原子力長計策定会議意見書(第30回)

原子力長計策定会議意見書(第30回)

2005年7月15日
原子力資料情報室 伴英幸

1.上関原発を事例に挙げて「事業者がこの計画を立ち上げたとき、まず金銭を持って地域にアプローチされたために、(中略)長年にわたって築かれていたコミュニティーが崩れてしまいました。(中略)このような事業者のお行儀の悪いやり方について、原子力委員会は承知し黙認しておられるのでしょうか。(以下略)」との意見がありました。原発や核燃サイクルの話が持ち上がって地域社会がずたずたに切り裂かれたとは、ほとんどの地域で聞く話です。その対応として「ご指摘のような意見も考慮しつつ、2-1「安全の確保」、2-4「原子力の国民・地域社会の共生」の項を作成しています。」としていますが、該当項では読み取れません。すでに稼動している原発の安全確保や地域社会との共生には言及されていますが、原発の導入における上記のような諸問題は「透明性の確保」だけでは解決しないのではないでしょうか? 公正性といった言葉を加えるのが良いと考えます。

2.「国民の信頼を失っているのは、原子力安全行政だけでなく原子力行政そのものである。」との意見がありました。また他にもおなじような意見があります。さらに、原子力政策に対する国民的合意がいまだに進展していないとの認識も示されました(新潟県知事(当時)のご意見を聴く会)。現状認識の中で、国民の合意が未だ得られていない現状にきちんと触れるべきではないでしょうか。

3.地球温暖化と原子力について

3-1. 第30回新計画(案)暫定版では、原子力エネルギー利用技術が「地球温暖化対策に貢献してきている」との認識を示していますが、どのような根拠でこの認識が示されているのでしょうか? 多くの原発の導入にもかかわらず、地球温暖化は進んでいます。

3-2. 原発で火力発電を置き換えることはできません
 「どうしてもCO2の発生を削減することが、国家の方針として必要であるならば、石油は石炭火力を停止して原子力発電に切り替えるといった、国の施策が可能な国家であることも必要ではないだろうか」との意見がありました。現実にはそんなことはできません。
 「原発が増えれば火力発電所も増える」と何人かの意見にあります。原発では出力調整ができないので調整用の天然ガス火発、石油火発が必要とされ、また、事故時のバックアップとしては石炭火力も必要とされます。ベストミックスの本音は原発に上限を設けることであり、原発のなかった時代にはベストミックスが論じられることはありませんでした。

3-3. 放射性廃棄物の後始末から出るCO2の量は大きく変化する可能性がある
 「二酸化炭素を発電過程で排出せず、ライフサイクル全体で見ても太陽光や風力と同じレベルであり、二酸化炭素排出が石油・石炭よりも少ない天然ガスによる発電と比べても1桁小さい」と新計画(案)にはあります。これに対し「長期に渡る放射性廃棄物処理・処分過程における二酸化炭素の排出量も考慮すべきではないでしょうか」とする趣旨の意見がありました。「考慮してある」というのが新計画(案)の考えでしょうが、それは現在の処分政策が計画通り実施され、地層処分などの処分後は再取り出しなどの事態が起こらないことを前提としています。この前提が崩れればCO2排出量が大きく増える可能性も否定できません。

3-4. 原発に頼った温暖化対策は、本来行なうべき対策を遅らせる
 「二酸化炭素の排出を少なくする方法などは、他にも沢山あると思うのです」とか「原発の新建設を論じる前に、運送や石油産業に眼を向けた方が効果的ではないか」とかといった意見がありました。原発に頼った温暖化対策では他の実際的な対策を遅らせてしまいます。

3-5. 省エネルギーこそ本来行なうべきこと
 「省エネの方が温暖化を防止する効果が大きいのでは」「電気を大量に使用ずる環境を見直すことが大事なのではないでしょうか?」と、意見にあります。新計画(案)でも「世界のエネルギー需要の増大に伴い、地球温暖化が進行することが懸念されている」と述べ、「省エネルギー努力に最大限に取り組む」としています。
 しかし「政策的裏づけのない省エネルギー」では有効性が期待できないとの意見もあります。まさに単なるお題目でない具体的な取り組みが求められます。
 その際「電力のピークに合わせて原発を導入するので、年間を通じての電力は余剰となり、全体として、エネルギー消費の拡大を促すことになる」、あるいは「エネルギー供給量の多さと調整不可能な電源であるという特質故に、かえって電力需要を煽る巨大電源であるという側面を持っている」との指摘があることも考慮されるべきでしょう。現に電力会社では省エネの宣伝の一方で、オール電化住宅の強力な宣伝など「需要開拓」や「需要創造」に力を入れています。

3-6. 自然エネルギーの活用が有効な温暖化対策
 数多くの意見が、原発ではなく自然エネルギーの活用を求めています。それに対し新計画(案)では、「新エネルギー」の語を用いての説明で「エネルギー密度が小さく、経済性や供給安定性に課題が存在する」としています。しかし、「海外では、地球温暖化防止のために自然エネルギーを膨大に増やすための大胆な政策がすでに導入され、大規模な拡大を実現、あるいは計画中である」との意見もあります。なぜそうなのか、新計画(案)の説明にいう課題は解決不能な課題なのかが検討されるべきです。
 また「自然エネルギーによる発電は確かに効果が出るのが遅いかもしれませんし、現行の日本政府と原子力機関との結びつきの中では、そういう代替エネルギー推進への移行は困難で、大変に時間のかかることかと思います」とした上で「しかし、京都議定書の目指すものは地球環境の保護です。われわれ非力な国民は、子や孫に、他の生物たちに放射能で汚染された水や土地や食物を残したくありません」と述べた意見もありました。

3-7. 放射能ないし放射性廃棄物は問題なしでよいのか
 放射能ないし放射性廃棄物とCO2を比較して前者の脅威がより大きいとする意見が多数ありました。新計画(案)では「放射性廃棄物は人間の生活環境への影響を有意なものとすることなく処分できる可能性が高い」としていますが、とても納得は得られないでしょう。

3-8. 原発に頼った架空の温暖化対策は足元をすくわれる
 「原子力に依存した社会は大変脆弱な電力供給構造とならざるを得ず」との指摘がありました。事故や事故隠しの発覚に伴う原発多数基のいっせい停止は、供給の安定性を脅かすことになります。

4.パブリックコメントについての要望

インターネットに加えて、新計画(案)やこれまでの策定会議の資料や議事録が見られるように、国や立地自治体の諸機関に配布して広く意見募集を行なってください。また、募集期間は少なくとも6週間は確保してください。