原子力長計策定会議意見および質問書(第17回)

2005.1.28
原子力資料情報室 伴英幸

1. 高速増殖炉は「有力な選択肢」にはならない
 これまでの原子力開発利用長期計画における高速増殖炉開発の扱いを下図にまとめましたが、あたかも逃げ水のように、時間が経つにつれ実用化の見通しが遠のいているのが分かります。2000年改定の長期計画からは高速増殖炉開発が原子力開発におけるもっとも有力な選択肢の一つとの位置づけに変更されました。そして、2005年長計においてもその踏襲が提案されています。しかし、高速増殖炉が果たして有力な選択肢たりえるのでしょうか? 高速増殖炉で宣伝されているウラン資源の有効利用などのメリットはあまりにも素朴な論理に基づいています。いつまでも過去に縛られず、高速増殖炉開発を有力な選択肢とする政策から撤退することを主張します。
高速増殖炉懇談会(1998年12月)の報告書に、「将来のエネルギー需要とウラン資源量に関する見通しについては、世界の原子力発電設備容量を過去に言われたほど増大せず、横ばい傾向にあること、歴史的にみてウラン資源量の推定は困難であり、かつ過小評価の場合が多いことが明らかであること、これを根拠として現在の高速増殖炉研究開発を正当化することはできない」という反対意見が紹介されています。また、本策定会議においてもエネルギー需給の推定の困難、ウラン資源量の見通し幅の大きさなどが意見や資料として出されてきました。この状況は現在も変わっていないと考えています。それゆえ、資源の不確定性を根拠として高速増殖炉開発を正当化できないと考えます。
1-1. 高速増殖炉開発の「意義」は本当にあるのか
第17回配布の資料では、「軽水炉と比べてウラン資源の利用効率を飛躍的に高くできる可能性があり、また、高レベル放射性廃棄物中の長期に残留する放射能量を少なくし、発生エネルギーあたりの環境負荷を優位に低減できる可能性がある」との現状認識が示されていますが、果たしてウラン資源の利用効率が飛躍的に高くできるのでしょうか? 
第8回策定会議への意見書では、プルトニウム倍増時間を考察すれば、宣伝されている高速増殖炉のさまざまな利点はなく実用化の見通しも見えないと主張しました。第16回策定会議で示された参考資料1の「各高速増殖炉の設計結果の比較」をみますと、資源有効利用の観点からの評価として「複合システム倍増時間」が記されています。記載されている計算結果では、資源重視で46年~200年以上となっています。経済性重視のケースは計算されていませんが、倍増時間はさらに長くなることは容易に推定できます。この倍増時間の長さは、増殖に意味がないことを示しています。同時に、ウラン資源の「飛躍的な」有効利用にならないことも示しています。
 「飛躍的に」は抽象的な表現ですが、やや具体的にはウラン資源が100倍に有効利用できるといった説明が事務局からなされたこともありました。60倍といった説明も一般にはされています。しかし、46年を超えるプルトニウム倍増時間の長さは、高速増殖炉の耐用年数を超えていると容易に想定できます。それゆえ60倍や100倍の有効活用などはとても成立しません。また同様に「完全なFBRサイクルに移行」(第8回策定会議資料第2号)することもとあり得ません。なおも「ウラン利用効率を飛躍的に高められる」ことを主張するのなら、その根拠を納得できるように示して議論するべきだと考えます。
 増殖炉を追求するためには、燃料のプルトニウムはできるだけピュアなプルトニウムの方が良くMAリサイクルは適しません。他方、「高レベル放射性廃棄物中の長期に残留する放射能量を少なく」することを追求すれば、増殖したとしても増殖比は1に近くなり、倍増時間はさらに長く延びます。低減をめざすのなら、脱原発も含めた原発(特にプルサーマル)からのMA核種の発生抑制こそがはるかに意義を持つと考えます。
1-2.実用化は現実的なのか
第16回策定会議資料2には「わが国においては、2050年以降、軽水炉のリプレースによりFBRを本格的に導入していけば」とあります。これでは、現在稼動中の軽水炉の大部分のリプレースには間に合わないことになります。共同通信配信と見られる連載記事「踊り場の原子力」の第5回(福井新聞では2002年8月6日に掲載)によれば「『30年後も必要ないということなら21世紀に出番はない』と東京電力関係者は厳しい見方」を示していますが、だとすれば、22世紀にも出番はないといえましょう。
 『原子力eye』誌2004年12月号の座談会で、電気事業連合会の田中治邦原子力部長は、こう発言している。「FBRが全面的に実用化されるのは今世紀半ばを過ぎるかと思いますので、それに向けての研究は民間企業が投資しにくい状態にあります。民間の電力会社が今、原子力に対して果すべき任務というのは原子力の生き残りであり、その間、国にはやがて日本にとって必ず必要になるFBRの研究開発に力を入れていただきたいと考えます」。
