タニムラボレターNo.001 正確な測定値を得るために

『原子力資料情報室通信』第457号(2012/7/1)より

正確な測定値を得るために

 当室が購入した放射能測定器は誰でも簡単に使えるように開発されたソフトを導入しています。測定者は試料をサンプル容器に入れて測定器にいれ、コンピュータ画面上で簡単な情報を入力して測定ボタンをクリックするだけでBq/kgの形で測定結果を得ることができます。しかし安心はできません。得られた結果を信頼のおける測定値とするためには気を付けるポイントがたくさんあります。

 NaIシンチレーションスペクトロメーターの構成を下図に示します。測定器は、環境の放射線を遮蔽する部分(遮蔽体)、γ線を蛍光に変える部分(NaI結晶)、蛍光を電気信号に変える部分(光電子増倍管)、電気信号を増幅する部分(増幅器)、電気信号を波形に変換する部分(波高分析器)、波形からベクレルに換算する部分(コンピュータ)で構成されています。それぞれ機能に影響を与える因子を図に表示しました。影響因子を固定させて測定しなければ、結果の違いが何に起因するか分からなくなります。

 微量の放射能測定には長時間の安定した測定が欠かせません。特に結果の温度依存性の幅を気にしています。実験室立ち上げのはじめに、精度の高い温度制御方法を検討すると同時に、温度を強制的に変化させた実験を行い実質的な温度影響を調査しました。

 第1回目の試料として南相馬市で採取した土壌(Cs137:5.0×103Bq/kg、Cs134:3.3×103Bq/kg)の放射能を測定しました。現実的に問題になる微量放射能を想定してこの土壌を6%程度に希釈した試料を作成し、室温を変化させた実験を行いました。室温が一定(±0.5℃)の場合、2時間測定を5回繰り返した結果の誤差の幅は7%でした。温度を25℃から30℃まで強制的に上昇させながら測定したところ、同じ測定の誤差の幅は19%に拡大しました。この変化が何に由来しているのか、データの解析を進めています。
《次号へつづく》

(谷村暢子)

タニムラボレターNo.000
cnic.jp/1377

 

 

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