち脱気器の前にある復水管オリフィス下流部は、76年の運転開始以来28年間まったく検査されないまま、減肉をもたらしやすい140度の熱水にさらされつづけ、10mmの設計が1mm前後まで薄くなっていた。
 事故箇所は定期検査の直接の対象ではなく事業者の自主検査(02年の法改正後は定期事業者検査)の対象であったが、加圧水型炉(PWR)を運転する各電力会社は90年から、2次系炭素鋼配管について共通の「原子力設備2次系配管肉厚の管理指針(PWR)」を策定し運用していた。
 関西電力は80年代末から三菱重工に検査を委託していたが(それ以前の検査会社も公表されるべき)、他のPWR事業者が三菱重工に委託をつづけるなか、96年に系列会社日本アームに変更した。「電力自由化で、競争に勝つためにはコスト削減を進めなければならない」ため、「業者の変更で検査費用の約3割を削減」したとのことである(朝日新聞8月21日)。
 美浜3号の事故箇所は復水管A,B系統のA系統である。「指針」によれば復水管オリフィス下流部は、減肉傾向のないとされる「その他」の部位でなく「主要点検系統」として、計画的な超音波測定による肉厚管理の対象のはずであった。ところが三菱重工が管理指針に従って検査台帳を見直した際にA,Bともリストから漏れてしまい、96年の日本アームへの引継ぎ後もそのままの状態であった。

□「検査漏れ」の実態は?

 この「漏れ」について事故直後、三菱重工はこう説明していた。「1. 三菱重工業は、米国サリー発電所の主給水配管破断事故の発生を機に昭和62年度より配管減肉に係る調査を開始し、関電殿の支援を受け、平成2年5月に「原子力設備2次系配管肉厚の管理指針(PWR)」を作成致しました。2. 当社は、本管理指針にもとづき美浜3号の計測対象部位等、計測要領の見直しを行いましたが、当該オリフィス下流部位が対象からもれました。3. 一方、平成8年には関電殿関係の配管減肉計測検査が当社から日本アーム社で実施されることに変更になり、以後同社にて計測検査業務が管理されることになりました。4. 当社は関電殿以外の全てのPWR採用の電力会社のプラントについて、平成2年5月の「原子力設備2次系配管肉厚の管理指針(PWR)」を適用し、主復水管オリフィス下流部を含む配管減肉計測検査と必要な取替を実施致しております。5. これら当社が実施した検査結果と、必要な処置、特に主復水管オリフィス下流部について水平展開するため、日本アーム社に、平成11年4月と平成12年8月に説明、報告しております」(三菱重工「関西電力美浜発電所3号機 原子力二次系配管減肉管理について」2004年8月10日)。
 ところが三菱重工と日本アームはその後、説明を修正した。「三菱重工業は、事故まで点検漏れに気づかなかったと、説明を修正した。事故直後は「漏れていることに気づいて99年4月と00年8月に日本アームに指摘した」としていた。その後の社内調査で、破裂部分が想定以上の減肉を起こす危険性があるとの注意喚起だったとわかったという。日本アームも5年前に漏れを指摘されたと説明していたが、指摘は「破裂個所で減肉が進んでいる恐れがある」という内容だったとしている。」(朝日新聞8月20日)。
 美浜3号の事故後、高浜4号、美浜1号、日本原子力発電敦賀2号、北海道電力泊1号で復水管オリフィス下流部の検査漏れが発覚した(表2)。いずれも90年の指針策定以前に運転を開始した炉であり、91年運転開始の泊2号に検査漏れのなかったことを考えると、指針策定に伴う共通要因がある可能性もある(この点は今後の情報に依存している)。三菱重工は96年には泊1号の当該箇所、また00年2月には敦賀2号の当該箇所の検査漏れを各電力会社に連絡し、点検を行なった。特に敦賀2号については、99年にオリフィス下流部の想定以上の減肉の可能性に気づいた結果として連絡している。にもかかわらず、99年4月と00年8月の日本アームへの連絡が一般的な注意喚起だったのだろうか。この99年4月が美浜3号の第17回定期検査、00年8月が第18回定期検査に相当していることに意味はないのか。そのうえ日本アームも高浜4号で98年、美浜1号で02年には当該箇所の検査漏れに気づいて点検を行なっている。現時点の情報では03年4月に美浜3号の事故箇所のリスト漏れを認識し、同年11月、事故箇所を「初回点検」(つまり未点検を示唆)としたリストを関電に送付したことになっているが、03年5月~7月の美浜3号第20回定期検査でも点検できたはずである。日本アームは03年にデータ管理システムの改良を行なっており、そのこととリスト漏れ認識との関係についても明らかにされる必要がある。
 肝心の関電に至っては、幹部の刑事訴追を恐れて情報公開の制限を公言し、リスト漏れの予見可能性はなかったと主張している。これは自らの品質管理能力を否定するものであり、再発防止の妨げともなる。原子炉ごとに対応がかくも遮断されリスト漏れの予見能力も皆無という事故後の主張が本当なら「ご安心ください」といわれても無理である。いずれの当事者も一刻も早く経緯を白日のもとに出して今後の対策に資するべきである。
 総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会美浜発電所3号機2次系配管破損事故調査委員会(美浜事故調)第2回(8月19日)で関西電力の松枝チーフマネージャーは「三菱重工が過去取得しました検査データ並びに検査箇所の基本データの整理を三菱重工に委託し、日本アームへ引き継いだということでございます。また、日本アームのほうでは、これらの検査データの一元的な管理ということで、原子力検査データ処理システム……を開発し、使用いたしております。また、平成13年からは当社の発電所から当該のシステムにアクセスをして見れるというような状況になっております」と説明した。つまり少なくとも01年以降は、美浜発電所から検査データ処理システムにアクセスし美浜3号についても検査データを確認できたことになる。現時点での限られた情報にもとづいても、遅くとも三菱重工は96年に泊1号の検査漏れを認識し検査して以降、関電と日本アームは98年に高浜4号の検査漏れを認識し検査して以降、また関電美浜発電所は98年の高浜4号の検査漏れ発見および01年に検査データ処理システムへのアクセスが可能になり02年に美浜1号の検査漏れを認識し検査して以降、美浜3号を含む他の炉でも検査漏れのある可能性は十分に認識できたはずである。特に美浜1号は同一の原発サイトである。当該箇所が他の炉で検査漏れを確認されたり、余寿命が少なくなり交換に至ったりしていることを思えば、事故箇所の放置は意図的でないかとさえ思える。