 第16回策定会議でも藤委員から、国が主体となって開発を進めることを期待するとの電気事業者としての意見表明がありました。電力会社が高速増殖炉開発に投資できる環境になく、開発の任務は果せないといっているものが実用化することはあり得ないのではないでしょうか。
例えば、「もんじゅ」の建設費5800億円(当初360億円と見積もられていた)は、建設単価200万円/kWeであり、軽水炉30万円/kWeと比較すると約7倍にも達しています。これから推察するに、高速増殖炉の発電コストを軽水炉と比肩しうるほどに下げることは極めて困難と考えられます。
高速増殖炉使用済み燃料の再処理からは核兵器級のプルトニウムが抽出されますが、現状の国際的な流れからすれば、とういて認められることではないと考えます。仮に将来における可能性があると主張する人は、それはどのような状況かを提起し、それは議論される必要があると考えます。

 吉岡委員の第16回策定会議発言メモに「高速増殖炉サイクル技術は、実用化研究の対象ではない。1997年の高速増殖炉懇談会で、実質施的にそのような趣旨の決定がなされたと認識している」(P.12)とありました。傍聴を通し、また報告書を読んだ私も同様の認識を持ちました。現行の「実用化戦略調査研究」は、強いていえば高速増殖炉炉型戦略研究というべきもので、とても「実用化に向けての研究開発」ということはできないのではなでしょうか。高速増殖炉研究開発から「実用化」の修飾語を取るべきだと考えます。
 高速増殖炉開発がウラン資源の飛躍的有効活用につながらず、実用化の見通しもないことから、高速増殖炉開発を「有力な選択肢」として位置づけを外し、「実用化に向けての研究開発」との位置づけも外すべきと考えます。

2. 「もんじゅ」の改良工事および運転再開の意義はない
 「もんじゅ」の役割として「発電プラントとしての信頼性実証」と「ナトリウム取り扱い技術の確立」が掲げられています(第16回策定会議資料第5号)。しかし、
「発電プラントとしての信頼性実証」は、高速増殖炉実用化の見通しのたたない中で、急いで行なっても、先へつないでいくことができず意味をもちません。配布資料に照らしてみても、実用炉の導入が数十年先に描かれており、現時点の発電プラントの信頼性実証が意味を持つとは考えられません。
高速増殖炉開発の成果に関する核燃料サイクル開発機構の説明では多くの「成果」が強調されています。これらの成果を考えれば、「ナトリウム取り扱い技術の確立」は達成されているのではないでしょうか。加えて、1995年の事故以前にはナトリウム取り扱い技術は問題なしという姿勢でした。例えば、「スーパーフェニックスの今のナトリウム問題は、本質的な問題だとは思わない。我々は十分な技術的経験を積んでいる」(堀雅夫動燃プロジェクト参事=当時、原子力産業新聞1993年4月29日号)さらに「ナトリウムは空気、水と遮蔽しておきさえすれば、すなわち、密封容器内で取り扱えさえすれば危険性が全くない極めて取り扱いの容易な物質である」「万一もれた場合にも問題は生じない」(動燃広報室=当時「NHKスペシャル放映にたいする検討項目および見解」1993年5月25日)などです。‘95年の「もんじゅ」事故における温度計鞘管の設計ミスは「ナトリウム取り扱い技術の未熟さ」を示したものとの見解を核燃機構からは聞いたことがありません。
安全性の問題や経済性の問題が議論されていません。名古屋高裁判決が認めた「もんじゅ」の危険性の問題があります。加えて、改造時のミスや改造箇所と既設箇所とのミスマッチによるトラブルの恐れもあります。10年以上も止まっている「もんじゅ」を動かすことの危険性もあります。本策定会議でもこの点を議論するべきだと考えています。
 「もんじゅ」の運転再開のためには改造工事が必要であり、見込みでも200億円の経費が必要だといわれています。最高裁の判決によっては、それがまるまる無駄になるかもしれません。質問7に改良工事に関わる費用やその後の経費を問いましたが、「発電プラントとしての信頼性実証」や「ナトリウム取り扱い技術の確立」がこれらの支出に見合う成果といえるのでしょうか、はなはだ疑問です。
 また、核燃料サイクル開発機構と日本原子力研究所の統合後、職員の約500人を減らすという政府の方針の一方、「もんじゅ」の運転再開には100人程度の増員が必要(殿塚核燃料サイクル開発機構理事長、2005年1月7日付け朝日新聞福井版)との無理もあります。
したがって「もんじゅ」に係る現時点での成果をまとめ、今後の開発投資をやめるほうが妥当だと考えます。

