原子力長計策定会議委員月誌(9)

伴英幸の原子力長計策定会議委員月誌(9)減りつつある原子力予算の奪い合い

原子力資料情報室通信より

 放射性廃棄物の処理・処分に関する論点整理の後、議論は放射線利用および研究開発に移った。放射線利用は医療分野における検査や治療、工業分野における非破壊検査や半導体製造への利用、農業分野における害虫駆除や食品照射など、意外と多く利用されているようだ。
 事務局資料は良いことづくめで、何が広く普及していて何が普及からは程遠いのかよく分からない。たとえば、大型加速器などの利用では兵庫県に設置されているSpring-8(原子力研究所・理化学研究所)の説明で「国内外の研究者に広く開かれた共用施設としてさまざまな分野の研究で活用」としている。しかし、実際には、伸びない利用への対応策として「広く開放」しているとの指摘がある。

 診断におけるX線利用について日本はアメリカに次いで2番目に普及している国だと説明されている。これを人口当たりにすると世界一の利用となる。私たちはずいぶんと検査被ばくを受けていることになる。その中には、不必要な検査被ばくもあるだろう。これを少しでも減らすための提案として、イギリスで普及しているような医者向けのガイドラインの作成と個人レベルで「被ばく管理手帳」をもてるような制度の設置を筆者は訴えた(当室では、身近かな放射線に関するブックレットを製作中)。

 食品照射では過去の毒性実験データから「変化」を示す報告があることなどを例に食品照射の拡大を批判した。事務局がまとめた論点整理(素案)では「食品照射については、国、生産者、消費者が十分な対話を行い、放射線を利用することのリスクと便益について国民との相互理解を促進していく必要がある」と触れられているだけである。食品照射は日本では原則禁止となっており、試験的に発芽防止の目的でジャガイモだけに認められている。この状態が30年続いている。原子力産業界は照射食品の利用拡大を訴えるが法改正となるとそう簡単ではなく、そっけない記述になっているようだ。

 研究開発分野に関する議論は基礎・基盤研究の現状、核融合研究開発、軽水炉サイクルの技術開発などについて説明があった。議論は先へ持ち越されたが、それはともかく、この日の会議のキーワードは「選択と集中」。減少しつつある原子力予算の奪い合いといった印象だった。極めつけの発言は福井大学学長の児島委員。“ITERは原子力予算とは別に出したらどうか……”。

 策定会議と並行して国際問題検討ワーキンググループが設置されて第1回会合が開かれた。核拡散状況への懸念が議論されると思って傍聴したが、関心は原子力機器の輸出にあるようだ。神田委員が大胆にも、輸出を乗り切るためには核兵器の勉強をするべきと発言、原産会議の宅間委員もそれに同調した。思わず3名の原子力委員から発言が相次いだ。ただでさえ、日本は核兵器開発の意図があると海外から思われているのだから、このような言葉が独り歩きされてはこまる…。
(3月17日)

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