□「管理指針」は万能か

 しかし検査漏れさえなければ大丈夫なのだろうか。美浜3号事故の前月である04年7月、関電は大飯1号(79年運転開始)の主給水配管でエロージョン/コロージョンにより基準を超える減肉が起きていたことを発表したが、「指針」による管理対象から漏れていたわけではなかった。報告書「大飯発電所1号機2次系主給水配管曲がり部の減肉について」によれば、「建設当時(1970年代)、配管内の流況によるエロージョン・コロージョンへの影響についての知見が当時ほとんどなかったことから、その影響について検討がなされなかった」「原子力発電所でのエロージョン・コロージョンに対する検討が具体的に行われるようになったのは、1980年代に入ってからである」という。
 83年に高浜2号で、また84年には高浜2号と当の美浜3号で、2次系配管の減肉による漏洩が発生した。これらを受けるかたちで85年から関電以外をふくめすべての加圧水型炉の2次系配管の体系的減肉調査が行なわれた(沸騰水型炉については5基の代表プラントの調査)。「指針」の冒頭に「PWRプラントにおいては、昭和60年度より3~5ヶ年の計画で2次系配管の減肉調査を二相流はもとより水系、蒸気系の広範囲にわたって実施し、ほとんどのプラントでは既に1プラント当たり3000~5000箇所にのぼる全調査対象箇所についての調査が完了した」と記されているのがこのことである。
 こうして「指針」は89年4月に基本的事項が決定し、90年8月から本格運用が開始された。その途上の86年12月に米サリー原発2号炉で2次系配管破断事故が発生し、通産省は減肉調査を強化させたようであるが、一方でサリー事故に関する87年3月の通産省報告書では「この種の事故がわが国で起こるとは考えられない」としていることから、その真剣さには疑問もある。実際、87年6月には米トロージャン原発で偏流発生部位から配管口径の7倍も離れた直管部での過剰減肉が発見されたが、できあがった「指針」には反映されなかった。
 「指針」の採用した手法は以下のようなものである。二相流か単相流か、湿り度、流速、温度によって「主要点検系統」を定義し、「偏流発生部位及び下流の2×Dを主要点検部位とする(Dは配管口径)」。復水管オリフィス下流部は主要点検の対象となる。上記の減肉調査から経験的に得られた減肉率(時間あたりの減肉の進行)をもとに余寿命を計算し、余寿命が2年以下になるまでに点検を行なう。点検の結果を反映して再度、余寿命を計算し、余寿命が2年以下になるまでに再点検を行なうことを繰り返す。3回目の点検以降は最小自乗法で減肉率を設定していく。余寿命が2年以下の場合は取替計画を立案する。
 一方、「減肉傾向のない箇所についても念のため、偏流発生部位について10年間に約25%を点検対象とする」とし、この箇所を「その他」に分類する。
 「指針」の問題点として以下のようなことが考えられる。85~90年という特定の時期の実測にもとづいて経験的に初期減肉率を与えているため、それ以上の減肉率の出現する可能性を排除できない。おなじく「主要点検系統」と「その他」の区別も完全である保証はない。「偏流発生部位及び下流の2×D」を主要点検部位にするだけでは不十分であることはトロージャンなどの実例で示されている。また最小自乗法により直線で減肉の進展を計算すると、加速度的に減肉が進展した場合に過小評価となる。なおエロージョン/コロージョンによる減肉率は、温度との関係では150℃前後が最も大きいことが分かっており(図4)、美浜3号の事故箇所(140℃)はその点でも注意が必要であった。