3. 今後の議論の進め方として、第16回策定会議における吉岡委員の意見書にありました「原子力発電政策についての政策総合評価」の実施に賛成します。ぜひ、本策定会議で行なってください。
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追加質問
事前に事務局に質問を出しましたが、それは後に添付するとして、ここでは先に追加質問をいくつか提出します。
1. 第16回策定会議の資料では、高速増殖炉サイクル、高速炉・核燃料サイクル、高速炉増殖炉サイクルの3通りの表現が見られます。時に混同しているようにも受け取れますので、これらの表現の意味を説明してください。
2. 高速増殖炉懇談会報告書に「原子力関係者以外の人々を含め広く国民の意見を反映した、定期的な評価と見直し作業を行なうなど、柔軟な計画の下に、進められることが必要です」とありますが、「広く国民の意見を反映した」定期的な見直し作業は、これまでどのように取り組まれてきたのでしょうか? 具体的に示してください。
3. 「もんじゅ」増殖比が1.17~1.22と評価されています(第16回策定会議参考資料2、2-7)ここで言及されている性能試験で得られた反応率分布データを公表してください。
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高速増殖炉関係の質問事項
2005.1 .26
原子力資料情報室 伴英幸

1. 「高速増殖炉」か「高速炉」か
 第16回策定会議に事務局が提出した第4号資料では「高速増殖炉」、核燃料サイクル開発機構の参考資料4では「高速炉」とされている。
「究極の目的としては高速増殖炉を目指すが、当面はプルトニウムを増やす必要はない」とか「『高速増殖炉』が高速炉の特徴のすべてではない」とかの説明も聞くが、「高速増殖炉」開発の失敗を「高速炉」開発と言い換えることで糊塗している印象を拭えない。
 2000年長計策定会議においても「高速増殖炉」か「高速炉」かの議論が行なわれた。たとえば、「我々も、プルトニウムを増やすために高速炉開発を行なうのではなく、将来のエネルギー源の問題を解決するために、さらには軽水炉や解体核から生じるプルトニウムの問題を解決するために行なうのである。こうした観点から表現を整理していただきたい(秋元委員)
 表現の整理というよりも、目指すべき点を明確に整理することだと考えるが、この点で、事務局提出の資料第2号「高速増殖炉サイクルの意義」では、ウラン資源の利用効率を高められることと高レベル放射性廃棄物中の長期残留放射能を低減できることが意義とされているが、そのどちらを重視するのか、あるいはどちらも同等とするのか? 増殖を重視すればマイナーアクチニドなどの不純物はない方がよいことを考えると両者は対立する方向であり、具体的な実用化計画に違いが出ることから、議論するためには「意義」を明確にしてほしい。
2. 2000年長計に「高速増殖炉サイクル技術はそのような技術的選択肢の中でも潜在的可能性がもっとも大きいものの一つとして位置づけられる」とあるが、比較対象となった技術的選択肢および、その中で潜在的可能性が最も大きいと分類された技術について列挙してほしい。
3. 第16回策定会議で示された参考資料1の「各高速増殖炉の設計結果の比較」をみますと、資源有効利用の観点から「複合システム倍増時間」が示されていますが、その計算根拠(諸前提、入力数値、計算式など)を示してほしい。
4. 同参考資料3にまとめられている投資効果にかんする詳しい論文があれば示してほしい。
5. 技術の継承について
技術の継承の必要性が折に触れ語られるが、2005年1月7日付朝日新聞福井版によれば、殿塚核燃料サイクル開発機構理事長は、「運転に携わった経験者は定年などで3分の1に減っている」と述べている。もんじゅ事故当時とそれ以降で、何人から何人に減ったのか具体的な数値を示してほしい。ここでは運転に携わった経験者についてのみ言及されているが、同様に、核燃機構での高速増殖炉開発に携わった人員の変化についても数値で示してほしい。
6. 05年1月14日付福井新聞が報じたところによれば、核燃料サイクル開発機構は福井県の嶺南八市町村でつくる嶺南広域組合にJR小浜線利用促進事業の協力費として2001年度から年間7,400万円を負担していた。さらに、高速増殖炉「もんじゅ」の運転再開までは同額を負担していくと伝えている。核燃機構のどのような勘定科目から出されているのか、具体的に示してほしい。
 さらに、寄付行為が禁止されていることから名目を変えているようにも記事は読めるが、実態的に寄付行為ではないのか?
7. 「もんじゅ」再開の意義が書かれているが、それに必要な費用は明確でないので、明確にしてほしい。またこれに関して、03年1月28日付日経新聞に「停止から7年、維持費900億円越す、廃炉でも1700億円必要に」との小見出しで、以下の記述がある「試算では、2020年に1兆円まで膨らむが、売電収入はわずか1800億円。廃炉の道を選んだとしても解体に1700億円かかる」。これは文科省の試算のようであるが、詳しい資料を出してほしい。
8. 「もんじゅ」の反応度価値・反応度係数について
炉心設計解析の精度と設計の妥当性を確認したと言うが、1994年11月2日付赤旗には「もんじゅ炉心に何がおきたか、設計と違う試験結果、技術の未熟さ明るみに」との見出しで炉心反応度が設計値と大きく食い違っており、設計ミスだと指摘されているという。同報道によれば「試験運転での炉心の反応度は0.037~0.057(平均0.04)と設計されているはずでした。ところが、実測値は0.032。設計値と大きく食い違っていることが分かりました。」「プルトニウム燃焼の専門家らは『安全審査では、過剰反応度のうち、プルトニウムが運転期間中の核分裂反応で低下する分を0.025とみこんで設計している。一部のアメリシウムがこれと同じような過剰反応度の大きな低下をひき起こすこというのはおかしい。基本的な炉心(198体燃料集合体)の設計ミスだ』と指摘します。」 これについてはその後どのように解明あるいは解決されたか、説明を求める。
9. また、『原子力工業』1986年2月号に実験炉「常陽」でMK-I炉心の性能試験において「予測を上回る出力係数が一度だけ観測された」MK-II炉心の「平衡炉心に至る過程で出力係数が減少する傾向があった」との記述がある。これらの原因はきちんと解明されているのか?
10. 海外の高速(増殖)炉の高稼働が説明されていたが、稼働率でなく設備利用率で示してほしい。
10-1. フランスのスーパーフェニックスの高稼働は、極めて疑問。利用率の実績を示してほしい。
10-2. ロシアのBN-600ではモジュール方式の蒸気発生器が採用されており「故障が発生しても、その部分を隔離すれば運転継続が可能な点も特徴。それが設備利用率の高い要因ともなっている」と、1993年3月8日付電気新聞にある。また、「日本では、一台でも故障すれば運転を停止するが、ロシアでは運転を続けているということで、安全に対するフィロソフィーの違いも感じさせる」という。この説明で正しいか。
11. ロシアの高速炉開発の動機は、他国と違うところがあるのではないか?
1993年8月12日付日経産業新聞の記事によれば、イギリス貿易産業省原子力エネルギー部門の担当者は「西側の条件下では増殖炉の経済性は存在しない」と述べたと言う。「ロシアのように多数の原子力技術者を抱える国で失業の問題を考慮に入れれば増殖炉は採算に乗るが、西側諸国はその範疇にないとの論理だ」と武田忍記者は書いている。また、96年4月16日付東京新聞では、核兵器の解体によって取り出される大量の軍事用プルトニウムの処理が「主目的」だとするロシア原子力省シドレンコ次官(当時)の見方を紹介している。