 表2における復水管オリフィス下流部の余寿命をみると、同じ「指針」で管理されているにもかかわらず、九州電力の原発だけなぜか突出して余寿命が長く出ている。美浜1号・高浜1号のように古い原発の余寿命が50年以上と長く出る一方で、美浜3号の破断箇所は90年前後にはすでに交換せねばならないほど減肉していたことがわかっている。また、事故後の原子力安全・保安院による測定では、破断した配管はオリフィスから下流へ1.5m(配管口径の約3倍)の所でも2.8mm、1.9m(約4倍)の所でも4.1mm(いずれも交換基準未満)まで減肉していた。
 この項の最初に触れた大飯1号炉の主給水配管の過剰減肉も指針とその運用の欠陥を示している。4本ある主給水配管A,B,C,D曲がり部のうちA,B,Cが基準値未満に減肉していることが発見された。主給水管の弁下流エルボ部であり、三菱重工による89年の点検でも減肉が見られていたにもかかわらず、「指針」によって「その他」に分類されてしまっていた。報告書「大飯発電所1号機 2次系主給水配管曲がり部の減肉について」は「今回温度が230℃程度の主給水隔離弁(玉型弁)の下流においても減肉が生じるという新しい知見が得られた」と記している。指針にない知見があったということである。Bは04年で最小肉厚12.1mm(基準値は15.7mm)まで減肉していたが、89年(18.7mm)から93年(17.8mm)まで4年間の減肉が0.9mmであるのに対して93年から04年まで11年間の減肉は5.7mmとなる。93年の測定は1次系の測定に付随して三菱重工が行なったものであり減肉傾向を示していたが、96年の日本アームへの変更に際してそのデータが引継ぎされていなかった。
 8月27日の美浜事故調第3回会合に保安院は「配管減肉の傾向と管理手法について」を提出した。「その他系統については、大飯1号機2次系主給水管エルボ部に主要点検系統と同程度の減肉が見られることから、類似部位も含めてこのような部位について、これまでの測定実績から安全上の問題がないかどうか検討し、必要に応じ、点検時期を繰り上げるなどして肉厚測定を行うべきであると考えられる。また、併せて今後当該部位を主要点検系統として管理を行う必要があるかどうか検討すべきである」としている。またこの文書で保安院は関電から提出された美浜3号2次系配管肉厚測定データを分析している。それによれば「その他の系統であっても、主要点検系統と同程度の減肉量が認められる部位がある」(図5)。
 美浜3号のように主要点検系統のリストから漏れてしまう可能性や、大飯1号のように「その他」に分類すべきでない箇所が「その他」に分類されてしまう可能性だけでなく、同等箇所における減肉の違いや加速度的な減肉進展、「指針」が想定する以外の場所での減肉などによって、「指針」による肉厚管理は破綻しているというべきである。
 大飯1号の事例は「指針」による減肉管理の欠陥や関電・三菱重工・日本アームの間のデータ管理ミスを露呈した点で警告的な意味をもっていた。しかし当時保安院が示した対応は「報告対象となる厚さに至る減肉が発生した原因の推定とその背景にある保守管理上の不適切な部分の分析、及びこれらに対する対策は首肯できるものと考える」(7月27日)というものであり、指針そのものの見直しや、他の炉のデータ管理ミスの即刻調査を命じるものではなかった。美浜3号で事故が起きればただちに指針の問題点を指摘できているにもかかわらずである。

□報告徴収は安全を保証しない

 事故後の8月11日、保安院は各電力会社に対して報告を指示した。「1. 対象設備(1)加圧水型原子炉にあっては、2次系配管(2)沸騰水型原子炉にあっては、復水系統、給水系統、主蒸気系統、抽気系統及びドレン系統に係る配管 2. 方法(1)加圧水型原子炉にあっては、事業者が定める「原子力設備2次系配管肉厚の管理指針(PWR)」に照らして、対象範囲の配管の肉厚管理が未実施である部位(炭素鋼に係るものに限る)の有無について確認すること。(2)沸騰水型原子炉にあっては、加圧水型原子炉における「原子力設備2次系配管肉厚の管理指針(PWR)」を準用し、又は自らの管理方法を適用する場合にあってはその適切性を同指針に照らして確認した上で、対象範囲の配管の肉厚管理が未実施である部位(炭素鋼に係るものに限る)の有無について確認すること。」というものである。依然として「指針」を前提とした書類調査である。
 美浜3号における2箇所(うち1箇所が事故)の検査漏れのほか、この報告徴収による調査で、関電は8月16日に美浜3号、高浜1号、大飯3・4号のスチームコンバータ加熱蒸気管の検査漏れを発表した。また8月18日にこの4箇所のほか高浜3・4号、大飯3号について11箇所の検査漏れを発表した(表3)。なかでも高浜3号については主給水管が含まれている。にもかかわらず、関電はこの11箇所について「同一仕様の他のプラントの測定結果から健全性が確認された」として肉厚管理未実施部位(検査漏れ)に含めなかった。
 美浜3号の復水管オリフィス下流部B系統は破断しなかったがA系統は破断した。大飯1号主給水管ではD系統は基準値を上回っていたがそれ以外は基準値を下回っていた。同一仕様の部分からは健全性を確認できないというのが美浜3号事故によって確認された帰結である。
 全原発に関する報告徴収の集計をみると、関電以外の電力会社における検査漏れはゼロとなっておりそれだけでも疑わしいが、現に北電泊1号と日本原電敦賀2号で最近まで検査漏れがあったことが発覚した。報告徴収の対象設備約14万箇所のうちすでに実測が行なわれたのは約7万箇所で、残り7万箇所はリストから漏れてはいないというだけで実際には一度も実測されていないことがわかる。その根拠は「サンプリング点検で管理できる」である。
 報告徴収とは別に関電は美浜3号事故後に停止させた原発についてオリフィス下流部などの実測を行なっているが、実測箇所の数は驚くほど少ない。ましてや実測も完璧ではない。さらに8月27日の美浜事故調第3回で、美浜2号の主給水管が03年の点検で基準値未満に減肉したり余寿命が1年未満になっていたにもかかわらず、関電が独自の解釈で配管使用を継続していたことが判明した。これは報告徴収では判明せず保安院の追加調査によって判明したものである。美浜3号事故後も関電は美浜1号・大飯2号・高浜1号を運転中、大飯1号を調整運転中であるが、関電が何を隠しているかわからない以上、即刻停止させるべきである。
 保安院の報告徴収では、泊1号、敦賀2号のように検査漏れであっても最近検査漏れに気づいてさえいれば、検査漏れにカウントされない。このようなケースも再報告させるべきだ。しかも保安院はこの二基に関しては最近まで検査漏れがあったことを認めているが、美浜1号、高浜4号に関しては検査漏れの存在すら認めていない。報告徴収だけで安心していては、ふたたび裏切られることになるだろう。
 「指針」による検査対象リストからの漏れを出発点として検討してきたが、リスト漏れさえなければよいのではなく、「指針」そのものに限界があり、原発配管の実態の全貌は誰も把握していないという状況が見えてきた。保安院はその役割を徹底的に果たすため、指針対象以外の部位についても管理状況を報告させるとともに、電力会社の報告を鵜呑みにするほかないのでなく誰もが検証可能となるよう、肉厚管理の根拠となる配管のデータをすべて提出させ公開するべきである。
 原発においては放射能の封じ込めと冷却の維持が不可欠だが、美浜3号の事故は原発の安全管理そのものの底の浅さを示した。一刻も早く全ての原発を停止させない限り、「綱渡り運転」は終わらず本当の安心もないことを改めて確認しておきたい。(藤野聡)

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■美浜3号炉事故が問いかけるもの
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 事故に関する過去の教訓が活かされないのはなぜか? 電力各社や国は、事故があるたびに「水平展開」という言葉を好んで使っている。事故対応だけでなく、他の箇所や他の原発でも同様なことが起きないかをチェックするのであるが、この「水平展開」がお座なりに行なわれているからだ。国もそれを許してきた。だから事故が続いてきた。
 2次系配管だけでも検査箇所は一基あたり数千に達するという。検査すべき箇所でなされていないケースは電力各社の調査が進めばさらに増えてくるに違いない。そのような箇所は関電だけでなく、他の原発でも同様にたくさんある。今回の事故を教訓に、オリフィス部のみならず腐食減肉の起こりそうな箇所をすべて洗い直し、徹底した「水平展開」を行なうよう望みたい。
 昨年10月よりいわゆる「維持基準」が検査のあり方の中に導入されたが、亀裂や減肉の進展は十分に把握されているわけではない。事故調査の中では、この検査制度のあり方も根本的に問い直されなければならない。
 原発の稼働中にタービン建屋とはいえ作業員が入って準備作業を行なうことに大きな危険が伴うことを今回の事故は実証した。準備作業を急ぐのは、定期検査日数を短縮したいがためである。現場では、下請け賃金のカットや労働強化など労働者への締め付けが相当に進んでいると聞く。今回の事故の遠因となっている。
 他方で、原発の老朽化が進んでいる。検査すべき箇所は増えていくはずである。検査は重要度に応じて頻度が決まっているので、すべてが毎回チェックされるわけではない。中には、10年で25%チェックすればよい箇所もある。老朽化が進めば、そんなところにほころびが増えてくるだろう。
 より徹底した検査が必要不可欠になってくることと、他方で、検査日数を減らして経済効率を上げることと、矛盾した状況に電力各社は置かれている。安全の重視は当然のことだが、この当然のことを当たり前のように行なうことが以前にもまして難しくなってきている。このような状況で、事業者や国が本気になって徹底検査という強い姿勢を出すだろうか? 心もとない。しかし、それが出来ないのなら原発を即刻止めるべきだ。
 検査会社の日本アームは関電が45.2%を出資している、関電の子会社である。天下り先となっていたのだろう。とすれば、検査への対応が甘くなってもうなずける。下請け関係にも、これを契機としてメスを入れるべきだろう。電力メータの設置ミスや火力発電における数々の不正も明らかになっている。一昨年の東電に続き関電もと考えると、電力会社の制度疲労も進んでいるといえる。
 事故は原子力政策に大きな影響を与えた。美浜町での中間貯蔵誘致は「凍結もやむをえない」事態となった。関電が進めていたプルサーマル計画や核燃料サイクル開発機構が進める「もんじゅ」改造工事、さらに、六ヶ所再処理工場のウラン試験へ向けた青森県と日本原燃との安全協定の議論も見送られている。原子力への不安・不信はさらに広がったが、それに応えるためにも脱原発への舵取りを訴えていきたい。
(伴英幸)

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参考:
関西電力( www.kepco.co.jp )
経済産業省( www.meti.go.jp )
原子力安全・保安院( www.nisa.meti.go.jp )
原子力安全委員会( www.nsc.go.jp )
福井県原子力安全対策課( www.atom.pref.fukui.jp )
福井新聞( www.fukuishimbun.co.jp )
NRC( www.nrc.gov )

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